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O plus E誌 2013年7月号掲載
 
 
アフター・アース』
(コロンビア映画
/SPE配給)
     
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月21日より丸の内ピカデリー他にて全国ロードショー公開中]   2013年6月12日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  父子の物語だけでなく,SF映画としても見せ場多数  
  6月12日(水)の夜,TVの映画番組では『幸せのちから』(2007年2月号) が放映されていた。ウィル・スミスが,実子ジェイデンを起用して,シングル・ファザーを演じた感動の物語である。明らかに翌週公開の本作の宣伝効果を狙った連携作戦だ。シリーズものなら旧作を放映して,前日譚で興味を惹くのが常套手段だが,本作は全くジャンルの違う別物語である。
 ジェイデン・スミスはその後2作に出演し,『地球が静止する日』(08)ではキアヌ・リーブスと,『ベスト・キッド』(10年8月号) ではジャッキー・チェンと共演し,いずれも芸達者なところを見せていた。本作は,ジェイデンが主役で,父ウィルは脇役だという。原案から広報まで,スミス家あげてのミエミエの売り出し作戦だが,彼らの再共演で,1000年後の世界を描くSFアクションとあれば,当欄は見逃す訳には行かない。
 父子共演ばかりが気になって,試写を観る前日まで,監督が誰かを知らなかった。何と,あの『シックス・センス』(99年11月号)のM・ナイト・シャマランだった。脚本家&監督として,その後駄作を連発していることは再三書いたし,前作『エアベンダー』(10年8月号)が当欄の予想通りぶっちぎりでラジー賞に選ばれたことは,先月号でも触れた。通常は記事を書き終えるまで他誌や他サイトの評価は見ないのだが,気になってRotten Tomatoesを見てしまった。何と,トマトメーター値はたったの11%である(6/13現在)。『エアベンダー』の6%よりは上だとも言えるが……。
 これまでのシャマラン作品なら,監督名や脚本料の高さを宣伝材料にしていた。ところが監督名は抑え,SF性も訴えず,7年ぶりの父子共演ばかりが強調されていたのは,もはやこの監督名はマイナス材料で,客を呼べないということだろう。そのあおりを食って,800カットもあるCG/VFX系のスチル写真も,公開前にはほとんど提供されなかった。
 物語の設定では,環境破壊が進み,2071年に人類は地球を捨て,安住の地を求めて宇宙へと旅立つ。これが地球後暦(After Earth; AE)の始まりである。AE1000年,惑星ノヴァ・プライムを出発した宇宙船ヘスパー号が小惑星嵐に遭遇し,地球上に不時着する。機体は大破し,生存者は総司令官父子2人だけだった。父サイファは重傷を負い,緊急信号用のビーコンを求めて,息子キタイは100km先に落ちた船尾部分へと向かう……。
 結論を先に言えば,そこまで低評価を受けるような酷い映画ではない。シャマラン臭は強くなく,卒なく撮っている。上映時間は100分と短めだが,サバイバルものとしてテンポが良く,クライマックスのバトルが長過ぎない。13歳になったジェイデンは随分大きくなり,飛んだり跳ねたりのスタント・アクションも自分でこなしている。ハリウッドお馴染みの父子ものだが,ベタベタしたところはなく,動けずに指令を出し,見守るだけの父との関係も不自然ではない。米国の批評家の低評価は,前回の共演に勝る感動ドラマを期待したからだろう。SFアクションとして見た場合,色々斬新な表現があり,当欄は以下のように評価する。
 ■ 冒頭部の希望の星ノヴァ・プライムの描写(写真1)は,SF大作の水準を十分クリアしている。未来社会の景観も異星人のデザインも,こんなものだろう。宇宙から見た惑星表面や宇宙船の外観も悪くない(写真2)。船内はありきたり無機質なデザインでなく,有機的な感じを出していたのが印象に残った。
 
 
 
 
 
写真1 入植地ノヴァ・プライムの景観
 
 
 
 
 
写真2 宇宙空間からの描写も卒なくこなしている
 
 
  ■ 時代は,AE1000年もの未来ではなく,AE200年頃でもおかしくないし,不時着先も地球でなく,別の惑星でも構わなかったと思う。その地球上の光景は,中米コリタリカでロケを行い,密林や火山は本物だそうだ(写真3)。滝のシーン(写真4),崖から落下し,ムササビのように飛行するシーン(写真5)は勿論VFXの産物である。VFXの主担当はTippett Studioだが,他にIloura,Pixomondo,Pixel Magic, SPY/A FotoKem,Ollin Studio,Svengali VFX,Dive等,多数社が参加している。
 
 
 
 
 
写真3 噴煙はCGだが,本物の火山をバックに撮影
 
 
 
 
 
写真4 1000年後の地球を想定したシーン
 
 
 
 
 
写真5 大鳥に追われ、ムササビのように飛んで逃げるキタイ(右下)
 
 
  ■ 地球上で登場するクリーチャーの種類は多い。鳥も獣も,現代の動物そのものではなく,少しデフォルメしてある(写真6)。悪くない。最後に姿を現わす生物兵器アーサーは,見るからに醜悪で,これが一般映画のファンには不評なようだが,エイリアン・ファン,フィル・ティペット氏のファンなら,納得できるデザインだ。
 
 
 
 
 
写真6 1,000年後の動物たちは,いずれも何か少し違う
 
 
  ■ 大いなる見どころは,情報機器やその他の小道具類のデザインである。キタイが着ている戦闘用ライフスーツは知能繊維内蔵で,外界の状況を検知して変色する(写真7)。左前腕にある「ナビバンド」はウエアラブル端末だ。棒状の「カトラスC-40」は,22種類の武器に変形する。また,他作品と同様ホログラム・ディスプレイが多用されているが,巻き取れる小型ロールタイプまで登場している。ユニークなのは,生体計測機能,治療キット,呼吸薬カプセル等の存在と描写だ。しっかりした未来デザイン・チームが編成され,楽しんでデザインしたことだろう。
 
 
 
 
 
写真7 変色するライフスーツと22種に変形する武器
 
 
  ■ しっかりコンセプトから決め,大半は辻褄が合っているのに残念だったのは,緊急連絡用のビーコン装置を探すという設定だ。これだけ高度な機能を備えた宇宙船なら,遭難・不時着と同時に,緊急信号は自動的に送出しているだろうに……。
 
 
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  (O plus E誌掲載分に,その後入手した画像を追加しています)  
   
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