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O plus E誌 2005年8月号掲載
 
 
ハービー/機械じかけのキューピッド

(ウォルト・ディズニー映画
/ブエナビスタ配給

(C)Disney Enterprises, Inc.
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語   2005年6月28日 OS劇場[完成披露試写会(大阪)]  
  [7月30日よりみゆき座ほか全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  四半世紀後の再登場だが,切れ味は復活せず  
 

 1969年アメリカ映画の最大のヒットとなり,1980年までに4作が作られた『ラブ・バッグ』シリーズの復活版だ。人間のように心をもったフォルクスワーゲンのハービーが活躍するラブ・コメディで,これはリメイクというより,懐かしのハービー君の久々の再登場作品である。あの頃のディズニー映画はわくわくするような躍動感に溢れていた。『うっかり博士の大発明/フラバァ』(61)もしかりで,奇想天外なアイデアを,映画ならではの撮影技術で楽しく見せてくれた。最新のCG/VFXをもってすれば,これがさらにどう化けるかが楽しみだ。
 この映画の監督は,昨年デビューしたばかりの女性監督アンジェラ・ロビンソン。主演は18歳のアイドル女優リンジー・ローハンで,全米ティーンのファッション・リーダー的存在だそうだ。この映画は,家族連れに加え,若い女性もしっかりターゲットに見込んでいる。それが証拠に,Webページもプレス資料もピンク一色のデザインで迫っている。
 物語は,レーサー一家に生まれ,父親に反対されながらも自分も女性レーサーをめざすマギーに,ハービーが驚くべき力を発揮し NASCAR主催のカー・レースで大活躍するというもの。マギーの恋人トリップ役はマット・ディロン,父親レイ・ベイトン役は『バットマン』(89)のマイケル・キートンが演じている。ハービーは恋の成就の仲介役というより,自立する女性のアシスタントの役割の方が大きい。
 この映画も前半は快調で,昔観たハービーを思い出しつつ,にやりとするシーンが続く。まさにディズニー・タッチだと思える懐かしい語り口だ。いきなりビーチ・ボーイズの "Getcha Back"が流れる画面からも,西海岸の明るさが伝わっている。では,四半世紀ぶりの再登場なら,中盤以降CGを効果的に使って楽しさも倍増かといえば,これが一向にスケールアップして来ない。
 なるほど,スケボーやスノボーの動きを取り入れて,ハービーがガードレール上を疾走したり,宙返りしたりする。これはデジタル技術ゆえの VFXシーンだ。車体全体が漫画的に変形する場面なども,CGあってこそのシーンである。ところが,奇想天外な楽しさを強調するのでもなければ,レースものらしいクライマックスでの盛り上がりもない。もっと抱腹絶倒のシーンや手に汗握るシーンがあってもいいと感じるのに,映画そのものが中途半端なのである。
 ハービーの表情は,ヘッドランプ2つとバンパーの動きで作られている。これはメカ式のリモコン操作が大半かと思っていたが,エンドロールには CIS Hollywood 初め10社近いVFXスタジオの名前があった。何とILMも参加している。想像以上にCGを駆使したシーンが多かったのだろうが,さほど効果的に使われていなかったということだ。
 その理由の1つは,女性監督のせいか全体に大人しく,これでもかという激しい極端な表現がないためだろう。『アイランド』ほどの超過激アクションは求めないまでも,最近のアクション・シーンに慣れた観客には物足りなく感じてしまう。慣れとはおそろしいものだ。
 もう1つは,心はもっていても言葉は話さず,クルマとしての性能以上の能力は発揮できない「ハービー」という存在の制約だろう。いっそ,何かの拍子に生まれたハービーの子孫だという設定にして,超能力を持たせた方が良かったと思う。もっと新しい荒唐無稽さには新しいヒーローが必要なのに,四半世紀前のヒーローには思い切った活躍がさせられなかった。これが切れ味の悪さとして表われている。

 
 
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