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O plus E誌 2015年12月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『レインツリーの国』:若者に人気の作家・有川浩作の同名小説の実写映画化作品である。何度か書いたが,筆者らの世代がこの種のデートムービーの成否を判断する基準は,タイムスリップして自分が同化,没入できるか,年長者として見守る気になれるかである。ネット上のブログで知り合って,交際を始める下りは普通のラブストーリーで,後者の立場だった。ところが,韓流映画風の難病もので,ヒロインが身障者だと分かると,自分ならどういう態度でいたわるべきかの方が気になってくる。主演は玉森裕太と西内まりやだったが,もしネットで知り合った2人が,美男・美女でなかったら,どうなるのだろうと余計な心配までしてしまう。その意味では,成功の部類だ。余談だが,ファッションモデルの西内まりやが,髪を切り,メイクも施して一躍可愛くなるシーンが本作の肝だが,大半の男性は,少し野暮でも,長い髪の清楚な女性の方を好むと思う。
 『黄金のアデーレ 名画の帰還』:実話ベースだが,実に良くできた脚本だ。本作に登場する名画とは,グスタフ・クリムト作の「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像I」で,まさに黄金色に輝く豪華な肖像画だ。モデルとなったアデーレの姪で,相続権のある82歳のマリア・アルトマンが,オーストリア政府相手に起こした返還訴訟が主テーマである。第2次世界大戦時のナチスの蛮行,マリアらの国外脱出の逃避行,返還訴訟の法廷劇が,うまく配されている。現在と過去のバランスも好い。ユーモアと緊迫感,感動的な弁舌に,ハンス・ジマーの音楽が見事にマッチして,物語を牽引する。主演は,名優ヘレン・ミレン。若き日の彼女を演じるタチアナ・マズラニーが彼女に似ているのが嬉しい。すぐ,マリアだと分かる。2006年に返還され,156億円で取引されたこの名画は,NYのノイエ・ガレリエに展示されているという。是非見に行きたくなった。
 『ハッピーエンドの選び方』:シルバー世代の終活を描いた映画が増えていると述べて久しい。中でも,安楽死がテーマだと,『終の信託』(12年11月号)『愛,アムール』(13年3月号)を思い出す。本作はイスラエル映画で,各国の映画祭で観客賞を受賞した作品だ。表題通り,この重いテーマをポジティブに捉え,ユーモアもまじえたコメディタッチで描いている。主人公は老人ホームに住む発明好きのヨヘスケル(ゼーブ・リバシュ)で,激痛に苦しむ友人のため,苦しまずに最期を迎えられる安楽死装置を開発する。いつの間にか,この装置が話題になり,利用希望者が殺到する……。軽いタッチとはいえ,誰もが明日は我が身と思うシリアスな内容だ。涙はなしでも良かったが,もう少しハラハラする展開か,違った結末でも良かったかと思う。
 『わたしはマララ』:2014年に17歳でノーベル平和賞を最年少受賞したパキスタン生まれの少女マララ・ユスフザイの素顔に迫るドキュメンタリー作品である。女子が教育を受ける権利を主張し,人権運動を続ける彼女は,この賞に値する勇気ある女性だ。伝説の戦う少女マラライにちなんだ名前を付けられ,その生まれ変わりと言われるだけのことはある。15歳の時にタリバンの銃弾を受け,今もその後遺症が残る姿は,少し痛々しい。彼女の国連での演説は,魂がこもっていた。彼女はずっと活動家を続けるのだろうか,それとも将来政治家に転身するのだろうか? 偉大な指導者に成長をすると予想する半面,生涯に何度も命を狙われる危険が伴うことを危惧する。監督は,『不都合な真実』(06)でオスカー受賞者となったデイヴィス・グッゲンハイム。ドキュメンタリーの構成が巧みだ。彼は,生涯に何作も素晴らしい作品を生み出すことだろう。
