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O plus E誌 2015年3月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『フェイス・オブ・ラブ』:助演のロビン・ウィリアムズの物悲しげな姿が気になり,これが遺作かと思ったが,彼の死の前年の公開作品だった。主演はエド・ハリスとアネット・ベニングで,熟年カップルのラブストーリーだ。先月号の『トレヴィの泉で二度目の恋を』よりも少し若めとはいえ,こうした映画が増えているのは,米国の映画観客も高齢化が進み,ファミリー層だけでなく,シルバー市場も大きくなって来たということか。30年連れ添い,急死した夫と瓜二つの男性が登場し,2人はまもなく恋に落ちる。まさに映画でしかあり得ない恋物語であり,お気楽さはコミック「黄昏流星群」そのものだ。A・ベニングはまずまずだが,E・ハリスのデレデレと相好を崩した顔は好きになれない。彼は,軍人・ギャング・狙撃手等々,厳格で非情な役柄でないと似合わない。名優2人の起用法には難はあるが,住宅地やリゾート地の美しい景観には癒された。
 『アメリカン・スナイパー』:監督は,前作『ジャージー・ボーイズ』(14年10月号)が公開されたばかりのクリント・イーストウッド。84歳にして,このエネルギッシュさには畏れ入る。主人公は,米軍史上最高の狙撃手とされるクリス・カイルで,彼の自伝の映画化作品だ。4回のイラク派遣はすべて実話で,1.9km先の敵を狙撃したという。ゴルゴ13とて0.5~1kmだというのに,驚きだ。製作にも名を連ねるブラッドリー・クーパーが9kg増量して,この伝説のネイビーシールズ隊員役を演じる。『ハングオーバー』シリーズの軽薄な役柄の印象が強かっただけに,本作でその演技力を見直した。イラクに見立てて,モロッコで撮影されたという銃撃戦の迫力に息を呑む。ハリウッド映画のリアリズムを考えれば,これは現実に近いのだろう。近年の戦争映画のベスト3に入る出来映えだ。作品賞,主演男優賞でのオスカー・ノミネートも当然の結果だ。
 『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』:以前『シェフ! ~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~』(13年1月号)があったので紛らわしいが,本作は副題にある「フードトラック」がミソだ。オーナーと衝突して一流店を馘になった料理の達人が,キューバ風サンドの屋台店で大成功を収めるという,楽しい映画である。観客の誰もが,絶対にこのサンドを食べたくなる。とにかく贅沢な映画だ。料理もさることながら,助演陣が凄い。意地悪オーナー役にダスティン・ホフマン。その上,ロバート・ダウニーJR.,スカーレット・ヨハンソンをチョイ役に使うなど,贅沢極まりない。主演は,ジョン・ファヴロー。いくら料理の腕は一流でも,このむさ苦しい男に,別れた妻(ソフィア・ベルガラ)が美人過ぎるのが不思議だった。彼は主演だけでなく,自分で監督・製作・脚本も務めていた。そーか,それなら役得で,こんなハッピーな映画に主演できる訳だ。
 『くちびるに歌を』:中田永一の同名小説の映画化作品で,舞台は長崎・五島列島の小さな島。中学生の合唱団がコンクール優勝を目指して奮闘する青春映画だ。アンジェラ・アキの代表曲「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」に関するエピソードが元だけあって,当然,劇中でも同曲が歌われる。この前提で予想したのは,美しい島々を背景に,青春をぶつけ合う人間讃歌だが,正にその通りの作品だった。ベタな感動ドラマを真正面から描くのは簡単ではないが,試写会場では何人ものすすり泣きが聞こえていたから,成功の部類だろう。恋人を亡くして,故郷に戻ってきた臨時教師役の新垣結衣は,ふてくされた感じがよく似合う。現代版『二十四の瞳』だとも言えるが,彼女と,合唱部部長で薄幸の美少女(恒松祐里),自閉症の兄をもつ気弱な少年(下田翔大)が形作るトライアングルが,バランスよく配されている。カメラワークや編集も見事に仕上がっている。
