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O plus E誌 非掲載
 
 
暗殺教室
〜卒業編〜』
(東宝配給)
      (C) 2016フジテレビジョン 集英社 ジェイ・ストーム 東宝 ROBOT
(C) 松井優征/集英社

 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [3月25日よりTOHOシネマズ日本橋他全国ロードショー公開中]   2016年3月22日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  コミックと同期させた完結編は,予定通りの大団円  
  本作も4月号で紹介できなかったのが,残念至極な作品だ。前作『映画 暗殺教室』(15年4月号)の公開後,続編の製作決定,1年後の同時期に完結編の公開と報道されていたので,当然,同じ4月号に掲載する予定を立てていた訳である。ようやく,マスコミ試写を観ることが出来たのは,上述の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』と全く同じで,公開3日前の3月22日のことだった。これは,映画の完成が遅れたためではなく,原作の連載が終了するまで,マスコミからの結末のリークを防ぐための方策だったのかも知れない。
 ともあれ,Webページだけになり,紙数制限がなくなったので,通常の記事とはスタイルも変え,長めに論評することにしよう。
 
 
 【よく計算されたメディアミックス作戦】
 前作の評では,「出来映えは,コミック≧TVアニメ>>映画の順」と厳しい評価をし,評点もしか与えなかったが,ある読者から「愛情溢れる紹介」と指摘された。確かに,この原作の教育観,殺せんせーの人物造形の斬新さ,ギャグ・センスはかなり気にいっていた。映画ならではの迫力が乏しかったことを嘆いていただけで,「この基本骨格がしっかりしているなら,後はスケールの大きなアクションと組み合わせるだけで,かなりユニークで,強力なシリーズとなるはずだ」というエールを送っていた。
 元々,月の7割を破壊した超生物が,翌年3月に地球を破壊するという設定であり,この生物が椚ヶ丘中学校3年E組の担任「殺せんせー」となってからの1年間を描いている。原作コミックは,この1年を2012年から3年半以上連載しているのだから,同じ程度の時間をかけ,各学期でのエピソードを膨らませば,楽しい映画になると思ったのだが,連作シリーズにはならず,早々と2016年3月に完結編が公開されると報じられた。即ち,前後編たった2作で終わってしまうのだ。膨らませるどころか,原作の一部をカットしたスリムな完結編とし,コミックと同時完結させて,話題を呼ぶ戦略が選ばれたようだ。
 TVアニメは,新年から第2期がスタートしている。これは6月まで続くが,その真っ只中で,3月19日発売の週刊少年ジャンプ16号でコミックの連載が完結し,3月25日に「卒業編」と題した映画が公開されるという。2月下旬には,原作者・松井優征が両者は全く同じエンディングであることを公言している。映画の公開が近づくと,TVのバラエティ番組には生徒役の俳優や殺せんせー姿の人物が「暗殺教室チーム」として登場し始めた。見事なメディアミックス戦略である。筆者も見事にその話題作りにトラップされてしまい,本作の試写を観る前に,何と,約30年ぶりに週刊少年ジャンプを購入し,一足先に結末を確認した次第だ。
 