 『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』:ドキュメンタリーが続く。スペインが生んだ天才建築家アントニ・ガウディの代表作,遺作にして,未完成のサグラダ・ファミリア(聖家族教会)の神秘に迫る。1882年の着工以来,既に133年になるが,300年かかると言われた大建築物だ。近代工法とIT技術の採用により,工期は半分以下になり,ガウディ没後100周年の2126年に完成予定だという。2005年に世界遺産登録された。2010年にはローマ法王が聖別のミサを行い,法王庁認定の教会となった。本作は,この教会の歴史やガウディの生涯を語るとともに,教会関係者,ガウディの遺志を継いだ建設関係者の様々な証言を織り込んでいる。カメラは外観を捉えるだけでなく,教会内にも入り,完成済みの礼拝堂や工事中のギャラリー,中央大塔の様子を伝える。現場監督は,自分たちの名は歴史書や美術書に載ることはないというが,この映像にしかと記録されている。
 『独裁者と小さな孫』:「独裁者」というからまたヒトラー映画かと思ったら,違った。では,サダム・フセインかカダフィ大佐かというと,後者は遠からずだ。本作は,架空の国の大統領の話に設定されている。冒頭はまばゆいライトアップ,夢のような映像で始まる。クーデターで政権は倒れ,独裁者は孫の少年を連れての逃避行となる。ここまでは,全くのコメディタッチだ。ところがサバイバルのロード・ムービーになり,描き方も一変する。娼婦,兵士による新婦の強姦,妻の再婚を知り自殺する男等々,リアルな物語が続く。そんな中で,大統領の適応力としたたかさに感心する。この映画は,憎しみの負の連鎖を嘆き,独裁者を倒しても民族間での争いが増えるだけと喝破している。東欧やアラブ諸国の民主化後の姿をあざ笑うかのようだ。物語展開も見事だが,ラストも印象的だ。監督は,巨匠モフセン・マフマルバフ。改めて,その語り口に感服した。
 『母と暮せば』:山田洋次監督の最新作は,戦後70年の今年中にどうしても公開したかったようだ。既に撮り終えた新作を追い越して,本作が先に公開される。井上ひさし作の「父と暮せば」は,広島の原爆投下で死んだ娘が亡霊となって父と再会する話だが,それを裏返しにして,舞台は長崎で,母(吉永小百合)と亡霊の息子(二宮和也)の物語としている。助演陣は,黒木華,浅野忠信,橋爪功らお馴染みの山田組が顔を揃える。二宮和也は好演だが,巨匠の反戦メッセージは真面目過ぎて,『母べえ』(08)と同様,観ているのがつらい。後半しっかり涙を誘うが,これまたつらい。息子の婚約者の新しい門出を見守る展開は,まるで寅さん映画の定番パターンだ。これを「馬っ鹿だねぇ」と笑って済ますことができないだけに,尚更つらい。かくなる上は,お預け状態の次作の喜劇『家族はつらいよ』(16年3月12日公開)で楽しく笑えることを期待しよう。
 『ディーン,君がいた瞬間(とき)』:原題は単純な『LIFE』に過ぎないが,上手い邦題をつけたものだ。この映画の雰囲気を見事に表現している。ジェームズ・ディーンと天才写真家デニス・ストックを描いた青春ドラマで,わずかな期間の交流だが,才能ある魂のぶつかり合いが感じられる。『エデンの東』の試写時に知り合い,密着取材と故郷のインディアナに同行しての撮影,写真誌LIFEに伝説となるフォトエッセイを掲載するまでの経緯,そしてディーンの交通事故死……。J・ディーンを演じるデイン・デハーンは,声色も含め必死で似せようとしているが,余り似ていないのが残念だ。デニス役のロバート・パティンソンの方が存在感がある。彼には,マーロン・ブランドの若き日を演じさせてみたい。小森のおばちゃまが存命なら,この映画をどう評価したかが知りたくなった。最後に,題名は『ジミー,君がいた瞬間』であるべきだったと感じた。
 『ストレイト・アウタ・コンプトン』:1980年の後半,米国西海岸で一世を風靡した伝説的ヒップホップ・グループの誕生と軌跡を描いた実録音楽映画だ。筆者らの世代は,自らヒップホップ音楽を聴くことはないが,エミネム,スヌープ・ドッグ,アイス・キューブの名前くらいは知っている。そのエミネムの自伝映画『8 Mile』(02)を映画館で観て,ヒップホップMCの語りを字幕で見ること,ドラムの打ち込み音が映画のリズムと同期することの心地よさを感じていた。本作は,LA郊外のコンプトン市で,アイス・キューブらが結成したN.W.Aの活動を描いているが,登場人物は本人たちでなく,若き俳優,ラッパー達が演じている。試写会場はいつもと違い,一目でそれと分かる音楽関係者たちが沢山来ていて,盛り上がっていた。アイス・キューブ役を演じるオシェイ・ジャクソン・Jr.がそっくりだという声が上がったが,それもそのはず,実の息子だった。
 
   
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