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O plus E誌 2017年10月号掲載
 
 
亜人』
(東宝配給)
      (C) 2017「亜人」製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [9月30日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2017年9月8日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  負の遺産を背負うが,VFX的には健闘している  
  例によって,同名コミックが原作で,アニメ化が先行し,実写映画化へと進んだ邦画である。人間に似た姿でありながら,人類の驚異となる特異種が主人公のダークファンタジーで,前々号の『東京喰種 トーキョーグール』,一昨年の『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(15年8月号)と同系統の作品と言える。桜井画門作画の原作は,2012年7月から月刊誌「good! アフタヌーン」に連載中で,単行本は11巻まで発行されている。
 インターネットで「亜人」を検索したら,本作関連のサイトが上位を占めるが,元々「亜人」とは,姿は人間に近いが,人間とは異なる特徴・能力をもつ種族の総称のようだ。英語では「Demi-human」というらしい。「亜熱帯」「亜流」の「亜」である。本作の「亜人」は,死んでも,何度でも生き返る不死身の新生物であり,一度死ぬまでは,本人も周りも亜人であることに気付かない。身体的には,人間と大差はないが,「黒い幽霊」と言われる分身を出現させ,それを操って戦わせるという特殊能力を有している。「黒い幽霊」は,IBM (Invisible Black Matter)とも呼ばれているが,亜人同士にしか見えないので,人間にとっては厄介な代物である。いかにもVFX作品向きの題材だと言える。
 主人公は研修医の永井圭で,ある日トラックと衝突して轢死するが,すぐその場で生き返ったことから,亜人であることが発覚し,国家権力に捕えられた。物語は,彼が亜人の能力を試す虐待実験を受けるところから始まる。亜人仲間の「佐藤」と名乗る男に救出されるが,やがて非情な佐藤は大量虐殺を広言するテロリストであり,国家転覆計画を目論んでいることを知って,永井圭は彼の野望を阻止する側に回る……。
 監督は,『踊る大捜査線』シリーズの本広克行。主演の永井圭役は『るろうに剣心』シリーズ(12,14)の佐藤健,亜人の佐藤役に綾野剛,亜人を追う厚労省役人の戸崎役に玉山鉄二というキャスティングだ。いずれも顔立ちは原画とは似ていないが,それらしい雰囲気を出している。とりわけ,綾野剛の悪役ぶりは見どころ十分で,1作毎に芸域を拡げていると感じる(写真1)
 
 
 
 
 
写真1 ノーブルな役,チャラい役もこなすが,悪役も似合っている
 
 
  いつものように,原作コミックを数巻読んで予習してからマスコミ試写に臨み,観賞後に残りを読む方針を採った。ずばり遠慮なく言えば,筆者はこの原作に全く魅力を感じなかった。絵自体は,以前酷評した「進撃の巨人」「テラフォーマー」ほど稚拙ではないが,ストーリーテリングが下手過ぎる。物語進行が遅く,ワクワク感もなく,一気に読み進む気になれない。何よりも亜人やIBMの特徴や能力の説明が小出しで,分かりにくい。IBMなる存在で物語をいくらでも面白くできるはずだが,それも活かし切っていない。最近はコミック誌の種類も多く,作品の質は玉石混淆なのだろうが,注文をつける編集者の眼力も下がってきていると感じる。
 そうした負の遺産を背負っての映画化であったはずだが,CG/VFX的にはかなり健闘していると評価できる。
 ■ 映画冒頭は原作に忠実かと思ったが,中盤以降は原作の設定とは離れ,109分の映画として上手くまとめていると感じた。とりわけ,終盤のバトル・シーンはスピーディで,アクションの演出も上出来だった。筆者がプロデューサなら,もっとIBMのデザインを各亜人毎に違いを強調し,一見して識別できるように指示したと思う。今回は4体のIBMで若干色合いは変えてあったが,コミック・ファンの目を意識してか,原作を大きく逸脱できなかったようだ。
 ■ その「黒い幽霊=IBM」の大きな特徴は,黒い砂のような粒子が立ち上る表現だ(写真2)(写真3)。亜人が死んで,復活すること(リセット)の暗示にも使われている(写真4)。パーティクル技術を駆使すればさほど難しいCG表現ではないが,コミックやアニメよりも格段に高品質だと感じさせることに成功している(写真5)。IBMの造形も質感表現も,比較的易しい対象だが,卒なくこなしている。IBMの動きは当然MoCap利用だろう。上述の『猿の惑星』シリーズのWeta Digitalのノウハウには遠く及ばないものの,クライマックスの四つ巴のバトルは見応えがあった(写真6)。佐藤健も綾野剛も見えない物体相手のアクション演出に見事に応えている。
 
 
 
 
 
写真2 原作コミック,アニメ版での黒い幽霊
 
 
 
 
 
写真3 これが本作での黒い幽霊。絶えず黒い粒子が出ている。
 
 
 
 
 
写真4 リセットされて復活する際にもこの粒子群が…
 
 
 
 
 
写真5 IBM表面の質感,陰影の付与も悪くない
 
 
 
 
 
写真6 グリーンスーツ相手のアクション演技も上々
(C) 2017「亜人」製作委員会
 
 
  ■ その反面,両者が復活した際の上半身裸のCG表現は少しプアだった。ジェット機がビルに墜落するシーンは単純な短いカットで,もう少し阿鼻叫喚の迫力あるシーンにして欲しかったところだ。CG/VFXの主担当はオムニバス・ジャパン,IBMのデザインはポリゴン・ピクチュアズで,他に10数社が参加している。  
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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