1969年アメリカ映画の最大のヒットとなり,1980年までに4作が作られた『ラブ・バッグ』シリーズの復活版だ。人間のように心をもったフォルクスワーゲンのハービーが活躍するラブ・コメディで,これはリメイクというより,懐かしのハービー君の久々の再登場作品である。あの頃のディズニー映画はわくわくするような躍動感に溢れていた。『うっかり博士の大発明/フラバァ』(61)もしかりで,奇想天外なアイデアを,映画ならではの撮影技術で楽しく見せてくれた。最新のCG/VFXをもってすれば,これがさらにどう化けるかが楽しみだ。
この映画の監督は,昨年デビューしたばかりの女性監督アンジェラ・ロビンソン。主演は18歳のアイドル女優リンジー・ローハンで,全米ティーンのファッション・リーダー的存在だそうだ。この映画は,家族連れに加え,若い女性もしっかりターゲットに見込んでいる。それが証拠に,Webページもプレス資料もピンク一色のデザインで迫っている。
物語は,レーサー一家に生まれ,父親に反対されながらも自分も女性レーサーをめざすマギーに,ハービーが驚くべき力を発揮し NASCAR主催のカー・レースで大活躍するというもの。マギーの恋人トリップ役はマット・ディロン,父親レイ・ベイトン役は『バットマン』(89)のマイケル・キートンが演じている。ハービーは恋の成就の仲介役というより,自立する女性のアシスタントの役割の方が大きい。
この映画も前半は快調で,昔観たハービーを思い出しつつ,にやりとするシーンが続く。まさにディズニー・タッチだと思える懐かしい語り口だ。いきなりビーチ・ボーイズの "Getcha Back"が流れる画面からも,西海岸の明るさが伝わっている。では,四半世紀ぶりの再登場なら,中盤以降CGを効果的に使って楽しさも倍増かといえば,これが一向にスケールアップして来ない。
なるほど,スケボーやスノボーの動きを取り入れて,ハービーがガードレール上を疾走したり,宙返りしたりする。これはデジタル技術ゆえの VFXシーンだ。車体全体が漫画的に変形する場面なども,CGあってこそのシーンである。ところが,奇想天外な楽しさを強調するのでもなければ,レースものらしいクライマックスでの盛り上がりもない。もっと抱腹絶倒のシーンや手に汗握るシーンがあってもいいと感じるのに,映画そのものが中途半端なのである。
ハービーの表情は,ヘッドランプ2つとバンパーの動きで作られている。これはメカ式のリモコン操作が大半かと思っていたが,エンドロールには CIS Hollywood 初め10社近いVFXスタジオの名前があった。何とILMも参加している。想像以上にCGを駆使したシーンが多かったのだろうが,さほど効果的に使われていなかったということだ。
その理由の1つは,女性監督のせいか全体に大人しく,これでもかという激しい極端な表現がないためだろう。『アイランド』ほどの超過激アクションは求めないまでも,最近のアクション・シーンに慣れた観客には物足りなく感じてしまう。慣れとはおそろしいものだ。
もう1つは,心はもっていても言葉は話さず,クルマとしての性能以上の能力は発揮できない「ハービー」という存在の制約だろう。いっそ,何かの拍子に生まれたハービーの子孫だという設定にして,超能力を持たせた方が良かったと思う。もっと新しい荒唐無稽さには新しいヒーローが必要なのに,四半世紀前のヒーローには思い切った活躍がさせられなかった。これが切れ味の悪さとして表われている。 |