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O plus E誌 2004年4月号掲載
 
 
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『ピーター・パン』
(ユニバーサル映画
&コロンビア映画
/SPE配給)
 
 
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年3月2日 ナビオTOHOプレックス(完成披露試写会)  
  [4月GW全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
     
  あの名作の実写映画版は,VFX1,200カット  
   表題だけ見ると誰もが,あの名作アニメの特別編集版かと思うだろうが,北米はユニバーサル映画,他はコロンビア映画が配給を担当する新作の実写版映画である。ディズニーのセル調アニメ『ピーター・パン2/ネバーランドの秘密』(2003年1月号)が不調だったのに,何を今さらという感じだが,もともと舞台劇用に書かれた作品で,その初演から今年が100周年だそうだ。なるほど,それなら最新のCG/VFX技術を駆使して,舞台でもアニメでもない実写映画にチャレンジしようという意図は理解できる。問題は,あのディズニー・アニメの強い印象を払拭できる作品に仕上がっているかどうだ。
 監督はオーストラリア出身のP・J・ホーガン,脚本は『コンタクト』(97)のマイケル・ゴールデンバーグと小粒だが,製作陣には『グレムリン』(84)『グーニーズ』(85)のダグラス・ウィック,アカデミー賞7作品を生み出し,『スチュアート・リトル』(00)『同2』(02)を手がけたパトリック・マコーミックらの名がある。さらに,実業家のモハメド・アル=ファイド氏の名も製作総指揮の中にある。ダイアナ元皇太子妃と共に事故死したドディ・アル=ファイドの父親である。映画プロデユーサであったドディの代表作にスピルバーグの『フック』(91)があるから,その追悼の意も託されているという。要するに,それだけ製作者の企画意志の強い作品だということだ。
 これまでアニメ・キャラが主で,舞台でも女性が演じてきたピーター・パン役を,初めて少年が演じることになり,13歳の少年ジェレミー・サンプター(写真1)が抜擢された。お相手のウェンディー役には,何百人という応募者の中からロンドン在住のレイチェル・ハード=ウッドが選ばれた。イギリスらしい香りのする少女だ。
 初演以来の伝統で,フック船長とダーリング氏(ウェンディーの父親)の二役を演じるのはジェイソン・アイザックス。『パトリオット』(2000年9月号)で敵役の英国軍将校を,『ウィンドトーカース』(2002年9月号)でニコラス・ケイジの上官を演じたベテラン俳優だ。年若い2人にはそれほどの演技は期待できないから,このフック船長の役目は重要で,実際クレジットの最初に名前が出てくる。ダーリング夫人は,『シックス・センス』(99)のオリビア・ウィリアムズ。素晴らしい美貌のママ役だ。そして,当初フルCGで描く予定を変更して,妖精ティンカー・ベルに選ばれたのは,フランス女優のリュディヴィーヌ・サニエ。あの『8人の女たち』(02)の1人で,欧州の各種映画祭で主演女優賞と獲った実力派だ。
 物語や登場人物の役割は今さら説明する必要もないだろう。改めて観てもよくできた物語だ。アニメ版にはなく,舞台版ならではのシーンも加えられているというが,いたるところでディニー・アニメのシーンを思い出してしまい,比べてしまう。勿論,そうされること意識した仕上げの作品だ。
 その企画に見合うだけの視覚効果は用意されているのかと言えば,ILMを中心に,Digital Domain,Sony Pictures Imageworksが脇を固め,中堅どころが数社続き,R!OTからWeta Workshopの名前も見られた。『マイノリティ・リポート』(2002年11月号)のスコット・ファーラーがVFXスーパーバイザで,全体では1,200カットに及ぶ。そんなにあるとは見えなかったが,視覚効果的にも見どころが多い作品であることは確かだ。
 右手の先がないフック船長は勿論ディジタル処理で消したのだろうし,彼を襲うワニの大半はCGだろう。ロンドンの空を照らす大きな月も,空に舞い上がる海賊船もCG映像ならではの出来栄えで素晴らしい。その画像データがスチル写真として提供されないのが残念だ。
 ダーリング家の窓から見えるロンドンの街やネーバーランドは,リアリティを出さず,むしろ意図的に作り物っぽい感じを強調している(写真2)。これは,模型かディジタルのペインティングなのか,舞台劇の大道具の感覚に近い。その点では『ムーラン・ルージュ』(2001年11月号)に似た雰囲気を醸し出している。それもそのはず,撮影監督は同作品でアカデミー賞にノミネートされたドナルド・M・マッカルパインだった。それじゃ,似ていて当然だ。
 
     
 
写真1 主人公のピーター・パンに抜擢されたのは,13歳のイケメン少年ジェレミー・サンプター

写真2 これがこの映画のネバー・ランド。この作り物感覚は意図的。

 
     
   VFXの主役は,何といってもティンカー・ベルだ。実写中心とはいえ,羽や光り輝く妖精の粉,縦横無尽に飛び回る様は,ディジタル視覚効果ならではの描写だ(写真3)。可能な限りサニエが演じたが,顔から上だけサニエで身体はCGというシーンも少なくないという。それに対して,ぎこちないのはピーター・パンの空を飛ぶ姿や着地のシーンだ。よっこらしょ,という感じで降りてくる。舞台感覚でというには余りに稚拙すぎ,ワイヤー・アクションとしても出来が良くない。アニメに対抗するなら,ピーター・パンもティンカー・ベル並みの視覚効果で演出すべきだったろう。
 この実写版映画は成功かどうかと問われると,上記を除けば,映像としては合格点だ。感動を呼ぶかといえば,答えは難しい。アニメ版を知り過ぎているからだろう。いっそ『ムーラン・ルージュ』のようなミュージカル仕立てにした方が,ずっと楽しかったのにと思う。フック船長とウェンディーの対話シーンや「妖精はいる!」の大合唱は,想像しただけでもミュージカル向きだ。
 この実写のピーター・パンが魅力的か,私には評価できなかったが,隣の女子高生風の2人が「可愛いわねー。カッコイイわねぇー。実物を見たいわねぇー」と話していたから,この起用は成功なのだろう。彼女らにとっては忘れ得ぬ映画になったようだ。
 
     
 
写真3 VFXの主役ティンカー・ベルは,全身実写だったり,首から上だけ実写だったり縦横無尽     
 
 
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