head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
title
 
O plus E誌 2017年10月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ジュリーと恋と靴工場』:フランス製のミュージカル・コメディで,主人公のジュリーは定職のない独身女性である。老舗靴工場での1ヶ月の試用期間に,恋人を見つけるが,その一方で労働争議に巻き込まれる。1つ間違えば,工場閉鎖&リストラの社会問題なのに,それをシンボル化し,爽やかに見せてくれるのは,歌って,皆で踊る伝統的なミュージカルのせいだろう。同じ踊るシーンでも,インド映画のように騒々しくなく,ほのぼのしていて,微笑ましい。舞台となる時代は明言されていないが,一見すると40~50年前を描いているのかと感じてしまう。恐らく現代なのだろうが,意図的に時代不詳にしているようだ。ケータイも最新型のクルマも登場させず,(強いて言えば)工場の社長秘書のPCモニターだけが最近のものだった。最も現代風と言えるのは,女性の自立を描いている点だ。伝統ある「赤い靴」が「戦う女」の象徴となっている。
 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』:「東野圭吾史上,最も泣ける感動作」だそうだ。そう聴いて構えて観たためか,さほど泣けなかったが,人生讃歌のメッセージは伝わってきた。「奇蹟」は,30年以上の時を隔てた同一地点間の交信だが,『オーロラの彼方へ』(00)で既に使われたプロットであり,郵便受けを介した手紙のやり取りは韓国映画『イルマーレ』(00)で観たアイディアである。本作は,1対1の交信でなく,もう少し込み入った群像劇に仕上げている。さすが人気作家の物語の組立てだ。廣木隆一監督の語り口は悪くないが,若手俳優の演技が稚拙だった。名優・西田敏行1人だけが浮いて見えた。映像としては,過去のナミヤ雑貨店やその周辺の時代考証が少し甘い。1969年,1980年にしては店も町も古過ぎる。VFX合成もプアだった。そうした欠点を割り引いて考えても,エンタメとしてはかなり楽しめる。
 『ドリーム』:この組み合わせがあるとは思わなかった。舞台は1960年代の米国で,NASAの宇宙開発と黒人解放問題を同時に描いている。まだ女性労働者が社会的に虐げられていた時代で,主人公はNASAで働く黒人女性数学者3人である。キャサリン(タラジ・P・ヘンソン),ドロシー(オクタヴィア・スペンサー),メアリー(ジャネール・モネイ)の3人だが,なかんずくキャサリンの天才ぶりが際立っている。当時の記録映像で登場するケネディ大統領も,上司役を演じるケビン・コスナーもカッコいい。彼がキャサリンをかばう様は,数十年ぶりの「ボディガード」だ。衣装,クルマ,町の様子は勿論,管制室,計算機室等々,1960年代の事物を何もかもそっくり再現している。この夢のような,輝いていた時代が懐かしい。その意味でつけた邦題だろうが,原題の『Hidden Figures』も味がある。副題でいいから,これを入れて欲しかったところだ。
 『僕のワンダフル・ライフ』:愛犬家が書いた小説の映画化で,監督は名匠ラッセ・ハルストレム。『HACHI 約束の犬』(09)に続き,これが犬映画の3作目だそうだ。人間と犬の交流といえば,単純なファミリー映画になりがちだが,本作には色々な仕掛けがある。何と,この犬は輪廻転生で50年間に3回生まれ変わる。4話目で最初の飼い主のイーサンに再会するという手はずだ。子供のイーサン,青年,熟年と俳優も3人で1役だが,犬も同じく各話で幼犬,成犬が登場し,それぞれに名演技させている。1960年代に始まり,70年代,80年代,現代と,時代,場所,犬種を変え,登場人物の人種,職業等々もバラエティに富ませている。各時代を表わすTV受像機,そこに映っている番組,当時のヒット曲等々,実に芸が細かく,嬉しくなる。4つの犬生の間,語り手の犬の声は同じで,一貫している。原題は『A Dog's Purpose』だが,邦題の方が味がある。
