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O plus E誌 2011年2月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』:原作は,電撃文庫収録のライトノベルのシリーズだそうだ。その上,この奇妙な表題とさして魅力的に見えない主演の男女のポスターを見ると,中高年にはついて行けない青春ワールドを想像した。半分当たっていて,半分は意外な展開だった。まさしく壊れた女子高生と幼なじみという青年の訳あり風の関係は,尋常な大人の神経では理解し難かったが,その裏にある猟奇殺人事件,誘拐監禁事件を巡るミステリータッチの展開には,途中から思わず引き込まれた。ただし,間の取り方が拙さとセリフの幼稚さが,何とも惜しい。すぐに経験の浅い,それも女性監督だと想像したが,これはズバリだった。監督・脚本は瀬田なつきで,これが初監督作品だという。若い才能を伸ばすには,多少は目をつむるしかないか。
 ■『完全なる報復』:妻子を惨殺された男(ジェラルド・バトラー)が,犯人が司法取引で極刑を免れたことに絶望し,用意周到な計画で殺人犯への復讐を企て,敏腕検事(ジェイミー・フォックス)や司法制度にも報復することを誓う……。テーマは.安易な司法取引への警鐘であり,矛盾だらけの司法制度への問題提起だが,さほどシリアスな社会派ドラマではない。復讐の鬼と化した主人公の知的モンスターぶりが圧巻で,その痛快さはハリウッド流の娯楽映画の真骨頂だ。ただし,社会的正義を主張するのなら,筆者はこの映画の結末,登場人物の生死の分け方が気に入らない。それでも,相当にワクワクする展開であることには変わりはないが。
 ■『RED/レッド』:何の思想も感動もなく,人生を見つめ直すこともない映画だ。でも,単純明瞭で爽快な映画で,娯楽作品としては悪くない。REDとは,Retired Extremely Dangerousの略で,「引退した超危険人物」の意だそうだ。元CIAエージェント役のブルース・ウィリスが,目茶苦茶強く,縦横無尽に敵を薙ぎ倒す痛快譚である。銃火器の使い方も上手い。『96時間』(09)や『ソルト』(10)を楽しんだ人には,間違いなくオススメだ。観て損はない。共演陣が豪華で,モーガン・フリーマン,ジョン・マルコヴィッチやヘレン・ミレンの魅力を十二分に引き出している。
 ■『ウォール・ストリート』:オリバー・ストーン監督,マイケル・ダグラス主演でこの題だと,タイムスリップしてしまったのかと錯覚する。調べてみると,M・ダグラスがオスカーを得た23年前の映画の邦題は,『ウォール街』(87)だった。紛らわしい。本作は,彼が同じゴードン・ゲッコー役で再登場する後日譚だ。インサイダー取引で逮捕・収監され,刑期を終えて復帰したゲッコーは,味のある人物に描かれている。彼と渡り合う青年投資家をシャイア・ラブーフも好演だ。ところが,O・ストーン監督得意の人間ドラマに,今一つ冴えがない。『ソーシャル・ネットワーク』(11年1月号)の躍動感と比べると,素材そのものが古いのかも知れない。街を見下ろすアングルからの絵作りは斬新なのに,予定調和の陳腐な結末とは何かちぐはぐで,バランスの悪い作品になったしまった。
 ■『ザ・タウン』:NYのウォール・ストリートに続くのはロンドンの金融街「シティ」かと思ったら,ボストンの一角にある犯罪頻発地区「タウン」だった。正式名は「チャールズタウン」で,この街で綿密な計画を立てて実行に移す銀行強盗団の模様を描く。監督・脚本・主演は,これが監督第2作目となるベン・アフレック。マット・デイモンとの共同脚本で映画界にデビューしただけあって,骨太のドラマを描く演出の才がある。俳優よりも,監督としての将来性の方が高そうだ。強盗団リーダーの彼と人質女性との恋愛ドラマやほろ苦い結末も悪くないが,一味の過激派ジェムを演じるジェレミー・レナーの個性が光る。昨年度は『ハート・ロッカー』の主演でオスカー・ノミネートされたが,本作で助演男優賞の有力候補となることだろう。
 ■『ジーン・ワルツ』:現役医師で「チーム・バチスタの栄光」でのデビュー以来,ハイスピードで著作を発表している海堂尊作の同名医療小説の映画化作品。続編の「マドンナ・ヴェルデ」もカバーしている。産婦人科治療の問題点を浮き彫りにし,代理母出産という重いテーマを物語の骨子に据えている。映画の完成度は,同じ東映配給の『孤高のメス』(10)より落ちるが,感動度はいい勝負だ。主演の菅野美穂や相手役の田辺誠一の演技は拙く,物語の描写もかなり粗っぽいが,本作の場合はこれでいい。テーマが重いゆえに,演出は小細工のない,素朴な方が好ましい。
 ■『洋菓子店コアンドル』:表題通り洋菓子店が舞台で,美味しそうなケーキがたっぷりと登場する。ただし,物語展開は甘ったるいどころか,挫折あり,希望あり,人間模様の描写は達者だ。単なるレディーズ・ムービーではない。主演は,伝説のパティシエを演じる江口洋介が先にクレジットされているが,上京したての田舎娘を演じる蒼井優が実質の主人公だ。彼女の使い方がうまい。監督名を知らずに観て,その演出力に感心したが,『60歳のラブレター』(09)『半分の月がのぼる空』(10)の深川栄洋監督だった。まだ34歳の若手だが,この監督の作品は今後も当たり外れはないだろう。日本映画界を変える大きな冒険に挑戦して欲しい逸材だ。
 ■『白夜行』:東野圭吾作のベストセラー長編ミステリーの映画化作品。舞台化,TVドラマ化された上に,先に韓国で映画化され一昨年公開されている。それを敢えて日本で再映画化するからには,脚本が上回っていて,かなり見応えがないと恥ずかしい。ストーリーは全く知らず,いきなり試写を観たが,2時間29分を全く長くさせない力作だった。ミステリーとしても上質だが,ノワール・ムービーとしても秀逸だ。小さなサブライズが3つあった。まず,監督・脚本の深川栄洋。上記の『洋菓子店コアンドル』を書いた直後だったゆえに,その実力のほどを短期間に再確認することとなった。本作の方が撮影は先のようだが,よくぞ短期間で作風が全く違う良作を矢継ぎ早に出せたものだ。次に,悪女を演じる主演の堀北真希のイメージチェンジぶりだ。これが『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)のあの田舎娘かと目を疑う。いい女優に育つことだろう。第三に,刑事役の船越英一郎。ハマリ役だが,改めて声もセリフ回しも父親の船越英二そっくりだと感じた。既に鬼籍に入ったはずの父が演じているのかと錯覚した。松本清張の犯罪小説か弘兼憲司の「人間交差点」を思わせる展開と結末だが,これを見事に洋画風タッチで描いている。誰かハリウッドに売り込んではどうだろう? もっと凄いシチュエーションに再設定したリメイク作が観てみたい。  
   
  (上記のうち,『白夜行』はO plus E誌には非掲載です)  
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