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O plus E誌 2014年3月号掲載
 
 
ホビット 竜に奪われた王国』
(ニューライン・シネマ&MGM/ ワーナー・ブラザース映画配給 )
      (C) 2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2月28日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2014年1月20日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  新3部作中の繋ぎの作なのに,堂々たる盛り上がり  
  新シリーズ3部作の第2章で,言わば最終章に向けての繋ぎ作品に過ぎないのに,堂々たるスペクタクルで,満腹感一杯になる。改めて,映画人としてのピーター・ジャクソン監督とそのスタッフたちの力量に脱帽する。いやぁご立派,全く畏れ入りましたである。
 映画としての『ロード・オブ・ザ・リング(以下,LOTRと略す)』シリーズ3部作(01~03)は,J・R・R・トールキンの原作「指輪物語」自体が3部作であり,邦訳本は上下2巻での出版なので,実質計6巻の大河ファンタジーだった。よって,映画の3部作がそれぞれ3時間超の長尺であっても,原作の世界観を描き切るには仕方がないと納得できた。ところが,その60年前の前日譚「ホビットの冒険」は,邦訳単行本はたった1巻の児童書に過ぎないのに,これを前後編2部構成の映画とし,前編『ホビット 思いがけない冒険』(13年1月号)を2時間49分の長尺で作ってしまった。さらに驚いたのは,第1作目の撮影後に,全3部作にすると発表されたことだ。熱心な固定ファンがいるとはいえ,これはやり過ぎだ。「この2作目は,単に話しを引き伸ばしただけ,中身の薄い繋ぎの作品に過ぎない」と思うのも当然だろう。それゆえ,2時間41分の充実した力作を見せられて,「全く畏れ入りました」になる訳である。
 もっとも,原作には登場せず,旧作LOTRの登場人物を何人も出しているのだから,話などいくらでも引き伸ばせる。それが絶妙だ。LOTRファンも既視感から喜び,監督も気心の知れた俳優を使えるのだから,一石三鳥の効果を生み出していると言えよう。時代設定では前日譚であるものの,印象としては完全に続編3部作だ。
 新シリーズの第2章ゆえ,P・ジャクソン監督以下,スタッフも主要キャストもほぼ同じだ。新登場はエルフのタウリエル役のエバンジェリン・リリーが目立つ程度だが,LOTRで人気を博したエルフのレゴラス(オーランド・ブルーム)が再登場するのが注目ポイントだ。弓の名手ぶりをたっぷり見せてくれ,女性ファンの目を意識した計らいである(写真1)。筆者などは,むしろ名物キャラのゴラムが出て来なかったのが残念だ。
 
 
 
 
 
写真1 満を持して,人気者は2作目での再登場
 
 
  物語はと言えば,ホビットのビルボが,ドワーフ族を助け,彼らがスマウグに奪われた土地と財宝を取り戻す旅の続きである。要するに,数々の苦難を乗り越え,竜と戦いに行くだけの話なのだが,それを見事に2時間41分ももたせている。物語の中休みは1時間前後経過したところだったのに,後半はあっという間で,もう終わりかと感じるほどだった。もはや(筆者自身を含め)このシリーズのファンは,2時間前後の映画では物足りなく,満腹感を味わえなくなっている。
 CG/VFXはと言えば,全編でたっぷり味わえ,前4作同様,アカデミー賞視覚効果部門にノミネートされている。ただし,LOTR3作がすべてオスカーを得ているのに対して,前作はノミネートだけで終わった。恐らく,本作もそうだろう。技術レベルは確実にアップしているが,物語の既視感が強いゆえに,利用法も斬新さに欠けると感じるためだろう。以下,その見どころである。
 ■ 物語の緩急のつけ方も上手いが,CG/VFXのクライマックスも計3回ある。前半では,闇の森で遭遇する巨大蜘蛛との戦いだ。蜘蛛自体の描写もドワーフ達が蜘蛛の巣に捉えられもがく姿もリアルで,ボリュームもたっぷりだ(写真2)。中盤では,ドワーフ達が森から樽に乗って急流を下るシーンの技巧が絶妙だ。「セット内に水流を設けての実写と周りの景観CGとの合成」「実際の急流内にデジタルダブルを合成」「フルCGでの描写」の3通りの方法を巧みに使い分けている(写真3)
 
 
 
 
 
写真2 森の中での巨大蜘蛛との戦いは,かなり見応えあり
 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 VFX中盤の見どころは,樽に乗っての急流下り
 
 
 
  ■ 終盤は,ドワーフ達の財宝が眠る地下洞窟で,いよいよ巨大な邪竜スマウグとの対面だ。「また,ドラゴンか」と思うなかれ。前作では僅かしか登場しなかったスマウグは,本作では副題に入っているだけあって,まさに主役級の威風堂々たる登場の仕方だ(写真4)。その体躯や皮膚表面の重厚感に加え,声の威圧感も凄い。何とその声に,今売り出し中の悪役俳優ベネディクト・カンバーバッチを配している。何という贅沢な起用だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 終盤登場のスマウグは,表情も声も大迫力
 
 
  ■ その他のビジュアル面も相変わらず素晴らしい。最近の大作の大半はフェイク3Dであるのに,リアル3Dでの撮影はやはり目に優しく,ニュージーランド自然景観とCGの合成で,より一層映えている(写真5)。人間たちが住む古い湖の町の描写も,美術賞を与えたいくらいだ。こちらも,実物大セット,ミニチュア,CGを巧みに使い分けて制作している(写真6)
 
 
 
 
 
写真5 大自然とCGの見事なミックス。3Dも効果的。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 古い湖の町は,セット,ミニチュア,CGの併用
(C) 2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.
 
 
  ■ 全4作同様,他社に外注せず,ほぼすべてWeta Digital社の担当で,エンドロールに数百名の役割と名前が延々と続くのは壮観だ。プレビズも3D撮影計画も自社内でこなしていることが,効率化に繋がり,これだけのボリュームを当たり前のように仕上げている。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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