 『パーフェクト・レボリューション』:実在の身障者のエピソードをベースにした物語だ。先天性の障害をもつ45歳の男性と25歳の人格障害の風俗嬢の恋を描いている。前半のノーテンキな描写は,まるで青春ラブコメディだった。中盤から一転してシリアスなヒューマンドラマとなる。とりわけ,父親の葬儀での親族会議の場面は出色だった。山田洋次監督作品を彷彿とさせる。いい脚本で監督(松本准平)の演出もいい。その後は波乱万丈の展開で,実話ベースのフィクションとはいえ,ちょっとやり過ぎの感がある。主演はリリー・フランキー。最近は悪人役もこなすが,本作はそれとは違った難役を見事にこなしている。モデルとなった実在の人物は友人だというから,日頃の言動や挙動を真似て自分のスタイルに昇華させていると感じ取れた。介護士役の小池栄子が良かった。最近演技力アップが著しいらしいが,彼女がこんなに巧い俳優だとは思わなかった。
 『ブルーム・オブ・イエスタディ』:またまたナチスものだ。もはや流行の域を出て,欧州映画の底流を形成している感すらある。本作の舞台は現代で,ナチス親衛隊員で戦犯の祖父の原罪を告発するドイツ人研究者トト(ラース・アイディンガー)とホロコーストの犠牲者を祖母にもつフランス人研修生ザジ(アデル・エネル)の恋愛劇を描いている,共にアウシュヴィッツ会議を企画する2人が反目し合い,やがて惹かれ合うという筋立てだ。心の傷の深さを暗示するかと思えば,下ネタ満載のどぎつい描写にも驚く。監督は,『4分間のピアニスト』(06)のクリス・クラウス。「愛と笑いと勇気でタブーの扉をこじ開ける人間讃歌」というキャッチコピーだが,さして笑えなかったのは,ドイツ映画人の生真面目な性格ゆえだろうか。破天荒な女性の言動に翻弄されつつ,ザジの魅力に吸い込まれて行く主人公に感情移入してしまう。ラストのオチも決まっている。
 『ナラタージュ』:日頃から酷評しているが,若者の恋愛映画自体が嫌いな訳ではない。少女コミックが原作で,余りにお手軽な高校生男女の恋愛ごっこ映画が苦手なだけだ。本作は,原作が「この恋愛小説がすごい!」第1位で,メガホンをとるのは行定勲監督。少し大人の恋の香りがする表題もプラスして,観てみようかという気分になる。狂おしいばかりの恋に落ちるのは,高校の演劇部指導教員・葉山(松本潤)と大学生になって再会したヒロインの泉(有村架純)だ。草食系教員を演じる松本潤は好演だが,中年以上の男性観客には,全く魅力的な男性に見えないと思う。有村架純は先月号の『関ヶ原』(17)に続いて重い役だが,大人の女優に育てて行きたいという製作側の意図を感じる。ただし,石田三成を慕う女忍者の方が出来は良く,本作は行定監督の演出力をもってしても少し厳しかった。童顔過ぎて,何度かの情交シーンは,全く様になっていなかった。
 『アウトレイジ 最終章』:北野武監督がヤクザ社会の権力抗争を描いた『アウトレイジ』シリーズの3作目で,完結編である。前作 (12)も同系列の『龍三と七人の子分たち』(15)も酷評したが,この両作よりは面白い。相変わらず,怒号や銃撃シーンのオンパレードだが,暴力や拷問のシーンが減り,物語展開も少し楽しめる。続投の塩見三省はそのままで暴力団幹部,松重豊は刑事に見えるが,名高達男,原田泰造,池内博之らは全く暴力団らしくない。悪人面の國村隼,石橋蓮司,中尾彬らを,前作までに殺してしまったのが惜しかった。その手駒不足を補って余りあるのが,西田敏行のド迫力であり,岸部一徳,大森南朋ら初出演組の好演だ。他作品で「いい人」を演じている俳優ゆえに,彼らのワルぶりが効果的だった。ただし,もっと楽しめる銃撃戦にすればいいのに,いきなりの発砲ばかりで芸がない。その演出力の乏しさを,監督として,最後に落とし前をつけている点だけは評価しておこう。
