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O plus E誌 2016年6月号掲載
 
 
神様メール』
(アスミック・エース配給)
      (C) 2015 - Terra Incognita Films / Climax ilms / Apres le deluge / Juliette Films Caviar /ORANGE STUDIO / VOO et Be tv / RTBF / Wallimage
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [5月27日よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー公開予定]   2016年4月15日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  驚き,呆れ,ハッピーになる遊び心満載のコメディ  
  いかにもハリウッド製の定番映画が続いた後は,もう1本は欧州製の楽しい映画を紹介しておこう。CG/VFXの使用量は少ないが,VFXならではのシーンも存在したので,メイン欄で取り上げる口実ができた。
 主人公たちの活躍の拠点はベルギーの首都ブリュッセルだが,この映画はフランス,ベルギー,ルクセンブルグの合作扱いで,セリフは全編フランス語で語られている。欧州各国の映画祭で観客賞や最優秀女優賞等を受賞し,米国ゴールデングローブ賞では外国語映画賞部門にノミネートされていた。というのは,試写を観て,これは玄人受けし,一般観客も楽しめる非凡な映画だと感じてから仕入れた後付けの知識である。
 このシンプルで摩訶不思議な邦題からは,全くどんなジャンルの映画か想像できなかった。邦画で,ケータイ小説の映画化なのかと思ったほどだ。仏語の原題は『Le Tout Nouveau Testament』,英題は『The Brand New Testament』で,映画の字幕では「新・新約聖書」と訳されていた。といっても,肩の凝る宗教映画ではない。むしろその真逆で,徹底的に全能の神を茶化したコメディで,観客を思いっきり呆れさせ,笑わせ,そして人生で大切なものを教えてくれる類いの映画である。
 聖書について整理しておこう。「旧約聖書」はヘブライ語で書かれたユダヤ教の正典であり,「創世記」「出エジプト記」「レビ記」等々から構成されている。「ノアの方舟」は「創世記」の,モーゼが紅海を割って,ヘブライの民を導くのは「出エジプト記」中のエピソードである。一方,「新約聖書」はイエス・キリストの教え(福音)を,使徒(高弟)たちが伝承・記録したもので,「マタイ伝」「ヨハネ伝」等から成る。「海の上を歩く」「病気を触っただけで治す」等のエピソードが記されている。累積出版部数世界一である,この書を大改訂しようというのだから,奇抜この上ない発想の映画で,遊び心としか言いようがない。
 主人公は神様の娘で,JC(Jesus-Christ; イエス・キリスト)の妹エアなる10歳の少女(ピリ・グロワーヌ)である。何と,親子3人でブリュッセルの3LDKのアパートに住んでいる(写真1)。その1室で神様がパソコンを操作し,天地創造を行なっている。この神様(ブノワ・ポールヴールド)は,慈悲深さとは無縁で,実に嫌味で横暴な親父だ。最初にブリュッセルの町を造り,キリン,トラ等を誕生させるが,いずれも失敗作で,最後に自分に似せた人間を生み出したという訳だ。天地創造よりも先にPCが存在したのかと驚くが,コンピュータが世の中を支配してしまっている現代社会への皮肉なのだろう。
 
 
 
 
 
写真1 長男は磔刑で死に,今は親子3人でアパート暮らし
 
 
  人間同士を争わせ,人々が不幸になる出来事を起こして楽しんでいる父親を嫌い,娘エアは運命に縛られず生きて欲しいと,全人類に余命を知らせる電子メールを送る。その結果,世界中は大混乱に陥る。エアは家出して地上に降り,6人の使徒を探し出し,小さな奇跡を起こして人類を救おうとする……。最後に,思いがけない人物によって世界は救われるが,それは観てのお愉しみだ。
 監督・脚本は,ベルギー出身のジャコ・ヴァン・ドルマル。よくもこんな奇想天外な物語を思いついたものだ。西洋社会では,これは神への冒涜だという批判はなかったのだろうか? まさか,ISはこの映画に抗議して,パリやブリュッセルでテロを起こした訳ではあるまいが。
 分量は少ないが,CG/VFXシーンも登場する。
 ■ 余命通知のメールは,所謂AR表示で,効果的な表現方法になっている。6人の使徒の福音が加わる度に,ダ・ヴィンチの絵画「最後の晩餐」に1人ずつ描き加えて行くのも楽しい(写真2)。この6人の悩みを解決するエピソードは含蓄が深く,後でじっくり観直したくなる。使徒の1人は,大女優のカトリーヌ・ドヌーヴだが,彼女が愛し合う相手がゴリラだというのに驚く(写真3)。最新技術ならゴリラをCGで描くことも可能だが,本作では単なる着ぐるみのように見えた。
 
 
 
 
 
写真2 お馴染みの名画中の使徒が,どんどん増えてくる
 
 
 
 
 
写真3 あのC・ドヌーヴのお相手は,着ぐるみの彼
 
 
  ■ 兄のJCは既に死んでいて,家具の上に小さな彫像として飾られている。妹想いの彼は蘇って,彼女に語りかけるが,勿論単純な映像合成だ(写真4)。その他,鳥の群れ,神様の執務室(写真5),墜落寸前で急上昇する飛行機,水の上を歩くシーン(写真6)等々はCG/VFXの産物である。
 
 
 
 
 
写真4 兄のJCと語り合うシーンは,勿論VFX合成
 
 
 
 
 
写真5 壁面には膨大な数のファイルキャビネットがある。
 
 
 
 
 
写真6 さすが神様の子,こともなげに水の上を歩く
 
 
  ■ 最後に空一面が花柄で飾られるのも,単純なVFXだが幸せな気分に浸れる(写真7)。このシーンのバックに流れる音楽が絶品だ。まずはベルギー人歌手アダモの大ヒット曲「雪が降る」,次いで軽快なメインテーマの「Jours Peinards」,そしてエンドロールで流れるAn Pierle作曲のスコアも頗る美しい。
  
 
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写真7 最後はハッピー,ハッピーな気分にさせてくれる
(C) 2015 - Terra Incognita Films / Climax ilms / Apres le deluge / Juliette Films Caviar / ORANGE STUDIO / VOO et Be tv / RTBF / Wallimage
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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