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O plus E誌 2013年7月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『マーヴェリックス/波に魅せられた男たち』:伝説の天才サーファー,ジェイ・モリアリティの青春を描いた実話である。「マーヴェリックス」とは北カリフォルニアの海岸を襲う世界最大級の大波らしいが,こともあろうに,ハリケーン襲来期の超特大波に命がけで挑戦する話である。サーフィン・シーンの迫力は,『ソウル・サーファー』(12年6月号)より数段上だ。他人には酔狂としか思えないはずが,語り口が上手く,「スポ根」もののように感情移入してしまう。父をなくした高校生(ジョニー・ウェストン)とサーフィンの師匠(ジェラルド・バトラー)の擬似父子のような交流も,臭くなく,気持ちがいい。製作総指揮にも名を連ねるG・バトラーは,『エンド・オブ・ホワイトハウス』(2013年6月号)同様,気合いが入っていて好演だ。
 ■『嘆きのピエタ』:「ピエタ」とは,十字架から降ろされたイエスの亡骸を抱く聖母マリアを描いた絵画や彫像だそうだ。それがテーマで,ヴェネツィア国際映画祭の金熊賞受賞作となると,欧州製の宗教映画かと思ったが,キリスト教とは無縁の韓国映画だった。主人公は闇金融の取立て屋で,突如彼の前に「自分はお前を捨てた母親だ」と名乗る謎の女が登場する。債務者を追いつめる極悪非道ぶりと,韓国社会の貧困層の描き方が強烈で,まさに息もつけない重苦しさだった。次第に心を通わせる新しい形の母と子の愛の物語かと思えば,話は後半に急旋回する。前評判は高く,「衝撃のラスト」と聞いていたので,色々なパターンを想定して観たのだが,全く想像もしない結末だった。ネタバレとなるので,その光景は書けないが,なるほど重い十字架を背負ってゴルゴダの丘へと向かったイエスの姿が二重写しのように見えてきた。監督は,『アリラン』(11)のキム・ギドク。後味は決して良くないが,印象に残ること間違いなしの力作である。
 ■『100回泣くこと』若い男女のラブストーリーを熟年世代が観賞する場合,我が子を見守る立場か,あるいは自分がタイムスリップして同化し,感情移入できるかが,映画の良し悪しのポイントとなる。映画の愉しみの1つは,非日常で有り得ない出来事を,疑似体験させてくれることとはいえ,この映画の男女にはいずれの感情も持ち得なかった。男性は記憶喪失,女性は不治の難病と,バカバカしいシチュエーションの揃い踏みはあんまりだ。加えて,見るからに演技不得手と思える男優&女優である。男女の日常会話だけなら誤魔化しも利くが,この女優にシリアスな演技は無理というものだろう。本人たちが一生懸命やっているのは感じられるが,どうやっても100回は泣けない。
 ■『ハングオーバーIII 最後の反省会』:大ヒットしたコメディシリーズの3作目で,完結編である。1作目は一体何が面白いのかと感じたが,2作目ですっかり見直した。3作目ともなると,4人組の個々の性格も熟知しているので,親しみすら湧いてくる。前2作はラスベガス,バンコクを舞台にしたハプニングだったが,本作でも両都市が再登場する。ダグの出番が少なく,アランの出番が多いが,前2作にも登場したアジア系マフィアのミスター・チャウがもっと大きな役割を占めている。アクション度はアップした半面,ハチャメチャ度は減ったのが,少し残念だ。大半の観客はそう感じるはずだ。それを理由に,シリーズ再開の可能性もあるが,それでもいいだろう。
 ■『アンコール!!』:題名からすぐ音楽映画と分かるが,こういうシンプルな表題は混同しやすい。4月号の『カルテット! 人生のオペラハウス』が元音楽家たちが暮らす老人ホームの様子を描いていたのに対して,こちらは素人の老人合唱団で,その名も「年金ズ」である。彼らがラップやメタルロックのヒット曲を歌い,踊る姿が微笑ましい。さしずめ,シニア版「glee」だ。主演はの老夫妻は,英国の名優テレンス・スタンプとヴァネッサ・レッドグレーヴ。筋金入りの頑固爺さんが,亡き妻の代わりに合唱団に参加するが,誰ともソリが合わない。果たして秘かに練習したラブソングが,国際コンクール本番で実を結ぶか……。これだけの情報で,展開も感動度も予測できるが,ほぼその予想通りの映画だと考えて良い。
 ■『欲望のバージニア』舞台は禁酒法時代の米国バージニア州で,密造酒ビジネスで悪名をはせたボンデュラント3兄弟を描いた実話だ。映画のタッチとしては,明らかにニューシネマの名作『俺たちに明日はない』(67)『明日に向かって撃て!』(69)を意識している。メジャー系作品ではないが,出演者が飛び切り豪華だ。シャイア・ラブーフ,トム・ハーディ,ジェシカ・チャステイン,ミア・ワシコウスカといった当代の人気俳優に加えて,助演陣のガイ・ピアース,ゲイリー・オールドマンが個性的な演技で脇を固める。監督は『ザ・ロード』(10年7月号)のジョン・ヒルコート。鬼才ニック・ケイヴが脚本と音楽を担当しているが,かなり骨太の曲が続く。原題は単に『Lawless』だが,邦題の方がずっと印象に残る。
