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O plus E誌 2013年6月号掲載
 
 
オブリビオン』
(ユニバーサル映画
/東宝東和配給)
      (C) 2013 Universal Studios
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [5月31日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2013年4月23日 TOHOシネマズ梅田(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  オリジナル脚本で,監督のビジュアル・センスが光る  
  冒頭部だけで,嬉しくなって小躍りしたくなるような映画だった。映画の面白さは,最初の15分間で決まると言って過言ではない。予告編は,少し過激で,目を惹くシーンばかり集めているので当てにできないが,本編を15分も観れば,その監督の語り口,セリフの分かりやすさ,カメラワークの斬新さ,映像と音楽のバランス等々が読み取れる。アクション大作の場合,本題ではなく,別の事件を解決する前日譚が付されていることがあるが,この部分が面白いと,大抵クライマックスもしっかり作られていて,極めて相関が高い。
 トム・クルーズ主演のSFものである。当欄にとって,彼の主演作なら外れはない。単なる出演者ではなく,企画・製作に関わっていることも多く,挑戦心があり,毎回新機軸を出してくる。今なお運動能力は抜群なので,CG/VFXの使い方も一味違っている。プレビズも効果的に使われている。BD/DVDでのメイキングを観て,映画制作方法の進歩を感じることもしばしばである。この10年余の最高傑作は,『マイノリティ・リポート』(02年11月号)と『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(12年1月号)であった。
 時代は2077年,宇宙人スカヴに破壊された地球上が舞台である。人類の大半が土星の衛星タイタンに移住した後も,地上1,000mにそびえるスカイタワーに住んで地上を監視し続ける男女(ジャックとヴィクトリア)がいる。荒廃した地球に彼らだけという設定は,ピクサー・アニメの『WALL・E/ウォーリー』(08年12月号)を思い出すが,彼らはロボットではない。機密保全のため,ジャックは5年前に記憶を消されているのが,表題の「Oblivion(忘却)」の由来のようだ。
 近未来の荒廃した世界を描くポストアポカリプスものの場合,未来社会の設備・機器類は期待できないのが普通だが,本作の場合は,その点が全く違う。結論を先に言えば,本作の最大の見どころは,ステーションや機器のビジュアル・デザインである。監督・原作・製作は,『トロン:レガシー』(11年1月号)で映画デビューしたジョセフ・コシンスキー。同作の評でも紹介したが,元来がCM,ゲーム界で活躍した映像クリエーターなので,ビジュアル・センスが秀でているのも頷ける。原作は彼自身のグラフィック・ノベルなので,いわゆる原作小説の縛りはなく,ほぼオリジナル脚本だと言える。『トロン…』は,前作の呪縛がきつく,作品としては今イチであったが,本作はのびのびと描いている。
 ヒロインは,ボンド・ガールのオルガ・キュリレンコとアンドレア・ライズブロー。いずれも魅力的だが,この2人の使い分けが上手い。助演には,ベテランのモーガン・フリーマン等も配されているが,登場人物数は極めて少ない。バブルシップとドローンが,主たる助演陣だとも言える。以下,それらのCG/VFXを中心とした見どころである。
 ■ スカイタワー,バブルシップ,荒廃した地球,そのすべての描写が素晴らしい(写真1)。CG/VFXの分量は膨大だが,主担当はPixomondoとDigital Domainで,エンドクレジットを見る限り,この2社で大半をこなしたようだ。既にメイキング映像も公開されているが,斬新な飛行艇のバブルシップも球形の無人偵察機ドローンも,実物大モデルが制作され,そのデザインの見直しが何度も行われている(写真2)。しかる後にCGモデルが作られているが,映像ではどれが実物でどれがCGなのか,全く見分けがつかない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真1 高度1000mスカイタワー(上)とバブルシップの駐機ポート(中)。
半壊した地球を巡回するのが仕事(下)。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 ドローン,バブルシップの実物大模型とその撮影風景
 
 
 
  ■ スカイタワーは外観だけでなく,2人が居住する内部もしっかりデザインされている『WALL・E…』の後半で,宇宙ステーション内のデザインが優れていたことも思い出した。特に目を惹くのは,ヴィクトリアが利用する操作卓だ(写真3)。流行りのタッチパネル方式だが,機能よりも,その設置場所,大きさ等も含め,ビジュアル面の素晴らしさに感嘆する。地上部で登場するバイク,銃火器類のデザインも秀逸だ(写真4)。担当者たちは,デザイナー冥利に尽きる仕事だったことだろう。
 
 
 
 
 
写真3 流行のタッチ操作だが,目を惹くデザインだ
 
 
 
 
 
 
 
写真4 銃火器類もしっかりデザインされていて,実にカッコいい
 
 
  ■ 球形のドローンは,偵察機のはずが,途中から敵側の戦闘機と化す。その戦闘能力の高さも空中戦の激しさも相当なものだ(写真5)。一見して『スター・ウォーズ』(77)の影響を多分に受けていると感じられたが,体当たり作戦などは,日本軍の特攻隊を思い出してしまった。物語は少し中だるみするが,話は急展開し,終盤30分は見応え十分である。エンドクレジットの前に登場する空中からの映像を加工したロールが素晴らしかったことも特筆しておきたい。
 
 
 
 
 
 
 
写真5 球形の無人偵察機のドローンは戦闘能力も高い
(C) 2013 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
 
 
  ■ 少しネタバレになるが,本作はいわゆるクローンものであり,その結末はいい味付けだと感じた。では,そこまで褒めて,なぜ評点が☆☆☆でないかと言えば,中だるみが少し惜しいのと,映像と音楽があまりマッチしていないように感じたためである。トム・クルーズ主演の上記2作の完成度と比べて,辛め評価とした。ただし,この監督の作品には,今後も注目したい。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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