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O plus E誌 2014年3月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『エージェント:ライアン』:トム・クランシーの人気小説の主人公「ジャック・ライアン」の4代目には,新『スター・トレック』シリーズでカーク船長役のクリス・パインが起用された。本作には特定の原作はなく,オリジナル脚本である。若きライアンが海兵隊を退役し,CIA分析官となるところから始める,流行りのリブート作品だ。「遠足前のにやけた顔」では,天才的アナリストには見えないし,ボーン・シリーズのようなタフなエージェントだけでは新味がない。どうするのかと思ったら,最新IT技術をふんだんに登場させ,もの凄い疾走感で押しまくる。助演陣は,ケネス・ブラナーが,監督兼敵役というユニークな兼務で異彩を放っていた。上官ハーパー役は,洒落っ気でハリソン・フォードを使って欲しかったところだが,ケヴィン・コスナーだった。この上下関係がなかなかいい。文学性や芸術性は全くないが,エンタメとしては上々だ。
 『ダラス・バイヤーズクラブ』:オスカーレースでのライバル『アメリカン・ハッスル』(13)で, C・ベイルが19kg増量しての熱演だったのに対して,こちらは主演のマシュー・マコノヒーが21kg,助演のジャレッド・レトが18kg減量して,エイズ感染した患者役を演じる。まさに,鬼気迫る演技だ。HIV陽性で余命30日と宣告された電気技師が,米国で未認可の治療特効薬をメキシコから密輸し,生き延びる。やがて,害の少ない薬を世界各国から密輸し,会員制クラブで患者等に提供するサービスを始める。1980年代から90年代にかけての実話がベースだ。テーマは,製薬会社と医師の不正,薬剤認可機関の怠慢を告発する社会派作品でありながら,暗くなり過ぎず,女性医師とのラブ・ロマンスも交えて,楽しませてくれる。脚本もさることながら,M・マコノヒーの演技力が光っていた。やはり,増量より減量した方が,真摯な演技の印象が強い。
 『ゲームセンターCX THE MOVIE 1986 マイティボンジャック』:長い題だが,CSフジテレビの人気ゲームバラエティ番組の映画化作品で,1986年発売のレトロなビデオゲームの攻略を描いている。ゲーマー対象の他愛もない低予算映画と思いつつも,「ファミコンを愛する全ての人たちへ」のキャッチコピーが気になって,ついつい観てしまった。初代ファミコンが人気沸騰した1986年の中学生たちの生態と,上記番組の2006年の公開収録風景の2つの時代を織り交ぜて描いている。映画の半分以上が,番組のメインパーソナリティ有野課長が当該ファミコン・ゲームの全面クリアを目指して奮闘する様を実況している。他人がプレイするゲーム画面を映画として眺めて面白いかと言えば,これが結構面白い。完全に熱中して行方を見守ってしまう。映画への感情移入,物語への没入は,この程度の単純な仕掛けで十分だと見透した上での企画なら,大したものだ。
 『ジョバンニの島』:長編セル調アニメで,この島は北方領土の色丹島のことだ。時代は太平洋戦争終戦直後で,ソ連軍の突如の進駐で翻弄され,やがて樺太に収容される島民たちのドラマだ。幼い兄弟が必死に生き抜こうとする姿,離れ離れになった父を慕っての脱出,美しいロシア人少女との淡い恋等,切ない物語が織り込まれている。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を,うまくモチーフの1つにしている。映画の前半,この映画をコストのかかるアニメとして作る必要があるのかと思ったが,中盤以降,これはアニメでしか製作できなかったと納得した。今の日本映画界なら,この規模の物語を実写映画で撮る力はない。詩的で美しい背景画の数々は,アニメ界の作画者のレベルの高さゆえの産物だ。表情に乏しい(お馴染みの)アニメ顔ゆえに,声優たちの感情を込められたセリフが生きていると言える。
 『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』:これもオスカー候補作だが,シネスコ・サイズ,モノクロという,最近ではちょっと珍しいフォーマットだ。詐欺まがいの商法なのに,100万ドル当たったと言い張る頑固な父に心優しい息子が付き合い,モンタナからネブラスカの町まで1,500マイルを旅するロード・ムービーである。途中,父母がかつて住んだ故郷の町に立ち寄るが,何たる田舎,殺伐とした風景だ。親族や旧知の友人達の言動は呆れるばかりで,なるほど,その心象の描写にモノクロは合っている。ラスト10分間は至福の展開で,サウジ映画の『少女は自転車にのって』(12)と好一対だ。最後の数分だけをカラーで描いても良かったかと思う。観終わって,自分はこれほど親孝行ではないと恥じ入るが,世の息子達の大半がそう感じることだろう。
