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O plus E誌 2010年7月号掲載
 
 
 
 
ザ・ロード』
(デイメンション・フィルムズ
/ブロードメディア・スタジオ配給)
 
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [6月26日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー公開予定]   2010年5月18日 角川試写室(大阪)   
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  重い物語だが,結末にはやすらぎと希望がある  
   似ている。とにかく似ている。「既視感」という言葉は,こういう場合のためにあるかのように思える。地上では人類も動物もほとんど死に絶え,わずかな人々が暮らしている。文明は崩壊し,荒廃した町の殺伐とした光景(写真1)は,先月号の『ザ・ウォーカー』にそっくりだ。うっかり同じ映画を2度見てしまったのかと錯覚してしまう。おまけに,映画の題名までが似ている。強いて違いを言えば,彩度を抑えてモノトーン化した度合いが,『ザ・ウォーカー』の方が強く,本作の方がやや色がついている程度だ。向こうはひたすら西を目指したのに対して,こちらは暖かい南へ向かっている。あちらが「聖書」を守り届けるのが役目であれば,こちらは人類最後の「火」を掲げて旅するという。  
   
 
 
 
写真1 あれっ!? この破壊された都市の光景は,確か先月も観たのでは,と思わず口に出そう
 
 
 
   この2作品の本邦での公開日が1週間しか違わないのだから,紛らわしいことこの上ない。本格的な劇場公開映画は,企画から完成まで数年間は要する。ともに流行を追っている訳ではなく,二番煎じで後を追うほどのものでもないから,全く偶然の一致だろう。邦題が似ているだけで,原題はあまり似ていない(『ザ・ウォーカー』は『The Book of Eli』で,本作は素直に『The Road』)。ところが,この映画の途中で遭遇する老人の名前が「イーライ」というので,これはたまげた。製作途中で似ていることを知り,エール交換をしたのだろうかと想像してしまう。あちらが「西洋版 座頭市」であるなら,こちらはストイックな父子の「米国版 子連れ狼」だ。
 設定も映像も酷似しているものの,映画としてのジャンルや描き方のタッチはかなり違う。『ザ・ウォーカー』が結局はアクション娯楽大作であり,SF的味付けもあったのに対して,本作はシリアスなヒューマンドラマである。原作は,コーマック・マッカーシーが著した同名小説で,2007年度のピューリッツァー賞を受賞している。『すべての美しい馬』(00)『ノーカントリー』(08年3月号) の原作もまた同氏の小説である。
 監督は,オーストラリア出身のジョン・ヒルコート。これまで余り馴染みのない名前である。主演の父親役は,『ロード・オブ・ザ・リング』3部作(01 - 03)でアラゴルンを演じたヴィゴ・モーテンセン。その後,『オーシャン・オブ・ファイアー』(04年4月号) 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)『イースタン・プロミス』(07)等の主演作が続いているが,本作で3度目のアカデミー賞主演男優賞ノミネートを果たした。すっかり賞獲りレースの常連となっている。助演陣にシャーリーズ・セロン,ガイ・ピアースの名があることは知っていたが,ロバート・デュヴァルが出演していたことは,エンドクレジットを観るまで知らなかった。知った上でも,どこに出て来たか,全く分からなかった。プレス資料を観てようやく,あのイーライ老人だと分かった。なるほど,あれは老いた名優ゆえに出せる味だと再認識した。
 それにしても重い映画だ。絶望の世界で,父と息子が絆を保ち,人間として心を失わずに旅する姿には心を打たれる。観客の感性は父親と同化し,次々と訪れる苦難に思わず身構えてしまう。物語として大きな転換も驚きもないのだが,次の展開が読めず,緊迫感で息もつげない。『ハート・ロッカー』(10年3月号)と同様,観終わってぐったりと疲れる映画である。
 派手さは全くない映画なのに,VFXはしっかりと250シーンで効果的に使われている。廃車や廃屋(写真1),倒壊したフリーウェイ(写真2)は『ザ・ウォーカー』と同様だが,座礁した船(写真3),高架道路を歩く父子の姿(写真4)などはスケールの大きなVFXだ。森の中で倒れてくる多数の木もCGで描かれているようだ。いずれも見事なインビジブルVFXの連続だが,こうしたシーンを一般観客はどのように観ているのだろう? 全く気付かず,当たり前の空気のような存在なのだろうか?  
 
   
 
 
 
写真2 道路の倒壊に加えて,黒煙も描き込まれた(上:撮影映像,下:完成映像)
 
   
 
 
 
写真3 処理結果(下)からは,ちょっと元の光景を想像できない
 
   
 
写真4 スケールの大きい壮大な光景
 
   
   苦難を乗り越え,旅する父子を「子連れ狼」となぞらえたが,ご丁寧にも途中から手押し車(実はスーパーマーケットのカート)で旅する姿まで登場する(写真5)。といっても,派手な斬り合いのアクションはなく,黙々と歩く姿は『砂の器』(74)の巡礼姿を彷彿とさせる。この物語は一体どう終わるのだろうと思っていたが,最後にまた「子連れ狼」然とした結末を迎える。ネタバレになるので書けないが,八条河岸での出来事の後,「新・子連れ狼」へとバトンタッチするシーンとそっくりだとだけ言っておこう。重い物語だが,この結末には,やすらぎがあり,希望がある。映画はかくありたい。  
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写真5 この父子の旅は,まるで「子連れ狼」
 
   
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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