 『愛を綴る女』:題名だけで文芸調の作品だと分かる。フランス映画で,主演はマリオン・コティヤール。原作はミレーネ・アグスの恋愛小説「祖母の手帖」だが,この邦題も悪くないなと思う。描かれる時代は1950年代と60年代にかけてだが,まるで当時に観たフランス映画のようだ。南仏の小さな田舎町で育った美しいガブリエルは,両親の勧めで結婚したスペイン人労働者のジョゼを愛せないでいる。腎臓結石の病いで,アルプス山麓の療養施設に滞在した彼女は,そこで軍務で負傷して療養中のアンドレ中尉と恋に落ちる……。心優しい夫を侮辱し,心を開かない妻。私なら,こんな身勝手な女とはすぐに別れるところだ。中盤からミステリータッチの展開となるが,その種明かしも恋の後始末もなかなか見事だった。ラベンダー畑やアルプスの山々が美しい。監督は,女優としても活躍したニコール・ガルシアで,随所に女性監督らしい演出を感じた。
 『アナベル 死霊人形の誕生』:『死霊館』シリーズからのスピンオフ第2弾で,シリーズ全体では4作目に当たる。副題から分かるように,さらに時代を遡り,現存するという気味の悪いアナベル人形の誕生にまつわる経緯を描いている。第1作『死霊館』(13)に比べて,前作『アナベル 死霊館の人形』(15年3月号)は凡作で,全く怖くなかった。「J・ワン製作ならば,何か新しい趣向が欲しい」と書いたが,本作の方が少し面白い。児童養護施設がなくなり,呪われた屋敷に来たシスターと6人の孤児たちが被害者だ。定番のポルターガイスト現象で恐怖心を与える枠組はそのままだが,怪奇現象を目にするのが多人数で,悪魔が乗り移る相手も複数というのが,やや新しい。最後に,次作は1972年のルーマニアが舞台だという予告も付いている。筆者は,人形だけが登場するスピンオフものより,ウォーレン夫妻が登場する『死霊館』シリーズをもっと観たい。
 『あなた,そこにいてくれますか』:本作も流行のタイムリープものだった。このジャンルは嫌いでなく,むしろ好きな方だ。それだけに安易なアイディアでなく,タイムパラドックスの楽しさを満喫させてくれる脚本を求めてしまう。フランス人作家の原作小説「時空を超えて」を韓国で映画化しているだけあって,よく練れた物語展開だった。カンボジアで盲目の長老からもらった10粒の秘薬を飲めば,2015年から1985年の世界にリープしてしまう。上述の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』のように交信するだけでなく,過去の自分と接し,歴史を何度も変えてしまうのがミソだ。過去が変わった証拠を写真や新聞で示す手口は他作品のコピーだが,入れ墨を使ってメッセージを送るやり方は斬新で,笑えた。2人1役で登場する3組6人は,それぞれ顔立ちが似た俳優を起用しているのが嬉しい。ただし,最後の1粒での出来事は,エンディングとして余計だったと思う。
 『リングサイド・ストーリー』:さほど期待しなかったのだが,抜群に面白かった。掘出しものとは,こういう映画をいうのだろう。『百円の恋』(14)で,引きこもりのハイミス(安藤サクラ)がボクサーを目指す姿を描いた武正晴監督が,本作では,売れない俳優のヒデオ(瑛太)がK-1のリングで有力選手に挑戦する顛末を描いている。大きな違いは,彼には10年同棲してきたしっかり者のカナコ(佐藤江梨子)が付いていることだ。弁当工場からリストラされた彼女が,プロレスやK-1団体の広報担当として働くが,この両団体の下積み選手や裏方たちの日常の描写が素晴らしい。リングが組み上がる様,チケット販売の実態等,ワクワクして観てしまう。実名で登場する武藤敬司の存在感や,黒潮“イケメン”二郎,武尊ら格闘家のパフォーマンスにも痺れる。嫉妬心から,騒動を引き起こすヒデオのダメ男ぶりは抱腹絶倒だ。助演陣のキャスティングも脚本も見事だ。
 
 
   
  ()  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next