 ■『コン・ティキ』:ちょっと珍しいノルウェー製の映画だ。これも実話であり,全世界で5,000万部を売った大ベストセラー『コン・ティキ号冒険記』の映画化作品というが,今までこの話を全く知らなかった。何しろ,戦後すぐの1947年の冒険で,翌年の出版である。同国の海洋生物学者トール・ヘイエルダールが,自分の学説を実証するため,1,500年前の製法で組んだ筏で,5人の仲間と南米のペルーから南太平洋のポリネシア諸島まで辿り着いた。この102日間,約8,000kmに及ぶ漂流航海の模様を見事に映像化している。潜水艦ものと同様,漂流もの映画にも外れはないというが,まさにその通りだった。意図的な漂流ゆえに,克明な記録映像が残されていて,それを参考にした上に,ヘイエルダール氏の孫が実際に使った筏を再利用したという。英語版とノルウェー語版,両方作るため,労力は2倍になり,海洋シーンの撮影は1ヶ月以上に及んだことも,リアリティ増に繋がっている。いや,素晴らしい。
 ■『25年目の弦楽四重奏』:こちらも音楽映画で,原題は『A Late Quartet』だが,少し記憶に残る邦題がついていることが嬉しい(さすがに『カルテット』にする訳には行かなかっただけか?)。素人集団でも引退した音楽家でもなく,結成25周年を迎える現役の一流の演奏家たちが主人公である.ところが,最年長のチェリストが不治の病により,突如引退を表明したことから,他の3人にも不協和音が生じ始める。夫婦間での不信感,親子関係のきしみ,落ちてはならない恋等,複雑に絡み合う人間模様を,クリトファー・ウォーケン,フィリップ・シーモア・ホフマンら名優たちの演技で見事に綴る。ヒューマンドラマが主題で,音楽は添えものかと思いきや,クライマックスに登場するベートーヴェン「弦楽四重奏曲第14番」の演奏には魂が震えた。とりわけ,第2ヴァイオリンの役割の重さを,これほど感じたことはない。強いて難点を挙げれば,各俳優の楽器演奏演技がお粗末過ぎることだろうか。実際の演奏はプロの合奏団で,彼らは弾く振りをしているだけだと分かっているものの,新任チェリスト役以外は,余りにも嘘っぽく,映像と音のギャップを感じてしまった(あとで調べたら,この女性チェリストだけは,本物の演奏家だった)。
 ■『ベルリンファイル』:韓国製のスパイ映画で, 『シュリ』(99)のハン・ソッキュが韓国国家情報院のエージェント,若手実力派のハ・ジョンウが北朝鮮諜報員を演じ,その妻役は『猟奇的な彼女』(01)でお馴染みチョン・ジヒョンだ。朝鮮半島内の単なる南北攻防ではなく,ベルリンを舞台に,CIA,イスラエル諜報特務庁,アラブ系組織,ロシア人ブローカー,ドイツ政府までが絡み合う複雑な展開で,まさに国際級のスケールで描かれている。二重スパイ疑惑,陰謀,裏切り……,これは知的なサスペンス・ミステリーかと思いきや,後半は一気にノンストップ・アクションへと変身する。脚本・監督は,俳優でもあるリュ・スンワン。この意欲的な作品から,ハリウッド進出しても十分通用すると感じられた。
 ■『バーニー みんなが愛した殺人者』:監督リチャード・リンクレイターに,主演ジャック・ブラックとくれば,あの『スクール・オブ・ロック』(03)と同様の爆笑コメディを期待してしまう。「テキサスで起こった嘘みたいなほんとうの話」とは,町の人気者の葬儀ディレクター助手が,嫌われ者の老女(シャーリー・マクレーン)を殺害した1996年の「マージョリー・ニュージェント事件」である。前半は期待通り,J・ブラックしか演じられない怪演で,間違いなく抱腹絶倒する。町の住人がこの事件について語るインタビューの挿入は,実録ドキュメンタリー風の味付けで,面白いアイディアだと思ったが,何と本物の住人の声だそうだ。異例の裁判から判決に至る後半がもう1つしっくり来ないのは,実話の限界だろうか。いっそ,フィクションで,事実とは違う結末にした方が,はるかに面白かったと思う。
 ■『最後のマイ・ウェイ』:1960年代から1970年代に活躍したフレンチ・ポップスの人気シンガー,クロード・フランソワ(愛称:クロクロ)の生涯を描いた音楽映画である。フランク・シナトラの「マイ・ウェイ」の原曲がフランス製であることは知っていたが,こんな人気シンガーの作だとは知らなかった。デビューから人気歌手になる過程,人気凋落での焦り,乱れた私生活,周囲との確執等の舞台裏の描写は,ボビー・ダーリン,ジョニー・キャッシュ,レイ・チャールズ等を描いた伝記映画と相似形である。それでいて,今一つ感動度が少ないのは,筆者がこの歌手に愛情を感じられないからか。フランスで大ヒットとなったのは,知名度ゆえのことだろう。かなりの製作費をかけただけあって,当時のファッションやコンサートシーンの再現は拍手ものだ。勿論フレンチ・ポップスを堪能できるが,恋人のフランス・ギャルのヒット曲「夢見るシャンソン人形」は少ししか流れない。「マイ・ウェイ」を作詞し,シナトラに提供したポール・アンカが登場しないのも残念だ。
 
  (上記のうち,『嘆きのピエタ』『25年目の弦楽四重奏』はO plus E誌に非掲載です)  
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