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O plus E誌 非掲載
 
 
バーフバリ
王の凱旋』
(グレート・インディア・
フィルムズ/ツイン配給 )
      (C) ARKA MEDIAWORKS PROPERTY
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月29日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2017年12月28日 サンプルDVD観賞
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  インド映画史上最大のヒット作,各誌が大絶賛  
  伝説の戦士バーフバリの壮大な物語の完結編で,インド映画史上の最大のヒット作である。本邦では年末の12月29日公開で,CG/VFXも大量に使用されているとあっては,本来,本誌2018年1月号のメイン欄で取り上げるべき作品なのだが,Webページだけでの掲載になってしまった。いくつか,その言い訳をしておきたい。
 試写が入稿締切に間に合わなかった訳ではない。前作『バーフバリ 伝説誕生』(17年4月号)の試写は締切2日前だったので,紙幅がなく,短評でしか取り上げられなかった。本作は,11月上旬に大阪では1回限りのマスコミ試写があったのだが,本業の繁忙期であり,先約で塞がっていた。1月号(12月25日発行)にはまだ十分な時間があるので,後日サンプルDVDを借りて観ればいいと思い,その後,すっかり忘れていた。
 軽視してしまったのは,前作が短評での紹介だったので,自分でもあまり印象に残らなかったからだろう。さらに「完結編」というのは3部作の最終作であり,2作目を観ていない以上,敢えて取り上げても,しっかりした論評にはならないと思い込んでしまったようだ。副題の「王の凱旋」が,『ロード・オブ・ザ・リング』3部作の完結編『王の帰還』(04年3月号)に似ていたため,勝手に3部作と考えたのだと思われる。本作の原題は『Baahubali 2: The Conclusion』だから,2作目の後編だった訳である。
 本誌1月号の発行後,当欄の愛読者である親しい知人から,「当然書いていると思ったのに,何でこの話題作を取り上げなかったんだ? あちこちで大評判じゃないか」という指摘を受け,見逃していたことにやっと気付いた。日頃は自分の評点を決めるまで観ないのだが,週刊誌,映画専門誌,映画紹介サイト等を点検すると,大絶賛ではないか。米国のRotten TomatoesサイトのTomatometerは100%というトンデモナイ数値であり,本邦の「映画.com」は「ケタ外れに面白い作品で,布教活動に全力を注ぎます!」と広言して特集を組んでいるほどである。総製作費も興行収入もインド映画史上で最大で,米国のBox Office成績でも第3位にランクされている。当欄としては,恥を忍んで遅れてでも,紹介しない訳には行かない。慌てて配給元からプレスシートとサンプルDVDを取り寄せ,見終ったのが公開日の前日だったという次第である。
 ここまで長々と言い訳を書いたのは,誤解の素であった『LOTR/王の帰還』と比べて論じたいためである。
 