 
 【卒業編の見どころ】
 監督の羽住英一郎とスタッフ,潮田渚(山田涼介),赤羽業(菅田将暉)以下の生徒達も続投で大きな変化はない。前作公開時に「殺せんせー」の声は,嵐の二宮和也であることが明らかにされた。本作では,この声の出演だけでなく,予想通り「殺せんせー」の前身である「殺し屋・死神」として,素顔を見せて登場する。彼と心を通わせる元3年E組担任・雪村あぐり役には桐谷美玲,反物質を研究する科学者・柳沢博士役に成宮寛貴が,新顔の重い役で起用されている。いかにも,青春映画風のキャスティングだ。
 物語は,すっかり人気者になって殺せんせーの暗殺を中止すべきという阻止派と,あくまで暗殺こそが目的とする暗殺継続派に,クラスが2分されるところから始まる。冒頭30分は実に楽しかった。これぞ,筆者が連作を期待した学園ものコメディの姿だった。そして,前作で少し予告されていたように,茅野カエデ(山本舞香)が黒い触手を顕にして,暗殺者としての正体を明かす。彼女は雪村あぐりの妹・雪村あかりであり,殺せんせー自身が過去を語り始めるところから物語は急展開する……。
 A組との学力対決等,いくつかのエピソードを割愛しつつも,ほぼ原作コミック通りの展開で進行し,地球破壊のタイムリミットが迫る中でクライマックスを迎える。原作コミックのファンは実写映画で感激を再確認し,TVアニメのファンは,ある種の予告編としてこの映画を観に行くという訳だ。
 
 
 【CG&VFXに関して】
 前後編の2本で終わる以上,バランスもあり,CG/VFXでの大きな飛躍は期待していなかったが,ほぼ想定の範囲内だった。殺せんせーの描写は,アカデミックドレスを着用した俳優の演技をトレスして,頭部や触手をCGで上書きするというスタイルが踏襲されている(写真1)。マッハ20での移動は当然フルCGだが,その登場場面はさほど多くない。
 
 
 
 
 
写真1 衣類の質感は本物で,頭部と触手をCGで描き加えている
 
 
  茅野カエデの触手,終盤に悪役として変身する柳沢博士は勿論CGでの描写だが,これも想定の範囲内だった。ビジュアルとして優れていた場面を強いてあげれば,死神と雪村あぐりとのガラス越しのラブシーンだろうか。この場面での死神の触手の描写は,本シリーズ中のベストとしておこう。
 クライマックスで,殺せんせーが光り輝くシーン,続いて登場する光の球は,コミックやアニメでは描けないCGの得意場面であるが,まずまずの出来映えで,ぎりぎりの及第点だ。
 VFXの主担当はNICE+DAY社で,他約30社が参加している。各社僅かずつの割り当てとはいえ,全体としてあまり進歩を感じない。邦画で予算が限られているというのは言い訳にならないだろう。同じく,コミックが原作で,東宝配給作品の『アイアムアヒーロー』(16年5月号)の試写を2日後に観たが,SFX& VFXの出来映えは素晴らしく,見事な映画化成功作品であった。
 
 
 【再び応援のエールを】
 筆者は,原作で語られている現代風教育観を好ましく感じていた。特に,単行本第13巻「進路の時間」での殺せんせーの進路指導はなかなかのものだ。中学卒業の8年後を描いた最終回での各生徒の未来と比べると興味深い。
 原作者は,連載の当初から最終回のイメージを固めていて,コミックも映画もこの終わり方しか考えられなかったという。なるほど,すべてを卒業式シーズンにと構想していたなら,殺せんせーのアカデミックドレス姿も理解できる。春の桜の下での姿が,実にキマっている(写真2)
 
 
 
 
 
写真2 卒業式シーズンに,アカデミックドレス姿はよく似合う
(C) 2016フジテレビジョン 集英社 ジェイ・ストーム 東宝 ROBOT (C) 松井優征/集英社
 
   
  原作者が意図した当初の構想は一応完結したとして,この素晴らしいキャラクターを復活できないものだろうか。中学3年生1年間の途中のエピソードを,追加で細々と描くシリーズでもいいし,突如として殺せんせーを復活させ,別の中学校や高校に登場させてもいい。元々正体不明の奇妙な超生物であったのだから,それしきの復活はどんな理由でも,後追いで付けられる。アニメと映画をうまくリンクさせるだけで,いくらでも続けることができる。現に,邦画の人気アニメは,そうしているではないか。
 ただし,本シリーズを復活させるなら,もっとしっかりしたCG/VFXでスケールアップし,国内VFXスタジオのレベル向上に繋げて欲しいと要望しておきたい。
 
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