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O plus E誌 2010年6月号掲載
 
 
 
ザ・ウォーカー』
(角川映画&松竹配給)
 
 
      (C) 2010 Warner Bros. Ent.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [6月19日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2010年4月13日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  モノトーンの荒廃した世界と痛快なアクション  
   素直に面白い映画だ。当初想像していたものと違った展開や結末ゆえに,余計に観賞後の面白さが増すタイプの作品だ。この種の映画を,どこまで,どの程度紹介すべきなのか迷うところだ。「まずは,観てのお愉しみ」では解説にならないので,結末がネタバレにならない程度に紹介することにしよう。
 まず気になるのは,デンゼル・ワシントンとゲイリー・オールドマンという名優の対決だ。期待通りこの両人の出番はたっぷりある。D・ワシントンは,いつも通り冷静沈着で信念を貫く主役だが,G・オールドマンが敵役で,本作では田舎町の独裁者を演じる。元々強烈な悪役が得意だったが,最近は「ハリー・ポッター・シリーズ」のシリウス・ブラック,「新生バットマン・シリーズ」のジム・ゴードンと良心的な脇役が続いただけに,久々の個性的な悪役への復帰が見ものだ。
 監督は『フロム・ヘル』(02年1月号)のアレン&アルバート・ヒューズ。デトロイト出身の双子の兄弟だ。オムニバス作品『ニューヨーク,アイラブユー』(10年3月号)にも参加していたようだが,日頃はTVシリーズの製作が多く,久々の長編映画の監督作品である。製作は『マトリックス』シリーズのジョエル・シルバーで,兄弟監督好みという訳でもないだろうが,振り返ってみれば『マトリックス』に似たアクション感覚であることが感じられる。
 舞台は世界滅亡後のアメリカ大陸で,崩壊した大都市の廃虚から物語は始まる。焼き尽くされ荒廃した土地に,わずかに生き残った人々が暮らしている。その中を,リュックを背負った主人公が,ただひたすらに西を目指して歩き続けている。全編の大半をモノトーンに近い色調で描かれているが,勿論デジタル処理によるカラーコレクションの産物である。VFXとしては,まず冒頭の荒廃した都市の景観が印象的だ(写真1)。何台かのクルマは実物だろうが,背景はどこまでが実写で,どこからがCGなのかは,ちょっと見分けが付かない。いい出来だ。
 
   
 
 
 
写真1 どこまでが本物か,ちょっと見には全く分からない。意図的なモノトーンも効果的。
 
 
 
   邦題は主人公が歩き続ける姿だけを捉えているが,原題の『The Book of Eli』で,本作のもう1つのテーマを語っている。Eliは主人公の名前で,「イーライ」と読ませている。十字架にかけられたキリストの最後の言葉が「Eli, Eli, Lema Sabachthani(エリ,エリ,レマサバクタニ)」だったとされているから,それに由来しているのだろう。ここまで言えば分かるように,イーライが携行する世界に1冊だけ残された本とは,「聖書」である。人心収攬のためとはいえ,悪人のカーネギーが聖書を追い求める姿は滑稽で,宗教心のない筆者にはピンと来なかった。無法者たちに,そんな特効薬的効果があるとは信じ難い。
 最初,モノトーンで描く終末思想のシリアス系の映画かと思わせるが,突如登場する主人公の颯爽とした殺陣に目が覚める。一見したテーマとミスマッチなだけに,尚更痛快そのもので,これがアクション娯楽作品であったことにようやく気付く。『キル・ビル』(03)も思い出させるが,むしろこれはハリウッド版「座頭市」だ。主人公は盲目ではないのだが,そう感じるのはイーライがずっとサングラス姿のためだろうか。盲目でないなら,緒形拳演じる「仕掛人・藤枝梅安」でもいい。ともあれ,日頃のD・ワシントンらしからぬアクションの連続が大きな魅力である。
 CG/VFXはと言えば,イーライが旅する道中で随所に登場する。カーネギーが支配する町の色合いは少し変えてある(写真2)。空を流れる雲がかなり早く移動するのも,残った道路の両側の荒んだ土地もVFXの産物だろう(写真3)。技術的には目新しくないが,予想を遥かに上回るシーンで使われていて,かなりの効果を生んでいる。そして,彼が行き着く西部の町では,さらにもう一段目立ったVFXシーンが登場するが,これは場所も結末も書く訳には行かない。ここから先はまさに「観てのお愉しみ」としておこう。  
 
   
 
 
 
写真2 こちらは道中の別の町。色合いも微妙に違う。
 
   
 
 
 
 
 
写真3 何げないシーンも雲の動きに注目
(C) 2010 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
 
   
   ところで,この荒廃した世界に最後までiPodが残っていることが印象的であり,驚きと笑いを同時に感じた。このシーンのためにアップル社はいくら出したのだろうと,エンドロールを注意深く観察したが,特別スポンサーとしては登場しなかった。iPodが残存して稼働しているなら,CD-ROM版聖書だって残っていても良さそうなのだ。CD-ROMはあっても,ドライブが存在しないのだろうか? 設定的にはその他にも矛盾だらけの映画だが,サバイバル・アクションの西部劇だと割り切れば,その点は我慢できる。
 むしろ,iPodやiPhoneに続いて,今後映画中でiPadがどれほど描かれるのか,個人的にかなり興味がある。一私企業の製品とはいえ,ハリウッドは平気でこれまでも取り上げてきたゆえ,その扱いに注目したい。  
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分を一部入替え,追加しています)  
   
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