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O plus E誌 2004年5月号掲載
 
 
『ビッグ・フィッシュ』
(コロンビア映画/SPE配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年3月16日 リサイタルホール(大阪)  
  [2004年5月より全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  二人一役で織りなす魔法のような物語  
   不思議な映画だ。『コールドマウンテン』同様ベストセラー小説の映画化作品で,やはり愛の物語だと聞いていたが,だいぶ味つけは違う。こちらの原作は,1998年に出版されたダニエル・ウォレスの「BIG FISH: A Novel of Mythic Proportions』(邦訳:河出書房新社刊)だ。この原作はまったく読んでいないが,この映画には脚本以上に監督の感性がまともに表われていると感じられる。近年,製作者(プロデューサ)の発言力が強くなっているとはいえ,やはり「映画は監督のもの」という言葉を実感させる一作だ。
 スティーブン・スピルバーグも監督候補に上がったというが,最終的に選ばれたのは『ビートルジュース』(88)『マーズ・アタック!』(97)の鬼才ティム・バートンだ。前作『猿の惑星』(2001年8月号)は,ややもたついたバートンらしくない映画とイマイチの評価だったが,かつての毒気のある冴えを期待したいところだ。結論を先に言えば,T・バートンの才気と成熟を満喫できる映画と言えるだろう。
 邦訳本の副題が「父と息子のものがたり」となっているように,この映画の主題は「父子愛」だ。「息子の生まれた日に釣った巨大魚」の話や,未来を予見する魔女,身長5mの巨人,シャム双生児の歌手…など荒唐無稽なお伽話を語り続けるエドワード・ブルームに,息子のウィルは激しく反発し絶縁状態を続けている。ある日母サンドラからの電話で父が余命いくばくもないことを知り,ウィルが故郷に向かうところから物語は始まる。
 T・バートンの真骨頂は,ただのウエットなヒューマン・ドラマでなく,エドワードの回想譚と現在をシンクロさせて魔法のような映画に仕上げたところにある。特に回想部の雲を掴むような話と独特の軽妙なタッチは,彼の面目躍如だ。それでいて,しっかりとした人間愛の映画の品格を保っている.過去と現在とのバランス,コントラストが絶妙だ。通や玄人受けすること必定だが,一般観客がこの映画をどう受け入れるかが興味深い。
 もう1つのポイントは,老いたエドワードに名優アルバート・フィニーを,回想シーン中の若き日のエドワードには進境著しいユアン・マクレガー(『スター・ウォーズエピソード1』(99)『ムーラン・ルージュ』(01)など)をと,2人の個性派俳優を配したことだ。 一人二役ならぬ,この二人一役の組み合わせが秀逸だ。E・マクレガーは一作ごとに好い俳優になって行くことが実感できるし,A・フィニーは『エリン・ブロコビッチ』(00)以上の熱演で,彼の晩年の代表作となるだろう。
     
  鬼才ティム・バートンはCG演出が苦手?  
   さて本論のVFXだが,エドワードの奇想天外な回顧譚には,かなりの特殊効果,視覚効果が使われている。表題通り,いきなり水中で大きな魚がうごめくところから始まる。巨大魚の大半はCG映像だろうが,エドワードが抱えているシーンなど,一部はアニマトロニクスかとも思われる。
 コロンビア映画作品だから,主担当はもちろんSony Pictures Imageworksだが,Moving Picture Co.やStan Winston Studioも参加している。蜂の大群,巨人,木の枝,大砲から発射される兵士,旧式の飛行機や花火等,視覚効果は満載だが,特筆すべき新しい技術は見られない。嘘っぽく荒唐無稽な話に見せれば良いので,あまりリアル感を出す必はない。それならせめて,もう少し面白く描けなかったのかと思う。むしろ,印象的なのはエドワードがサンドラに求婚する水仙畑のシーン(写真1)や真っ赤なクルマが木の上に乗っかるシーンの方だろう。バートン演出では,実物をメインに意外性のある撮り方をしたシーンが活き活きとしていると言える。
 シャム双生児の歌手(写真2)は,ディジタル・コピーかと思ったが,これは本物の双子俳優を起用し,下半身だけCG加工したようだ。ならば,もっとその視覚効果を強調した演出も可能かと思うが,意外と淡泊な表現に留まっている。最もVFXの出番が多かったのは,巨人のカーリーの登場シーンだろう(写真3)。足の大きさではギネスブック登録されている大男俳優(マシュー・マグローリー)を起用しているが,いくら何でも身長は5mもない。当然ディジタル合成による出番が主だが,遠近法や何か補助器具でより背を高く見せているシーンも見受けられた。
     
 
写真1 この見事な庭一面水仙は本物   写真2 実在の双生児の下半身をディジタル加工
 
 
 
   過去の監督作品も含めて考えてみても,ティム・バートンはCG映像による表現が好みではないようだ。『バットマン リターンズ』(92)『スリーピー・ホロウ』(00)等,CG多用作品は見受けられるのだが,あまり凄いなと感じたことはない。彼は,特殊メイクや実物の特撮に比べて,CG表現のイマジネーションが不得手なのではないだろうか。S・スピルバーグやR・ゼメキスなら,もっと効果的な使い方をしたのにと感じさせる。
 本映画時評ではこの点を若干減点したが,映画そのものの出来は素晴らしい。脇役陣では,奇妙な詩人を演じるスティーブン・ブシェミのとぼけた味,魔女を含め多数の役で登場するヘレナ・ボナム=カーターの芸達者ぶりも,バートン演出で冴え渡っている。一方,長男ウィル役のビリー・クダラップは,あまりにも地味で影も薄かった。いや,この平凡さが父エドワードの個性を際立たせる役を果たしているから,このキャスティングもティム・バートンの計算のうちだろう。
     
 
写真3 VFXの最大の出番は,身長5mの巨人の登場シーン
 
 
 
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