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O plus E誌 2016年2月号掲載
 
 
白鯨との闘い』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [1月16日より新宿ピカデリー他にて全国ロードショー公開中]   2015年12月22日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  漂流記は凡庸だが,白鯨のCG描写は一見の価値あり  
     「白鯨」と言えば,ハーマン・メルヴィル著の長編海洋小説だ。アメリカ文学の代表作として,中学校・高校の読書対象リストには大抵載っている。実を言うと,筆者も昔夏休みに挑戦し,退屈のあまり,途中で投げ出した組である。それでも,巨大な白鯨に足を食いちぎられた船長の復讐物語だったことは覚えている。既に何度も映画化されているが,CG製の白鯨が登場する3D最新作はリターンマッチに丁度良いと思った。ところが,どうも小説「白鯨」自体の映画化作品ではないらしい。
 メルヴィル役の俳優名があるので,この小説家の伝記もので,代表作執筆の裏話なのかというと,それとも違うようだ。「白鯨」の復讐譚はフィクションだが,19世紀前半の米国の捕鯨船団が鯨に襲われて難破したというのは実話で,その海難事故の模様を描いたノンフィクション「復讐する海―捕鯨船エセックス号の悲劇」なる書籍が2003年に出版されている(180年後に,どうやって調査したのだろう?)。本作はこの本が原作で,モビィ・ディックらしき巨鯨は出て来るが,エイハブ船長は登場しない。小説家メルヴィルが,漂流の末,生還した生き証人に長時間取材するという設定だが,これは映画化に際しての脚色のようだ。
 時代は1819年,当時は燃料としての鯨油は貴重品で,それを得るための捕鯨船団は,米国マサチューセッツ州のナンタケット島を基地としていた。その捕鯨チームの結成の様子が描かれ,エセックス号が白鯨に襲われて沈没するまでが前半だ。後半は,3艘のボートに分乗しての漂流記だが,白鯨は再度登場する。
 監督は,『アポロ13』(95)『ビューティフル・マインド』(01)のロン・ハワード。当欄では,大作『ダ・ヴィンチ・コード』(06年6&7月号)『天使と悪魔』(09年6月号)でお馴染みだ。主演の一等航海士役には,『マイティ・ソー』シリーズのクリス・ヘムズワース。ハワード監督作品は,『ラッシュ/プライドと友情』(14年2月号)で主演している。助演は,ポラード船長役にベンジャミン・ウォーカー,メルヴィル役にベン・ウィショーという布陣だ。全く印象が違ったが,このメルヴィル役の俳優は,007シリーズで新しい「Q」を演じていた,あのハイテク・オタクの青年である。
 物語の評価は,前半の捕鯨船事情はごく普通,白鯨に襲われ難破する模様はまずまず期待した平均水準だったが,後半の漂流記は,巨匠らしからぬ凡庸さで,今イチだった。『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(13年2月号)の面白さには遠く及ばない。
 ところが,Double Negativeが主担当のCG/VFXは,さすがNo.1スタジオと思える出来映えだった。当欄は,それだけを語っておくことにしよう。
 ■ まずは,映画のつかみとして入る19世紀前半のナンタケット港の描写である(写真1)。時代を感じさせるため,沖から港を捉え,カメラを陸上へと移動させてくる作品は何本もあったが,本作の港町の描写は相当に出来が良い。短いカットでなく,この港が何度も登場する。船を係留した水際部分だけでなく,オープンセットを組んだと思われる港町の様子へと連続的に変化しても違和感がなく,見事に調和している。当然,町の描写も大半はVFXの産物だろう。
 
 
 
 
 
写真1 1820年頃の米国東部ナンタケット港を再現
 
 
  ■ 鯨の群れや強大な白鯨は勿論CG製だが,最近の技術をもってすれば,さほど難しい対象ではない。いい出来だと思ったのは,そのCG製の鯨の動きで生じる水の動きを,実際の海面に加えたシーンの自然さだ。こちらも見事に調和が取れている。鯨の生態を描いたドキュメンタリー映像と比べても,全く不自然さを感じない。鯨の潮吹き(写真2),巨大な尾がはね上げる水飛沫(写真3),さらには大きな波や嵐の描写(写真4)など,水や海面の処理にはこの10数年のVFX技術の進歩が感じられる。
 
 
 
 
 
写真2 鯨の動きで生じる波や潮吹きの表現も上々
 
 
 
 
 
写真3 巨大な尾が巻き起こす水飛沫は大迫力
 
 
 
 
 
写真4 嵐と鯨のダブル攻撃に遭遇したエセックス号
 
 
  ■ 帆船エセックス号は,当然実物が作られていたはずだ。船上のドラマ撮影には,別途セットが組まれている。ところが,写真5のように鯨が船の下をくぐるシーンは,どう見ても帆船もCGであり,このシーン丸ごとがCG描写だろう。写真6も同様で,2艘のボートの間を白鯨が通り抜けるシーンは,構図やカメラワークの見事さに見惚れてしまう。DN社以外では,Scanline VFX,Rodeo FX,Luma Pictures等が参加している。
 
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写真5 白鯨が下をくぐるシーンは,帆船もCGか?
 
 
 
 
 
写真6 このアングル,この構図での描写が絶品
(C) 2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED.
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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