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O plus E誌 2005年8月号掲載
 
 
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『ロボッツ』
(20世紀フォックス映画)
      (C)2005 Twentieth Century Fox  
  オフィシャルサイト[日本語][英語    
  [7月30日より日劇3ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2005年6月17日 厚生年金芸術ホール[完成披露試写会(大阪)]  
       
     
     
 
 
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『マダガスカル』
(ドリームワークス映画/ アスミック・エース配給)
      (C)2005 DreamWorks Animation LLC and DreamWorks LLC
Madagascar TM DreamWorks Animation LLC
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語    
  [8月13日より渋谷東急他全国松竹・東急系東宝にて公開予定]   2005年6月30日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
         
 
   
  続々と製作されるフルCGアニメの最新作2本  
 

 セル調アニメを駆逐してしまって,フルCGアニメの快進撃が続いている。本家本元のディズニー&ピクサーは『Mr. インクレディブル』でアカデミー賞連覇を果たしたが,矢継ぎ早にこの秋最新作『Cars』を公開する(日本公開は来年春休み)。一作に数年かけていた頃とは今昔の感だが,それだけコンピュータ・パワーもCGアニメータ達の数も増え,制作体制も整備されたということだ。
 その間隙をぬって,この夏対抗勢力の 2作品が登場した。いずれも公開週に楽々と全米の興収NO.1ヒットとなるからこの人気は本物だ。遺恨の人J・カッツェンバーグ率いるDreamWorks Animationは2チームもっているだけに更なる勢いで,『シュレック2』(04年8月号)『シャーク・テイル』(05年3月号)の記憶も新しいうちに,今度は動物園を逃げ出した動物たちを主役にした『マダガスカル』を送り込んできた。今回は『シュレック2』のPDIチームが主担当のようだ。
 もう一方の『ロボッツ』は文字通り,擬人化したロボットたちが主人公の物語で,人間は登場しない。これは『アイス・エイジ』(02年7月号)で脚光を浴びたクリス・エッジ率いるブルー・スカイ・スタジオの作品で,フルCG長編アニメの第2作目となる。ではまず,こちらの方から論じよう。
 小さな田舎町の貧しい皿洗いロボット夫妻の子供として生まれた男の子ロドニーは,偉大な発明家ビッグウェルド博士に憧れ,自分も立派な発明家になることを志す。ロボットの赤ん坊が生まれ,彼が年々育つというのも,考えれば妙な話だが,それはご愛嬌だ。やがて故郷を後に大都会ロボット・シティに向かったロドニーは,労働者階級の町で人々と楽しく暮らしながらも,大企業内の権力争いと陰謀に巻き込まれ,悪と戦う…という設定だ。物語は単純な勧善懲悪,立身出世ものだが,ファミリー向きだからその点は我慢しよう。ところで,ロドニーと聞くと, MITの著名なロボット学者ロドニー・ブルックスを思い出すが,彼を知る人がちなんで付けたのか,偶然の一致なのかは分からない。
 CGのレベルはといえば,当初この映画の予告編を観た時,一瞬これは金属製ロボットのコマ撮りアニメなのかと思ってしまった。それくらいリアリティは高い。もともとレイ・トレーシングを得意とするスタジオなので,金属製のメカはお手のものだ。ガラス製の目玉の光沢,バネや蝶番などの質感などはさすがだと唸らせる。そこに,金属表面の傷,かすれ,シミ,錆などを加えて一層の質感を与えている(写真1)。これは素晴らしい。
 登場するロボットのデザインが多彩かつ秀逸で,キャラクタ・デザインにかなり力を入れていることが分かる。大きなお尻のファンおばさんは,ピクサー社の名作短編『Tin Toy』(86)のオモチャを彷彿とさせる。ある種のオマージュだろうか。一方,ロボット・シティの景観(写真2)や構図を担当するチームも負けていない。パレードもいいし,ドミノ倒しやそれに続くシーンの躍動感も印象に残る。ただし,部屋の中などは,描き込まれた要素が多く,ちょっと目が疲れる。もう少しシンプルな方が物語に集中しやすい。
 大阪での完成披露試写会では,日本語吹替版が上映された。筆者は吹替版が結構好きなのだが,この日本語版は感心せず,あまり物語展開にも乗れなかった。セリフ数が多く,吹替えが映像のテンポと合っていないからだろう。オリジナルの英語版は,ユアン・マクレガー,ハル・ベリー,ロビン・ウィリアムズといった豪華メンバーなので,そちらを聴いてみたいところだ。

 
     
 
 
写真1 ボディの傷,シミ,かすれ等が実にリアル   写真2 これがロドニーが上京するロボット・シティ
 
 
(C)2005 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
 
       
  背景のアーティスティックな描写に感嘆  
 

 対する『マダガスカル』は,ニューヨークのセントラルパーク動物園の動物4匹が主人公で,外の世界に憧れて脱出を試みるが,ひょんなことからアフリカのマダガスカル島に漂着する。大都会育ちで人間に飼い馴らされ,エアコン,ご馳走,エステ等大好きな彼らが,大自然の生存競争の中で見せる戸惑い,本能と友情の葛藤が主テーマとなっている。現代社会の都会人の生活を風刺していることは言うまでもない。ディズニー風の心温まるホームドラマじゃないぞという,ドリームワークスらしい捻りだが,今回はそのスパイスも一段と利いている。
 草木,水の処理がことさら見事な PDIチームだが,ポリゴン数は一段と増しているなと感じるCG描画力だった。ここまで量産し始めたなら,毎度々々褒めてばかりもいられないぞと心していたのだが,やはり感心してしまう。まず,動物園やさらにその背景となるNYの街並みのアーティスティックなタッチが素晴らしい(写真3)。グランドセントラル駅の描写は溜息が出るほどだし,地下鉄,船,大波も素晴らしい。それに合わせた音楽の挿入も見事だ。マダガスカルに来てからは,波と砂浜が美しく(写真4),雲や炎の表意力もさすがだ。
 背景チームが競って芸術性を発揮している前面に,徹底してデフォルメしたキャラクタを登場させている。1950年代のコミックの味とかつてのセルアニメ独特の誇張した動きを再現した復古調のつもりだろう。筆者はこの大げさなキャラに乗れず,なかなか感情移入できなかった。主役はライオンのアレックスで,相棒はシマウマのマーティ,その脇をキリンのメルマンとカバのグロリアが固めるというキャスティングなのだが,この4匹の性格付けの違いを理解するのに少し時間がかかった。後半盛り上がり,ストーリー展開も巧みなだけに,前半の落ち着きのなさが少しもったいない。多数の挿入歌の中で,ルイ・アームストロングが歌う"What A Wonderful World"が極めて印象的だった。
 もはやフルCGアニメというだけで特別視し,表現力の向上だけを論じている時代ではなくない。ストーリーも演出力もスクラッチで実写映画と勝負する時期に来ている。よって,毎回最高点(☆☆☆)は与えないが,それを意識してもなお,この2作品は十分水準以上をキープしていると評価できる仕上げだ。       

   
     
 
 
写真3  NY動物園も背景のビルも見事なタッチ
 
写真4  砂浜,海,空の描写がすばらしい
 
 
(C)2005 DreamWorks Animation LLC and DreamWorks LLC.
Madagascar TM DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.
 
   
     
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