 『グロリアの青春』:ちょっと珍しいチリ映画だが,ベルリン国際映画祭で銀熊賞と主演女優賞を獲得している力作である。主人公は子育てを終え,離婚もした58歳の女性で,ダンスホールで口説かれた60代の男性と新たな恋愛関係に陥る。理想のパートナーに見えた元海軍将校と元家族との関係に,彼女は苛立ちを感じ始める……。熟年男女の性愛を描いた物語は,ビッグコミックオリジナルに連載の「黄昏流星群」を思い出す。多彩な男女関係を描く同シリーズの大半は,暖かみや夢のある結末で終わるのに対して,本作のヒロイン,グロリアの会話はもっと辛辣で,行動も奔放だ。彼女の力強い生き方に共感を抱く女性は世界中にいて,映画祭では高評価を得ることも理解できるが,筆者は余り良い感情を抱けなかった。老人たちの赤裸々なベッドシーンなど,見たくもない。ただし,エンディングのダンスホールのシーンには,この監督の才能を感じた。
 『それでも夜は明ける』:原題は『12 Years a Slave』で,本作もオスカー有力候補の1つだ。時代は1841年,ニューヨークに住むバイオリニストの自由黒人が誘拐され,南部の農園に売られて,12年間の過酷な奴隷生活を強いられた実話に基づいている。今尚このおぞましい時代の事実を訴えたい黒人たちの心情や,白人側の贖罪感は理解できるが,南北戦争後150年も経つというのに,一体いつまでこの種の映画を撮り続けるのだろう。奴隷ものやホロコーストものは,入場料を払ってまで観たくないという映画ファンの声もよく耳にする。そうした声をものともせず,堂々たる態度で描き切った良作だ。つらい映画であっても,評点は高くつけざるを得ない。主演は,キウェテル・イジョフォー。助演のマイケル・ファスベンダーとベネディクト・カンバーバッチは,本来なら逆の役だろうと誰もが思うが,そうしなかったところが,この映画の真骨頂だ。ただし,ブラッド・ピットの役柄にはがっかりした。製作者の1人とはいえ,自分だけいい子振るのは興醒めだ。
 『偉大なる,しゅららぼん』:奇想天外な着想の人気作家・万城目学の同名小説が原作で,映画化は『鴨川ホルモー』(09)『プリンセス トヨトミ』(11)についで3作目である。彼の作品は,京都,奈良,大阪と,常に関西が舞台だが,本作は滋賀県琵琶湖周辺の町での,不思議な超能力をもつ一族同志の争いが描かれている。彦根城が何度も登場し,地域振興の点でも映画化は歓迎なのだろうが,それにしても安直な作りだ。脚本・演出・CG,どれも語るに値しない。『十戒』(56)のように湖が割れ,落雷や竜までも登場するから,メイン欄でCG/VFXを解説するつもりだったが,それも断念した。原作はユニークな和風ファンタジーなので,作りようによっては『ホビット』シリーズのようにもできたはずだ。濱田岳,笹野高史といった芸達者を起用しながら,この体たらくは,製作者の志が低いと言わざるを得ない。
 『グランドピアノ ~狙われた黒鍵~』:主題からは,芸術性の高い音楽映画を想像した。『ロード・オブ・ザ・リング』(01~03)のイライジャ・ウッド主演で,超絶技巧をもつ天才ピアニストが,5年前の演奏ミスを引きずって生きている役というので,それを克服する様子を描いた感動系のヒューマン映画かとも思った。結果はハズレで,副題が示すように,演奏中に大金目当ての狙撃手に狙われる(ある種の)パニック映画だった。いくら天才ピアニストが危機的状況とはいえ,演奏中に携帯電話で話したり,楽譜の下で携帯メールまで打つのには仰天した。と思いつつも,演奏しながらの脅迫犯との駆け引きは結構面白い。このまま進めばエンタメとして十分面白いと思ったのに,終盤の盛り上げ方が下手くそで,竜頭蛇尾に終わってしまった。素材は悪くないだけに,ちょっと残念だ。
 『ランナウェイ・ブルース』:片足のない身障者の兄が轢き逃げ事件を起こしたことから,警察に追われ,彼を支える弟との2人の逃避行を描くヒューマン・ドラマだ。舞台は,1990年米国ネバダ州のリノ。孤独,貧困,不運続きの境遇は,観ている側も気が重くなるが,優しい目線での描写で,少し希望を感じさせるエンディングに救われる。たった85分の単純な物語を味わい深いものにしているのは,手書きアニメとカントリー・ミュージックだ。弟が語る夢物語に兄がイラストを添え,それがアニメ化されて,この映画の随所に登場する。2人の会話にウィリー・ネルソンの名前が何度も出た上,ボブ・ディランの歌が流れ,弟フランクを見守る雇用主役をクリス・クリストファーソン('70年代に活躍したカントリー界の大御所)が演じる。これは,監督デビュー作というポルスキー兄弟の好みなのだろう。
 
   
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