head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | アカデミー賞の予想 | サントラ盤ガイド | 年間ベスト5&10 |
   
title
 
O plus E 2021年7・8月号掲載
 
 
妖怪大戦争 ガーディアンズ』
(東宝&KADOKAWA配給)
      (C)2021「妖怪大戦争」ガーディアンズ
 
  オフィシャルサイト [日本語]    
  [8月13日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2021年6月30日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  平成版よりかなり豪華で,CG活用も意欲的  
  本号のトップ記事は,邦画のCG/VFX多用作である。今年になって東宝配給の『映画 モンスターハンター』(21年3・4月号)と『ゴジラvsコング』(同5・6月号)を掲載したが,製作には関わっていても,実質的にハリウッド作品であり,日本国内だけ東宝ブランドで配給したに過ぎない。このメイン欄に純粋な邦画が登場すること自体が久々のことだ。これは素直に嬉しい。
 最後はいつだったのかと調べると,本格的VFX大作は山崎貴監督の『アルキメデスの大戦』(19年7・8月号)まで遡ってしまう。丁度2年前の号での掲載だ。その間全くなかったのかと,少し複雑な思いだ。
 さて本作は,お馴染みの日本の妖怪たちが勢揃いする定番作品である。広告宣伝では,昭和,平成の『妖怪大作戦』に続く,令和版であることが強調されている。昭和の『妖怪大戦争』(68)は,大映製作配給の時代劇・特撮映画「妖怪3部作」の2作目のようだが,筆者は3作とも全く観ていない。当時既に大学生で,学園紛争の真っ只中であり,TV番組の焼き直しのお子様映画など見向きもしなかったに違いない。
 平成の『妖怪大戦争』(05年8月号)は,一転して現代劇で,鬼才・三池崇史監督作品だった。既にこの映画評が始まっていたので,しっかりと試写を観ている。CGはそこそこ利用されていたが,短評でしか取り上げず,「これは誰のための映画なのか? 子供にも水木しげるファンにも中途半端な,ただの駄作だ」と酷評している。既に日本国内のCG/VFXレベルもかなりの水準に達していて,同年には大ヒット作『 ALWAYS 三丁目の夕日』(05年11月号)が登場している。また,2年後の同系統作品『ゲゲゲの鬼太郎』(07年5月号) には最高点評価を与えているから,平成版のCG/VFXは当欄として評価するに値しなかったのだろう。
 さて,令和版の本作は,トップ記事扱いであることからも分かるように,色々な意味で応援したくなる映画だ。間違いなく,平成版よりも力が入っている。とはいえ,点数が甘く成り過ぎないよう,部分点方式で個別に眺めて行こう。

【企画構想と概要】
 配給ルートは松竹から東宝に変わったが,実質的に前作同様KADOKAWA作品であり,三池崇史監督の続投だ。主役の少年は寺田心に変わっているが,前作で主演の神木隆之介が彼の担任教師役で登場する。
 大地溝帯フォッサマグナに眠る古代の化石が集結し,巨大な「妖怪獣」(写真1)に姿を変えて地上に出現し,人間社会も妖怪界も大混乱に陥る。これに対抗するため,伝説の武神「大魔神」(写真2)を復活させるというものだ。対抗相手を探してくるのは,『ゴジラvsコング』と同様,怪獣ものの定番だが,昭和40年代の別シリーズから「大魔神」を借用して来るというのはアイデア賞ものだ。ただし,その時代の映像を覚えている人はかなり少ないだろう。いっそ元横浜ベイスターズの佐々木主浩投手にこの役を演じさせるか,あるいは彼に似せたルックスのCGキャラをデザインするくらいの洒落っ気があっても良かったかと思う。
 
 
 
 
 
写真1 これが本作の悪役である巨大な「妖怪獣」 
 
 
 
 
 
