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O plus E誌 2001年11月号掲載
 
 
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『ムーラン・ルージュ』
(20世紀フォックス映画)
 
(c)2001 TWENTIETH CENTURY FOX
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語   (2001年8月23日 20世紀FOX試写室)  
         
     
  極彩色の魅力満点のミュージカル  
   久々の素晴らしいミュージカル映画だ。『ダンシング・ヒーロー』(92),ディカプリオ版『ロミオとジュリエット』をヒットさせたバズ・ラーマン監督と彼のチームが完成させた国籍不明,時代不祥の豪華絢爛エンターテインメントである。
 ムーラン・ルージュといえば,パリ・モンマルトルの丘にあった伝説の高級ナイトクラブである。赤い風車が目印で,華やかなレビューとカンカンが売り物であった。国籍不明と感じるのは,ハリウッド資本の下でオーストラリア出身のラーマン監督が,同国出身のスタッフや俳優を起用して作った英語の映画だからだろう。主要キャストとスタッフの中にフランス人の名前は見当たらない。
 20世紀を目前に控えた19世紀末のパリの街,モンマルトルに集う貴族や芸術家,ダンサーやボヘミアン達を描き,画家のロートレックや作曲家のサティも実名で登場する。当時の舞台や衣装を再現しているのに時代不祥と感じるのは,挿入曲の大半が20世紀後半のよく知られたヒット曲だからだろう。ナット・キング・コール,マリリン・モンローから,ビートルズ,エルトン・ジョン,マドンナ,フィル・コリンズ,ホイットニー・ヒューストン,クィーン,ポリス,T-レックスの曲まで,様々なジャンルのスタンダードがちりばめられている。
 ストーリーは単純明快な男女の悲恋物語だ。クラブ経営の立て直しのため,投資家である公爵の独占物となることを求められる高級娼婦兼ダンサーのサティーンを演じるのは,『ピースメーカー』(97)『アイズ・ワイド・シャット』(99)のニコール・キッドマン。輝くばかりの容色と演技で,これほど見事な女優だったかと生つばを飲む。トム・クルーズと別れてから憑き物が落ちたかのような活躍ぶりで,この後も主演作が次々と待ちかまえている。
 対するは,彼女に恋する貧しい舞台作家クリスチャン役に,『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(99)で若き日のオビ=ワン・ケノービ役に抜擢されたユアン・マクレガー。どう見てもN・キッドマンと比べると格下で役不足と思われたが,恋する若者が彼女のハートを射止め成長するのと同期して,存在感を発揮し,物語の中盤以降は堂々と渡り合う好演だ。
 舞台ヒットのミュージカルの映画化ではなく,これは前2作も共同脚本を書いてきたラーマン監督とクレイグ・ピアースのオリジナル作品である。「ムーラン・ルージュ」という歴史的な存在を借りて単純な男女のラブ・ストーリーを語るのは,『タイタニック』(97)と同じ構図だ。選んだスタンダード曲の歌詞にセリフとしての意味を持たせているが,気取ったメッセージや人生訓はない。ミュージカルにはそれで十分だ。
 極彩色の舞台も衣装も踊りも楽しめる。この派手さを彩るのが,この映画のVFXだ。全体で約300ショット,その大半はリアルさの追及よりも誇張した表現に使われている。エッフェル塔からセーヌ川を渡ってモンマルトルのクリスチャンのアパートに至る夜のパリの街は,ミニチュアで作られたが,これをマット画とCGで強化している(写真1)。ややぎくしゃくとしたカメラの移動が少し古めかしく,ムーラン・ルージュと周りの建物,スモーク,夜空の星,輝くダイヤモンド,妖精等々,誇張と遊びの視覚効果がラーマン流演出を大いに助ける。ここでも,ミニチュアとマット画の古典的組み合わせに,ディジタル処理のペインティングが加わり,絵画的な効果を醸し出している(写真2)。映像的には,大人向きの『グリンチ』と言えようか。
 
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写真1 ミニチュア模型とCGで描かれた19世紀末のパリ
(c)2001 TWENTIETH CENTURY FOX
写真2 絵画風の模型と風景マット画が舞台装置のような印象を与える
 
     
  舞台劇を意識した映像作りとVFX  
 
60年,70年代のミュージカル・ファンにとってはたまらない魅力ですが,このギラギラした派手さは,若い人には受け入れられますかね?
曲が現代的で,場面にも合っているので,ついて行けますよ。ギャグのタイミングが面白く,テンポも良くて楽しめました。
フランス語でやって欲しかったけど,歌詞を考えると英語でも止むを得ませんね。最近のジェットコースター・ムービー的な味付けもありました。これは,昔のミュージカルにはないテンポです。
主演の2人は,歌も上手ですねぇ。
ニコール・キッドマンは,かつてのアン・マーグレットを彷彿とさせました。ユアン・マクレガーにも驚きです。ジェダイの戦士がラブ・シーンで「ユア・ソング」を歌うとはねぇ(笑)。
ちょっとクサかったけど,雰囲気は出てました。映像の色調は原色が強く,いかにもマット画,いかにも特撮という感じでしたが,これは意図的ですよね?
昔のテクニカラー調に仕上げて懐古的な感じを出そうとしたのでしょう。モンマルトルといえばロートレックですが,むしろドガの絵のような照明表現もありました。ディジタル処理でありながら古典的なマット画調を強調したり,CGなのに書き割り的なレイヤが見えるのは,舞台劇の感じを醸し出しているんですよ。
大道具とスポットライトの感じですね。そういえば,俳優の行動範囲も狭く,その点でも舞台風でした。
舞台感覚でありながら,映画でしか見せられない場面も多々ありました。エンディングの夜から朝の変化などはディジタル合成ならではの映像です。
映像も音楽も楽しく,パリ好きの日本の映画ファンにはヒットしそうな気がします。
 
   
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