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O plus E誌 2008年10月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『イキガミ』 :「死神」に対する「生き神」かと思ったら「逝紙」だった。「国家繁栄維持法」に基いて千人に1人の割合で若者が命を奪われ,執行24時間前に死亡予告証が届くという設定だ。間瀬元朗作の同名コミックの映画化で,監督は『犯人に告ぐ』(07年10月号)の瀧本智行。この監督の演出はオーソドックスで,主演の松田翔太の抑えた演技も,死を迎えるまでのエピソードの展開も上手い。その意味での完成度は高いが,国家による殺人というテーマに虫酸が走る。逆説的に生命の輝き,生きることの意味を訴えているというが,そんなものは誰でも分かる表層的な似非ヒューマニズムだ。こんな馬鹿げたテーマを平然と描く原作者,それを嬉々として映画化する製作者の神経を疑う。救いがたい阿呆どもだ。
 ■『トウキョウソナタ』 :黒沢清監督の最新作。映画評担当記者諸氏も気になるらしく,試写室は超満員だった。リストラされた社員とその家族1人1人の心模様を丹念に描いている。家庭の崩壊・絶望・錯乱の中から,再生への希望を与えてくれるエンディングへとまとめ方が絶妙だ。『TOKYO!』(08年9月号)の外人監督3人が束になっても敵わない。香川照之,小泉今日子,そして役所広司といった芸達者たちを見事に使いこなしている。これまであまり好きな監督でなかったのだが,本作はさすがに上手いと認めざるを得ない。
 ■『初恋の想い出』:1980年代の中国,親同士の対立で結ばれない若い男女の純愛物語。中国では親の権威が絶対と聞いていても,この心情と行動は理解できない。つまらない。あまりに古いと感じるのは,自由で平和な日本に育った筆者の感性が鈍っているのか,それとも現代中国の様変わりが激し過ぎるからだろうか。劇中で登場する映画『ロミオとジュリエット』(68)のオリヴィア・ハッセーの可憐さ,美しさに改めて息を飲む。
 ■『最後の初恋』: 一方こちらは,リチャード・ギアとダイアン・レインが織りなす大人の恋物語だ。互いに家庭内の悩みをもつ2人が,海辺の家での数日間で魅かれ合う展開には感情移入できる。この家の外観も内装も洒落ている。観客の主対象が中年女性のためか,ストーリー展開も結末もまるで韓流ムービーだ。原題は『ローダンテの恋』だが,邦題が安直過ぎる。
 ■『P.S.アイ・ラブ・ユー』  :ビートルズの同名曲とは無縁のラブ・ストーリーで,上記2作品以上に典型的なレディーズ・ムービーだ。「死んでしまった夫から届けられた,消印のない10通の手紙」というミステリー風の味付けが巧みで,一体どうなっているんだと思わせるところが上手い。アイルランドの自然も美しいが,ヒラリー・スワンクがこんなにチャーミングだったというのも新発見だ。多数の挿入曲があるが,原作とは無縁であっても,やっぱりビートルズのあの美しい旋律を入れて欲しかったなと感じた。
 ■『三本木農業高校,馬術部』  :長い表題の上に「盲目の馬と少女の実話」という副題がついている。ここから想像できる通りの,素朴で心温まる物語だ。青森県にある実在の農業高校を舞台に,現地での四季を通じてのロケが敢行されているが,子馬の出産シーンと子離れのシーンが出色だ。監督は『半落ち』(03)の佐々部清。演出も奇をてらわず,オーソドックスで好感がもてる。強いて言えば,少年少女達が少し都会的過ぎる。もっと田舎風の顔立ちの方が良かった。馬術部顧問古賀先生役の柳葉敏郎は好演だが,この農業高校の校長先生を松方弘樹が演じている。こんなに温厚で柔和な顔立ちでの出演を観るのは初めてだ。
 ■『American Teen/アメリカン・ティーン』  :米国インディアナ州の普通の高校に通う高校生たちにカメラを向け,日常生活を1年に渡って観察したドキュメンタリーだ。生活環境や若者文化に大きなサプライズはないが,意外なドラマがある。演技なしのリアルな記録であるだけに胸を打つ。高校の校舎は随分立派だなとか,携帯メールで「今夜」は"2nite"と書くのか等,観客それぞれが勝手にこの映画から何かを読み取れば良い。筆者が最も驚いたのは,主人公の1人の父親が派手なジャンプスーツを着てエルヴィスのそっくりさんを演じる下りだ。マジか,アメリカにはこんなオヤジが普通にいるのか! しかも,この歌が結構うまいとくる。
     
  (上記のうち,『イキガミ』はO plus E誌に非掲載です)  
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