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O plus E誌 2013年3月号掲載
 
 
フライト』
(パラマウント映画)
      (C) 2012 Paramount Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月1日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2012年8月31日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  久々に実写映画に復帰したゼメキスが描く人間ドラマ  
  本作の監督はロバート・ゼメキス,主演はデンゼル・ワシントンである。この組合せも珍しいが,声の出演ではない。表題欄の画像からも分かるように,航空機事故を描いた作品で,彼は素顔のまま機長役で登場する(写真1)。精巧なCGで描いたデジタル・ダブルではない。
 
 
 
 
 
写真1 今回はベテラン機長役。勿論,CGでなく本人だ。
 
 
  わざわざそう断るのは,常に新しい映像表現に挑戦し,ハリウッド映画界に新風を吹き込み続けてきたゼメキス監督は,今世紀に入ってから,『ポーラー・エクスプレス』(04年12月号) 『ベオウルフ/呪われし勇者』(07年12月号) 『Disney's クリスマス・キャロル』(09年12月号) とフルCG作品を撮り続けてきたからである。それも,擬人化した動物やロボットが活躍するCGアニメではなく,生身の俳優に演技させ,その動きや表情をそのままコンピュータに取り込む手法を確立させた。「パフォーマンス・キャプチャー(PerCap)」「エモーション・キャプチャー(EmoCap)」なる言葉も,この一連の作品から生まれた。当欄が,その推移をずっと見守ってきたのは,ご存知の通りである。
 ほぼ3年毎の新作発表で,次はどんな仕掛けを生み出すのかと楽しみにしていたが,『キャスト・アウェイ』(01年3月号) 以来12年ぶりの実写映画だという。CGでの表現に限界を感じたのだろうか,それとも経費のかからないお手軽実写作品に向かったのだろうか? そういえば,数十人の演技を一度に収録できる大型PerCap施設の「ボリューム」も閉鎖されたと漏れ聞いた。フルCG映画ではなかったが,あの『アバター』(10年2月号)のナヴィ族も『リアル・スティール』(11年12月号)のロボットたちの演技も,このスタジオでキャプチャーされたはずなのに,一抹の淋しさを感じる。
 本作の予告編で,火を吹くジェット・エンジン,阿鼻叫喚の機内,墜落現場が映された上に,あっと驚く背面飛行(写真2)の映像も登場している。名人機長の曲芸飛行で被害を最小限に食い止め,多数の人命を救ったという設定だが,そこにCG/VFXが多用され,数々の新技術が駆使されている訳ではない。勿論,『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ以降,数々のSFX/VFXで業界を先導してきたゼメキス監督ゆえに,何でもない飛行場のシーンも大半はCGで描いている(写真3)。飛行中の車輪の出し入れ(写真4)や胴体着陸シーンも無論CG/VFXの産物である。迫力という点では,スタジオ内に設けた機内セット(写真5)を回転させ,座席や乗客がぐるぐる回るシーンが印象的であった。
 
 
 
 
 
写真2 前半の見ものは,このアクロバット飛行
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 何げない夜の空港シーンもCGで描いている
 
 
 
 
 
写真4 こちらは,空中で逆さ状態での車輪の出し入れ
 
 
 
 
 
 
 
写真5 機体を回転できる装置を導入し,機内の様子を撮影している
(C) 2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
 
 
  そうした飛行機事故やCG/VFXの出番は早々と終わり,中盤以降は,この機長は英雄なのか犯罪者なのかを問うヒューマンドラマとなる。『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)でオスカーを得ているR・ゼメキス監督ゆえに,何を撮らせても器用だが,当欄としては残念だ。
 監督の話題はそれくらいにして,主演男優のデンゼル・ワシントンに移ろう。モーガン・フリーマンと彼は,人気黒人男優の象徴的存在で,高潔で決断力のある人格ばかりを演じ続けてきた。さすがに,大スターとなり,出演依頼が多数舞い込む近年は,汚れ役や悪人を演じることも多くなった。『トレーニング デイ』(01)の悪徳警官,『ザ・ウォーカー』(10年6月号) で見せた豪快な殺陣は印象的であったし,『デンジャラス・ラン』(12年9月号)の世界的指名手配犯も記憶に新しい。本作では,前半の颯爽とした機長ぶりから一転して,後半はアル中で自己制御できない人物を演じている。助演陣もなかなかで,弁護士役のドン・チードル,巨漢の友人ジョン・グッドマンがいい味を出している。
 本作は,第85回アカデミー賞で主演男優賞と脚本賞にノミネートされている。一般的評価はそうでも,当欄ではゼメキス作品としては物足りないと言っておこう。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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