 『アナベル 死霊館の人形』:ホラーの名作『死霊館』(13年11月号)に登場した不気味な人形の前日譚である。人形だけ同じで,登場人物も場所も全く異なっている。監督だったジェイムズ・ワンは製作に回り,同作の撮影を担当したJ・R・レオネッティがメガホンを取る。人形の名前は,自殺した持ち主の少女の名から命名されたというが,主人公のミアを演じる英国人女優の名が,何と,アナベル・ウォーリスである。そこまで呪われているのか,これも話題を呼ぶためのネタの一つなのか,洒落のつもりの悪い冗談なのだろう。物語は,洋風ホラーの定番料理で,それなりに上手くまとめているが,さして怖くない。ホラーには固定のファン層がいるが,彼らの目は肥えている。「J・ワン製作ならば,何か新しい趣向が欲しい」と感じたはずだ。
 『振り子』:原作は,元プロレスラーで吉本芸人の鉄拳の描いたパラパラ漫画だ。YouTubeで見られるわずか3分余の動画は,感動の家族ドラマとして話題を呼んだ。中村獅童と小西真奈美を主人公夫妻に据えた映画化では,夫人の両親や商店街の人々を追加して,100分の尺に足るよう物語を膨らませている。中村獅童の存在感はさすがだし,助演の武田鉄矢,板尾創路,小松政夫らが好い味を出している。研ナオコの老け役も乙なものだ。監督・脚本は,TBS社員の竹永典弘。初監督作品で,ハートフル・ドラマとしては合格点をつけられるが,サプライズを狙った結末が少し安易すぎる。ここは,原作に忠実な方が良かったのではないか。最後に,原作にならって全編を逆順にプレイバックする映像は,さすが映画のクオリティだと感じた。
 『妻への家路』:泣ける映画というより,随所でじんと来て,心に滲みる映画だ。中国の巨匠チャン・イーモウ監督が,かつての愛人コン・リーを再び主演女優に起用しての作品という点でも,話題沸騰だ。文化大革命で投獄された夫が,20年間の別居後に帰還すると,妻は記憶障害で自分を識別できなかった,という設定である。コン・リーも老け役が似合ってきて,好演の部類に入るが,妻に尽くす夫役のチェン・ダオミンの存在感の方が大きい。チャン・イーモウの演出も,武侠大作よりも,こうしたシリアス系の方が冴え渡る。そして,物悲しいこの結末……。文化大革命の直接の被害者である監督の強い反発メッセージを感じる。現代化政策で今豊かになったからといって,あの愚かな国家政策に翻弄された時代を忘れてなるものかと……。
 『パリよ,永遠に』:「パリは燃えているか?」は,第2次世界大戦下,敗色濃い1944年8月にパリの爆撃破壊を命じたヒトラーが発した言葉だ。ルネ・クレマン監督の同名映画(66)は173分の長尺であったが,同じパリ解放を描いた本作は,ぐっと短い88分の映画である。運命の8月25日未明から夜明けまでに限られていて,特命を受けたドイツ軍コルティッツ将軍と,街を守るため彼を説得するスウェーデン総領事ノルドリンクの交渉場面が大半だ。舞台作品の映画化だけあって,2人の丁々発止の会話が見どころである。将軍の爆破中止の決断の後,一夜明けたパリの街が美しい。エッフェル塔,オペラ座,ルーブル,ノートルダム……,そしてセーヌ河から見る朝陽の中の街に嘆息する。重苦しいベートーヴェンの交響曲第7番に始まり,J・ベーカーの歌「二つの愛」で締める音楽の配置も絶妙だ。
