O plus E VFX映画時評 2025年12月号

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』

(20世紀スタジオ/ウォルト・
ディズニー・ジャパン配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[12月19日より全国ロードショー公開予定]

(C)2025 20th Century Studios


2025年12月11日 T・ジョイ梅田[完成披露試写会(大阪)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


【評点と感想】圧倒的な質感, 凄まじいCG/VFXのバトルに驚嘆する

 世界同時公開のディズニー配給作品は,公開日直前にしか試写を見せてくれないので,今回もそうかと思ったが,1週間以上前の完成披露試写だったので,昨夜観てきた。印象が強い内に「評点と感想」のみを記しておこう。例によって,詳しいCG/VFX解説の完成版は後日掲載である。
 シリーズ3作目で,第1作から第2作までは13年もかかったのに,今回は3年後の公開である。噂では総製作費は前作以上の4億ドル超で,映画史上の最高額だそうだ。ジェームズ・キャメロン監督は,ポストプロダクションに2年以上かけると公言していたので,CG/VFXの充実度を大いに期待した。その半面,シリーズの折り返し点ともなると,つなぎの物語であり,中だるみとなることを懸念した。12月8日(米国時間)に発表された第83回ゴールデングローブ賞には,作品賞,監督賞はおろか,演技賞部門にも名前がなく,主題歌賞と興行成績賞の2部門だけのノミネートである。さすがに飽きられはじめたのか,物語も凡庸なのかと嘆息した。
 考えてみれば,この2部門ノミネートは不思議な話だ。米国では12月1日のハリウッド地区のDolby Theatre(旧Kodak Theatre)で先行上映されているので,主題歌(オリジナル歌曲)の出来映えは評価できる。解せないのは,興行成績賞(Cinematic and Box Office Achievement)である。映画業界への貢献度に感謝する意味合いの賞であるのに,映画館での一般公開前の作品に対して,どうやって興行成績を集計するというのだ? 前売り券の販売状況,前評判,過去の実績から,GG賞授賞式時での大ヒットは間違いなしと予測したということなのだろう。まだ開始後3年目の部門であるが,過去2年間で一般公開前の作品がノミネートされた例はない。もし興行的に失敗していたらどうする気なのだろうと心配する。
 公開は3年後であったが,物語としては,前作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22年Web専用#7)から数週間後という設定である。後半は美しい海が舞台であった前作に対して,本作の冒頭はパンドラ星の巨大な岩が宙の浮かぶお馴染みの「ハレルヤ・マウンテン」のシーンから始まる。前作で死んだはずの長男ネテヤムが弟ロアクと会話しているではないか。このシーンが何を意味するかは,観てのお愉しみとしておこう。本作では,新しい種族のアッシュ族が登場して部族間衝突,さらに地球人のスカイ・ピープルがパンドラ星の制覇を本格化させるということは概要を予習して理解していた。それでも前半は少し退屈した。
 例によってナヴィ族は長身で,独特の顔立ちであるから,なかなか見分けがつかない。名前も覚えにくい。これは物語の進行とともに,何とか覚えられるようになる。それでも,できれば前作までの人間関係の相関図を復習しておくことをお勧めする。2時間以上経過し,敵に捕えられた主人公のジェイクの脱出シーンから,物語展開にスイッチが入る。終盤の30分強は凄まじいラストバトルで,これでもかの物量作戦と素晴らしい映像の迫力に圧倒された。今年のメイン記事はの乱発気味なので,何とか欠点を見つけて評価を下げたかったのだが,CG/VFX史の生き証人を自負する当映画評としては,現時点での最高レベルと認めざるを得ない。  大阪での完成披露試写会はDolby Atmosでの3D上映であった。試写会で3Dメガネをかけるのは久しぶりのことだ。最近は2台のカメラでの3D撮影は稀で,2D→3D変換が普通だが,それでもJ・キャメロン監督の3Dはモノが違う。全く目は疲れないし,それでいて3D効果抜群の事物配置,アングル設定,カメラワークを選択している。大半がCGで描いているゆえ実現できる空間設計だと言える。
 3時間17分の上映時間はさすがに長過ぎた。せめて2時間45分程度に収めて欲しかった(第1作は162分,前作は192分)。今回は最後列の通路側に席を確保したのだが,これは失敗だった。後部にも出入口があるシアターであったので,途中でトイレに行く観客が多数いて,その度に暗幕を少し開けて出入りする。光が少し漏れるのが気になって仕方がなかった。せめてもう数列前にすべきであった。
 とは言うものの,明るい光の美しいシーンが何度も出て来て,これは堪能できる。よくぞここまで多数のキャラクターやアイテムを描くものだと感心する。J・キャメロンならではの拘りと自負心なのだろう。単に映画を愉しむだけなら,この上映時間にも堪えられるだろうが,CG/VFXシーンのメモ取りと物語展開の理解は両立しなかった。通常,CG/VFX大作は2度観てからメイン記事にするのだが,本作は最低3度観る必要がありそうだ。一般観客なら,上記のような予習をすれば1回で十分かもしれない。CG/VFXの出来映えを気にする当欄の愛読者には2回は必要だ。内1回は,IMAX級の大スクリーンでの3D上映を勧めておきたい。
 筆者の場合は,公開後に最低あと2回観てから完成記事を書く。論評欄の一般記事執筆を片づけ,『フランケンシュタイン』と『ズートピア』の完成記事を終えてからの着手になるだろう。年末は個人的にも多忙なので,Web掲載は年明けになるかも知れないと,予め断っておきたい。

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