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O plus E誌 2005年3月号掲載
 
 
シャーク・テイル
(ドリームワークス映画
/アスミック・エース配給)
      (C)2004 DreamWorks LLC  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2005年2月1日 ヘラルド試写室(大阪)
 
  [3月12日より丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  カラフルな絵に,ラップファン向きのビートサウンド  
 

 この号が出てまもなく,注目のアカデミー賞の発表だ。このフル CGアニメ作品は,『シュレック2』(04年8月号)『Mr. インクレディブル』(04年12月号)と並んで,見事長編アニメーション部門にノミネートされている。本作品は,同じ「ドリームワークス アニメーション社」傘下でも,当初からフルCG専業であった『アンツ』(98)『シュレック』(01)のPDI/Dreamworksとは別で,『プリンス・オブ・エジプト』(98)『エル・ドラド/黄金の都 』(00)『スピリット』(02)等のセルタッチ・アニメを作ってきた南カリフォルニアのチームが中心となり,フルCGアニメを手がけた第1作目である。北米興行成績で3週連続No.1の座を占め,オスカー候補にまでなったのだから,まずは大成功の転身と言えるだろう。
 もっとも,製作・監督陣やアート・ディレクター達は,これまでのセル系, CG系入り乱れての混成チームであるから,余りその違いを気にしていないのかも知れない。注目すべきは,かつて『美女と野獣』『ライオン・キング』などでディズニー・アニメの中興の祖となった御大ジェフリー・カッツェンバーグ(製作総指揮)が,もはやセル系に見切りをつけ,南北2倍の戦力でフルCG界の巨人ピクサーに対抗してきたということだ。
 舞台は,深海に広がる美しい大都会リーフシティ。ここで,海の底を仕切る獰猛なホオジロザメの一族と,小魚とやクラゲたちが織りなすアドベンチャー・ロマンが展開する。海の中をテーマにするなど,色々な面でディズニー&ピクサーの『ファインディング・ニモ』 (03)を大いに意識していることは明らかだ。こちらは徹底して登場キャラを擬人化し,大都会の様子,クジラを洗う洗鯨場,タツノオトシゴのレース場など,人間社会を風刺した設定となっている。人間の登場人物はない。
 驚きは,声の出演者たちの豪華さだ。主役のホンソメワケベラのオスカー役にウィル・スミス,その彼女のエンジェルフィッシュのアンジー役にレニー・ゼルウィガー,魔性の美女ミノカサゴのローラ役にアンジェリーナ・ジョリーというキャスティングも見事だが,魚たちの表情を俳優たちによく似せている。 CGのオスカーは誰が見てもウィル・スミスにしか見えないし,レニーのふっくらした頬,アンジェリーナのタラコ唇までそっくりだ。加えて,鮫のドンにロバート・デ・ニーロ,心優しい鮫レニーにジャック・ブラック,そして洗鯨場の経営者サイクスには,何と老監督のマーティン・スコセッシが声の出演を果たしている。これには恐れ入った。
 海の中の描写は,美しくかつ精緻で,ただただ素晴らしい (写真 1) 。芸術的という陳腐な言葉さえ,気恥ずかしくなるくらいだ。鯨,鮫,小魚たちの表面のテクスチャも凝りに凝っている (写真 2) 。単純なテクスチャ・マッピングではなく,もっと高度な技術で表現されていると見える。大域照明を導入したというだけあって,海底に差す光や透明なクラゲの描写は実に見事だ。エンドロールの絵までも,この光線の表現を見てくれよと語りかける。基本的にスキャンライン系のアルゴリズムを採用しているピクサー社の Rendermanでは達成できないだろうと言わんがばかりの挑戦状だ。

 
     
 

  写真1 海底都市リーフシティは驚くほどの美しさ
  (c)2004 DreamWorks LLC

 

  写真2 テクスチャの質感にも相当なこだわりが…

 
     
 

 では,そんなに褒めておいてなぜ満点の☆☆☆ではないのかと言えば,ここまでの表現力をもつに至ったフル CG映画に対する敬意の表われと考えて欲しい。時として実写以上の描写が可能となったCGに対しては,純粋に演出やストーリーで映画としての魅力を評価すべきだ。もはや,そういう時期に来ている。
 この映画は全体に騒々しく,目が疲れる。旧ギャグ系アニメの激しい動きと精緻な背景画との相性が悪いのである。絵の魅力で勝負するなら,動きはもう少しゆったりすべきだ。ミュージック・ビデオのノリを強調したいなら,登場人物をこんなに多彩にしない方がいい。セリフも大仰で,声優が頑張り過ぎている。サウンド的にも同様だ。ウィル・スミスを筆頭に,ラップ系の一流ミュージシャンを勢揃いさせたのはいいが,重厚なハンス・ジマーの映画音楽との相性もいいとは言えない。各パートは超一流だが,全体のまとまりを欠いている感じだ。
 ディズニー&ピクサーのファミリー志向,万人受けする優等生的な表現に対して,カッツェンバーグは別ジャンルの映画として挑戦したかったのだろう。ギャング映画のパロディというだけあって,『シュレック』以上にスパイスは利いている。まだ,その試みは実験・挑戦レベルで留まっているが,この野心はやがて実を結び,映画史に残る名作をいくつも生み出すことだろう。

 
          
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