 『迷宮カフェ』:不思議な印象の映画だ。その原因は,この映画企画の成り立ちにあるのだろう。美人店主の古びたカフェの客が次々と失踪するが,雑誌記者がその謎を追う内,実は自殺願望者を言葉巧みに,ある計画に巻き込んでいることが判明する。これは高度なミステリーかと思いきや,中盤以降はベタベタなヒューマンドラマで,さらには骨髄移植のキャンペーン映画の様相を呈する。どうやら多数の医療機関の支援を得て製作された,ぎりぎりの低予算のようだ。途中ホラー・タッチの味付けもあれば,物語上のサプライズもある。脚本・編集は帆根川廣監督自身だが,なかなかのストーリーテラーだ。殺人犯逮捕や亡霊の種明かしなど,もっと本格的なサスペンスにし,最後までホラー性を維持した方が,むしろ最後に命の大切さを訴えるメッセージが生きたのにと惜しまれる。でもまぁ,この規模の映画なら,これ以上を望むのが無理というものか……。
 『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』:主人公である天才数学者の名は,アラン・チューリング。筆者らの計算機科学分野では,コンピュータの基礎原理たる「チューリング・マシン」の名を知らぬ者はいない。米国計算機械学会(ACM)が贈る「チューリング賞」は同分野のノーベル賞的存在である(まだ日本人の受賞者はいない)。この天才が,第2次世界大戦時に,ナチス・ドイツの暗号エニグマの解読に成功し,連合軍を勝利に導いた立役者であったとは,この映画を観るまで知らなかった。詳細は半世紀以上も伏せられていたというから,我々一般市民が知らなかったのも無理はない。人間関係が苦手な,この天才を演じるのは,ベネディクト・カンバーバッチ。残された本人の写真の方が凛々しいイケメンだが,癖のある人物の晩年の不遇を見事に演じている。一時期婚約者であった女性科学者を演じるキーラ・ナイトレイも,今までにない魅力を出している。それぞれ主演男優賞,助演女優賞部門でオスカー・ノミネートされているのも当然だ。
 『博士と彼女のセオリー』:上記の作と同様,英国ケンブリッジ大学が生んだ天才科学者の半生を描いた意欲作だ。アカデミー賞でも作品賞,主演男優賞を競っているライバル同士である。研究業績のブラックホール理論は難解だが,車椅子の物理学者スティーヴン・ホーキング博士の知名度は,A・チューリングよりもずっと上だろう。物語は暗号解読ほど劇的ではないが,学生時代に知り合い,その後の難病生活を支えたジェーン夫人との恋愛,25年間の結婚生活が克明に描かれている。ホーキング博士を演じるのは,同大学出身のエディ・レッドメイン。彼の役作りが凄まじい。ALS発症以降,進行する病状に合わせた表情や挙動は,生き写しを通り越して,本物の博士が演じているのかとすら思わせる。唯一気になったのは,声を失った博士が使う合成音だ。以前聴いた博士の講演時の音声は,もっと低品質だった。恐らく映画のために,クリアで抑揚のある最近の音声合成技術を使ったのだろう。
 『ディオールと私』:試写室にはファッション業界人と思しき女性が沢山いて,華やかだった。確か,このデザイナーを描いた映画は先日も観たはずだが,と思ったが,あれはクリスチャン・ディオールが後継者に指名した『イヴ・サンローラン』(14年9月号)だった。数年前のココ・シャネル関連の数作以降,デザイナーものが続いたので,今度は誰がディオールを演じるのだろうと楽しみにしたら,これは彼の伝記映画ではなかった。ディオール・ブランドの新ディレクターに抜擢されたドイツ人ラフ・シモンズが,初のオートクチュール・コレクションを発表するまでを記録したドキュメンタリーである。通常約半年かける準備を8週間の突貫作業でやるというから,舞台裏はまさに戦争状態だ。通常表に出ない,お針子たちとの作業現場を収録した映像は新鮮であり,晴れの舞台を前に緊張するシモンズを捉えたカメラは,まさにドキュメンタリー作品の真骨頂だ。
 
   
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