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O plus E誌 2004年12月号掲載
 
 
『Mr. インクレディブル』
(ウォルト・ディズニー映画/
ブエナビスタ配給 )
 
      (c) Disney/Pixar  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月4日より丸の内ピカデリー他にて全国拡大公開予定]   2004年10月26日 梅田ピカデリー[業務試写会(大阪)] 2004年11月5日 Regal Gallery Place Stadium 14(ワシントンD.C.)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  やっぱり,つけてしまった☆☆☆  
   ピクサーが製作した6作目のフルCG長編アニメだ。ディズニーとの提携契約も残すところ来年秋公開の『Cars』だけになってしまった。試写会でも映画館でも冒頭にその『Cars』の予告編が流れ,そこにも『トイ・ストーリー』『ファインディング・ニモ』の製作会社であることが協調されている。ディズニー離れしてやって行くための準備にも怠りがないわけだ。
 今月号の他の2本が冒険的な制作方法であるのに対して,こちらは6本目ともなると,脚本も演出も手慣れたものだ。いつもようにコンピュータの高性能化,CG技術の進歩に同期して映像のクオリティもアップさせているので,前作に比べて注目すべき点が多々あり,いつも高評価を下してしまうことになる。上手いものだ。その手口は分かっていながら,この映画にもやはり最高点の☆☆☆をつけざるを得なかった。顧客満足度から行けば『トイ・ストーリー2』(00年 3月号)と同等で,『ファインディング・ニモ』(04年12月号)よりも上だ。
 製作総指揮は言うまでもなくジョン・ラセターだ。今回の監督は,名作『アイアン・ジャイアント』(99)の原案と監督を担当したブラッド・バード。ローティーンの頃からアニメ界の神童と言われ,TVアニメで活躍していたという。その彼がピクサーに加わったのは,サンデーサイレンス産駒の良血優駿が,地方から中央入りして藤沢和雄厩舎に所属し,武豊かペリエ騎手を背にGIレースに出て来たような感じだ。
  かつて市民の尊敬と賞讃を浴びて活躍したのに,訴訟沙汰から超能力使用を禁じられ,一般市民としての生活を余儀なくされているスーパー・ヒーローたちの物語である。「Mr. インクレディブル」ことボブ・パーとその家族5人が中心で,親友のフロゾン,彼らのスーツを手がけるカリスマ・デザイナ(コシノジュンコがモデルか?)が脇を固める。敵役は発明王のシンドロームで,少年時代はスーパー・ヒーローの追っかけだったのに,袖にされたことから逆恨みし,彼らの全滅と世界制覇を目論んでいるという構図だ。
  ヒーローが狂人発明家と対決し,一時は孤島の要塞に捕われながらも,危機一髪を脱して反撃するというストーリーはいかにもだが,そのいかにもの味つけが実に楽しい。何よりも,インクレディブル一家の超能力の設定や発揮の仕方が活き活きと表現されている(写真1)。『モンスターズ・インク』(02年2月号)は怪物たちの活躍が今イチだったが,本作品ではそれを補って余りある楽しさだ。インクレディブル氏よりも,ママがいい。子供たちも存分に活躍する。よく考えれば,『スパイキッズ』シリーズとそっくりの設定なのだが,CGならではの誇張した表現がスーパー・ヒーローものの痛快さを倍加している。少しクオリティを落としてTVシリーズにしても,人気を呼ぶことだろう。いや,面白い。
     
 
 
 
 
写真1 存在感は夫人の方が上。子供たちも『スパイキッズ』を超える活躍ぶり。
(c) Disney/Pixar. All Rights Reserved.
 
     
   マシンは1,800台,『ニモ』の6倍の計算量で描いたCG映像の最大の見どころは,髪の毛と衣服の皴だろう。登場人物1人1人にキャラにあったヘア・スタイルを与え,そのデザインも光沢も相当に凝っている(写真2)。海に落ちて濡れた髪の表現などは絶品だ。150着の衣装が用意されていて,ほぼすべてのシーンの衣服で微妙な皴が描き込まれている(写真3)。ただし,その材質が結構違うはずだが,どれもワンパターンに見えてしまうのが難といえば難だ(そんなところまで意識して観ている一般観客はまずいないだろうが)。
     
 
 
 
写真2 ヘア・スタイルは1人ずつ丁寧に描き込まれている
(c) Disney/Pixar. All Rights Reserved.
 
 
 
 
 
写真3 衣類の皴も大半のシーンでさりげなくついているが,ちょっと画一的か
(c) Disney/Pixar. All Rights Reserved.
 
 
 
    CG製の炎や爆発シーンは今や実写映画でも使われるくらいだから,かなりリアルなのは当然だ(写真4)。海のシーンで海面が見事にまで美しい。『ニモ』よりもさらに改良されたと感じる。サミュエル・L・ジャクソンの声で登場するフロゾンは,キャラの設定も素晴らしいが,彼が作る氷の材質感も見事なものだ(写真5)。  
     
 
  写真4 この程度の炎や爆発は,もはや当たり前
(c) Disney/Pixar. All Rights Reserved.
    写真5 この脇役のキャラ設定も氷の表現も上手い  
 
   
 
   CGアニメとはいえ,背景となるセットが100も用意され,それぞれに専属デザイナがいて,小道具も照明も専任のアーティストが配されている。前半のインクレディブル氏の保険会社のデザインも秀逸だが,セット・デザインの効果は後半が圧巻だ。シンドロームの要塞の島は,岩や崖の描写も要塞内部の壮大さも息を呑む。それをあらゆる映画的手法を駆使して映像化していると言っていい。見事なものだ。来年のアカデミー賞の長編アニメ部門は,『シュレック2』『ポーラー・エクスプレス』『シャーク・テイル』と4本で争うことになるが,筆者なら間違いなくこの映画に一票を入れる。
 一見して素晴らしいと感じたこの娯楽作品には,会場からは拍手も笑い声も歓声もなかった。今回は日程の都合で特別に業務用試写会に入れてもらったが,関西地区の映画館経営者,興行関係者が観衆だったようだ。一般観客を反応を知りたくて,米国出張中に,この映画の公開日の夕刻ワシントンD.C.のチャイナタウン近くにあるシネコンに足を運んだ。会場は約8割の入りで,全編笑いの渦だった。痛快無比のクライマックス・シーンでは,予想通りの拍手喝采で,ポップコーンが乱れ飛んだ。郊外のシアターならもっと凄かったことだろう。白人の家族が主人公だが,観客の半分以上を占める黒人の家族連れも,白人のアンちゃんたちも同じように楽しんでいた。Yシャツの胸元を開ければiマークのシーンは誰にとっても最高だ!
 ところで,この映画の日本語吹替え版は,インクレディブル夫妻を三浦友和,黒木瞳が演じるという。美男美女には不似合いで,愛川欣也・うつみ宮土里夫妻あたりの方がいいかとも思ったが,映画を見ると考えが変わった。あれだけ奥方に存在感のある役の旦那なら,三浦友和の起用はピッタリだ(笑)。  
 
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