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O plus E誌 2014年11月号掲載
 
 
ドラキュラZERO』
(ユニバーサル映画 /東宝東和 )
      (C) Universal Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月31日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2014年10月6日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  実在の君主ドラキュラ公が,闇の力で蝙蝠を操る  
   また,ヴァンパイア映画だ。欧米人の吸血鬼好きにも感心する。古代から吸血鬼伝説が存在し,日本とは異なる文化に根ざしているためだろうか。かつては,フランケンシュタイン,狼男と並んで「三大怪人」と呼ばれたが,最近の映画界での人気は,他の二者に圧倒的な差をつけ,ゾンビものと双璧である。
 映画史をたどると,ドイツ製の『吸血鬼ノスフェラトゥ』(22)やハリウッド製の『魔人ドラキュラ』(31)が初期の作品だが,1970年頃から目立つようになった。21世紀になって再度のブームが訪れ,今や年数本のペースである。『トワイライト』シリーズ,『アンダーワールド』シリーズをはじめ,『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)とそのリメイク作の『モールス』(11年8月号),ジョニー・デップ主演の『ダーク・シャドウ』(12年6月号),大統領を吸血鬼ハンターに仕立てた『リンカーン/秘密の書』(12年11月号)等々が思い浮かぶ。
  「Vampire」は「吸血鬼」の意の一般名詞だが,長らく「ドラキュラ伯爵」が吸血鬼の代名詞であった。1897年に出版されたブラム・ストーカー作のホラー小説「ドラキュラ」が余りに有名で,その主人公の正装に黒マント(裏地は赤),牙が生えた姿が,吸血鬼のシンボルとなっている。しばしばハロウィーンからドラキュラを連想するが,これはハロウィーンの仮装大会で,この仮装をする人が多いためだろう。映画では『吸血鬼ドラキュラ』(58)の印象が強く,ドラキュラ俳優と言えば,同作の主演のクリストファー・リーを思い出す。
 さて,「ZERO」を表題に入れた本作は,B・ストーカーが生み出した「ドラキュラ」の直接の前日譚ではない。もっと昔の15世紀に,そのモデルとなる歴史上の人物がいた。トランシルヴァニア南部,ワラキア地区の君主ヴラド3世,別名ヴラド・ドラキュラ公である。本作は,実際にこの名(竜の子の意)を名乗っていた彼の物語である。原題は『Dracula Untold』で,「誰も語らなかったドラキュラ」といったところだろうか。
 民衆から敬愛されていた君主が,横暴で強大なオスマン帝国の侵略を受け,領民と妻子を守るため,闇の力と契約を交わして不思議なパワーを得る。それで一旦は敵を倒すことができたが,耐え難い代償を払うことになり,最終的には,悪の吸血鬼として生きなければならない運命にさらされる……。というのが,物語の骨子である。勿論,実在の人物が空を飛び,コウモリを操るような超能力があった訳はなく,吸血鬼であった証拠もない。その点では,全くのフィクションの娯楽作品である。
 監督は,本作が長編映画デビューとなるゲイリー・ショア。CMディレクター出身なので,CG/VFXの使い方には通暁している。ヴラド公役に抜擢されたのは,ルーク・エヴァンス。『タイタンの戦い』(10年5月号)から『ホビット 竜に奪われた王国』(14年3月号)まで,当欄で紹介の大作6本に出演していたようだが,殆ど見覚えがない。かといって,没個性の平凡な顔でもない。本作では,凛々しい,戦う君主に相応しい表情で登場する(写真1)。これでブレイクすることだろう。妻ミレナ役には,『危険なメソッド』(11)のサラ・ガドン。なるほど,清楚な美人で,これなら身を賭して守りたくもなる(写真2)。応援したくなるカップルだ。ネタバレになるので,この2人の運命を書く訳に行かないが,最後に少し嬉しくなるオマケのシーンが付されている。
 
 
 
 
 
写真1 凛々しく,精悍で,戦う君主のイメージにぴったり
 
 
 
 
 
写真2 男性観客の大半は,思わず応援したくなる美形の奥方
 
 
  以下は,CG/VFXを中心とした見どころである。
 ■ 現在はルーマニアの一部であるトランシルヴァニア地方。その15世紀の美しい光景や,オスマン帝国の大軍を描くのに,CG/VFXのパワーが駆使されている。ドラキュラ城は,実在の二つの城の外観をデジタル加工した産物だ(写真3)。CG/VFXの主担当はFramestore社だが,その実力をもってすれば,軽い肩慣らし程度だ。
 
 
 
 
 
写真3 これが,15世紀トランシルヴァニアのドラキュラ城
 
 
   ■ ヴァンパイアの生き血を吸って闇のパワーを得たドラキュラ公が竜と化し,崖から飛翔するシーンで目が覚める(写真4)。その翼が多数のコウモリとなり,オスマン軍を薙ぎ倒すシーンは圧巻であり,思わず身を乗り出す(写真5)
 
 
 
 
 
写真4 この崖から,竜に変身して大飛翔
 
 
 
 
 
写真5 コウモリと化し,オスマン帝国軍を薙ぎ倒すシーンに目を見張る
 
 
  ■ その後,彼は自在にこのコウモリを操る術をマスターする(写真6)。自らも素早くコウモリに変身したり,大軍の中をコウモリの群れが縦横無尽にすり抜ける描写は好い出来だ。これまで多数のコウモリを本格的にCGで描いた作品はなかったので,変身までさせるのは新たな挑戦であったと言えよう。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 最大の見どころは,多数のコウモリを自在に操る様
(C) Universal Pictures
 
 
   ■ その他では,吸血鬼の舌が伸びたり,傷が治ったり,陽の光を浴びて顔が崩れるシーン等々があったが,驚くには値しない。太陽光と十字架が苦手なのは定番だが,そう言えば,本作にニンニクは登場しなかった。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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