 
  全編エンタメに徹し,VFXの威力発揮を楽しんでいる  
  当初から前後編2作で企画され,ほぼ連続して撮影されたようで,監督・脚本のS・S・ラージャマウリは勿論,撮影のK・K・センティル・クマール,音楽のM・M・キーラヴァーニら主要スタッフも,主な出演者たちもそのまま続投している。ところが,いわゆる物語の続きを語る続編ではなく,描かれる出来事は時間的に交錯している。この点では,物語の完結に向けて時間軸上を一気に駆ける『LOTR/王の帰還』とは全く異なっている。加えて,主演のプラバースが,父親のアマレンドラ・バーフバリと息子のマヘンドラ・バーフバリの両方を演じるので,しっかり物語を把握していないと,今どちらが登場しているのか混乱してしまう。
 前作と本作の関係を少し要約しておこう。前作では,川で拾われた孤児の赤ん坊がシバドゥと名付けられて,地元民に育てられるが,立派に成長した彼は美しい女戦士アヴァンティカ(タマンナー)と恋に落ちる。彼女が,25年間幽閉されている王妃デーヴァセーナの救出計画を企てていたことから,彼は単身で暴君バラーラデーヴァ(ラーナー・ダッグバーティ)が支配するマヒシュマティ王国へ潜入する。そこで,シバドゥは自分が王国の民衆から「バーフバリ」と呼ばれることに驚く。最強の剣士カッタッパから,彼は父アマレンドラ・バーフバリと王妃デーヴァセーナの遺児マヘンドラであることを知らされ,さらに父が王となるまでの物語と非業の死を遂げたことを語られる。ここまでが前作だ。
 本作の大半は,前作での父アマレンドラに関する回想部分よりさらに前日譚であり,アマレンドラとデーヴァセーナの恋物語と従兄バラーラデーヴァとの権力争いである。全編141分の長尺でありながら,ようやく残り20数分になってから,25年後の息子マヘンドラ・バーフバリの時代に戻る。即ち,前作が息子の恋物語であり,本作が父と母の恋物語なのである。主演のプラバースは両作とも同じルックスで登場するが,本作のヒロインは若き日のデーヴァセーナであり,主演女優のアヌシュカ・シェッティは前作の老女役とは打って変わった美しい姿で登場する。いやはや,驚くほど美しい。美貌だけでなく,アクション演技も一級品だ。
 全編カラフルで絢爛豪華な大スペクタクルである。同じように,映画ならではの豪華さだが,中国映画の歴史大作とは少し趣きが違う。衣装や武具にもかなりの製作費を投じているようだが,伝統美,様式美は余り感じられない。ギリシャやローマの史劇のような荘厳な感じもしない。『LOTR/王の帰還』のもつ風格,重厚感もなく,ひたすら明るく,躍動感に溢れている。アクションシーンも歌つきであり,時々踊りも入る。その意味では,まごうことなくインド映画の超大作である。映画は楽しくあるべきだという基本哲学があり,エンタメに徹しているようだ。ある雑誌での評に「インド風歌舞伎」とあったが,言い得て妙だと思う。我が国の歌舞伎も,かつては最先端のエンタメであり,外連の極致であったという。
 以下,CG/VFXに関する当欄の視点での評価である。
 ■ 前作もVFX多用作だと感じたが,本作ではその利用比率が格段に増している。『LOTR』シリーズを意識しているように感じるのは,冒頭から多数登場する象の存在だ。インドだから象の存在は当然とも言えるが,『LOTR/王の帰還』のオリファントへのオマージュだと思えるシーンが何度か登場する。本物の象も起用したのかも知れないが,大半はCG/VFXの産物に違いない。ただし,手足や鼻を動かせる実物大のアニマトロニクスなのか,CGで加工しているのか,ちょっと目には分からない(写真1)写真2 くらい多頭数になると,CGに違いないと断言できる。その他,水牛や野牛,猪等の動物が登場するが,動物に関しては,いずれのCG描写もかなり質感が高かった。
 
 
 
 
 
写真1 バーフバリを背にした象は,アニマトロニクスかCGか不明
 
 
 
 
 
写真2 ずらっと勢揃いの象軍団は,さすがにCG 描写だろう
 
 
  ■ マヒシュマティ王国の海の入り口に置かれているのは,大きな象の彫像である(写真3)。このシーンは,『LOTR』の「アルゴナスの門柱」の場面を思い出す。同作では,自然風景とミニチュア模型とCG映像の合成であったが,15年後の製作の本作では,CGの比率が増えていることだろう。カメラワークもアングルも,CG/VFXを駆使して始めて実現できる映像であり,これも『LOTR』の影響が感じられる。伝統的な映画作成技術に拘らず,デジタル技術でできることは何でもやってみようという心意気であり,VFXを使うことが楽しくて仕方がないという感じだ。
 
 
 
 
 
写真3 ここがマヒシュマティ王国への海からの入り口
 
 
  ■ マヒシュマティ王国の全体像や大きな宮殿は前作にも登場するが,本作でも主たる舞台となる。メイキング映像によると,かなり大きなセットが組まれていたようだが,大半のシーンで細部はVFX加工されている(写真4)。残念ながら,質感は必ずしも高くない。カメラワークを重視し,個々のシーンの描き込みの優先度は低かったようだ(写真5)
 
 
 
 
 
写真4 巨大セットで撮影されているが,背景はVFX加工の産物
 
 
 
 
 
写真5 この光景はフルCGだろうが,4K上映したにしては質感が低い
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  ■ デザイン的に斬新さを感じたのは,アマレンドラとデーヴァセーナがクンタラ王国からマヒシュマティ王国に向かう道中で乗る帆船だ。多数の曲面形状の帆を備えていて,水面を航行するだけでなく,空にも舞い上がる。その船上での歌って踊るシーンがインド映画の面目躍如である。もう1点は,終盤に息子のマヘンドラが登場してからで,バラーラデーヴァの王城内への侵入シーンにあっと驚く。奇抜かつ斬新であり,デジタル技術ゆえに描ける映像シーケンスだ。まさに漫画みたいと形容したくなる描写であり,ただただ面白い。
 ■ これだけのCG/VFXはどこが担当したのか,何人のクリエータ達が参加したのか,じっくり眺めようと思ったのだが,エンドロールには主要キャストしか記されていなかった。この省略はサンプルDVDだからであり,劇場公開版には長いエンドクレジットが付されていたのだろうか?
 
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