写真2 対するは別シリーズから借用の「大魔神」
 
 
 【脚本と演出】
 寺田心演じる渡辺ケイ少年と弟ダイ(猪股怜生)の出番が多過ぎ,ほぼそれだけで,一気にお子様映画になっている。他の主要登場人物の演技まで,それに引き摺られていると感じる。三池監督はプロ中のプロで,どんな映画でも製作者の意図に合わせて撮って見せるから,前作も本作もその要望に応えることに徹したに違いない。幼児は妖怪大好きで,目を輝かせて見ることは分かるが,大人の妖怪ファンの観賞に堪えるだけの格調の高さが欲しかった。いずれであっても,多数の妖怪が登場するのだから,お馴染みの妖怪であっても,各々の登場場面で妖怪図鑑風に名称を表示した方が良かったと思う。

【CG製の妖怪の出来映え】
 前作から16年も経ち,当然のことながら,CGの品質は大幅に向上している。「一反木綿」「ろくろ首」等の妖怪は勿論CGで描かれている(写真3)。渡辺兄弟を背中に乗せて移動する「水龍」の化石(写真4)や「輪入道」の炎の輪(写真5)もCGならではの表現だ。グッズ市場で人気が出るのは愛らしい仕草の「すねこすり」(写真6)だろう。大沢たかお演じる狸の妖怪「隠神刑部」は存在感があったが,彼が率いる八百八狸も可愛かった(写真7)
 
 
 
 
 
 
 

写真3 お馴染みの「一反木綿」(左)と「ろくろ首」(右)も,本作ではCGキャラで登場

 
 
 
 
 
写真4 大きな化石として登場する「水龍」
 
 
 
 
 
写真5 「輪入道」の炎の車輪もしっかりCG描写
 
 
 
 
 
写真6 人気が出そうな猫型妖怪の「すねこすり」
 
 
 
 
 
写真7 八百八狸を従えてバイク移動の「隠神刑部」
 
 
 【人間が演じる妖怪と特殊メイク,VFX加工】
「ぬらりひょん」「姑獲鳥」「猩猩」「天狗」「雪女」「小豆洗い」「砂かけ婆」等々,豪華キャストが特殊メイクで妖怪を演じているが,こちらはまずまず平均的な出来映えだ。職人技ではあるが,手慣れた作業だろう。それでも,何人かは特殊メイクが強過ぎて,俳優が誰だか識別できない。大倉孝二の「猩猩」はまだしも,「天狗」が三浦貴大だとは想像出来ない。「大首」の石橋蓮司はエンドロールで名前を観るまで気がつかず(写真8),「夜道怪」の遠藤憲一は指摘されても分からなかった(写真9)。ハリウッド大作なら,俳優が演じる場合でもフルCGダブルも併用し,ダイナミックな動きをさせたことだろう。それでも,「雪女」の振舞いは「アナ雪」のエルサ風にVFX演出しているし(写真10),赤く光る目,白い光線,桜が舞い散る様等のVFXは卒なくこなしている(写真11)。CG/VFXの主担当はOLM Digitalで,他約20社が参加していた。その分,出来映えの差が目立つのは,日本のVFX業界の層の薄さ,実力の限界だろう。
 
 
 
 
 
写真8 前作に引き続き同じ俳優だが,気がつかなかった「大首」
 
 
 
 
 
写真9 じっくり見直しても,誰だか分からない「夜道怪」
 
 
 
 
 
写真10 和製エルサのように描かれた「雪女」
 
 
 
 
 
写真11 この程度のVFXシーンは卒なく対処
(C)2021「妖怪大戦争」ガーディアンズ
 
 
 【総合評価】
 コロナ禍の中で撮影し,ここまで仕上げるのは大変なことだったと思われる。五輪後の夏休みのまっ盛りの公開予定で,家族連れを映画館に呼び戻す計画は是非成功してもらいたい。だとしても,徹底したお子様クオリティに終わっていることが残念だ。大人でも妖怪ファンはいるし,とりわけ水木しげるファンは,広い年齢層に渡っている。本作は,頑張っているなと思えても,「この迫力は凄いな」「想像した以上の出来映えだ」「何度でも見たくなる」とまで感じる観客は多くないはずだ。応援しつつも,平均的な評価に留めたのは,これで国際的に通用するか,後年,見直した時にどう感じるかも考慮したからである。
 
  ()
 
 
  (O plus E誌掲載分に加筆し,画像も追加しています)  
Page Top
sen  
back index next