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O plus E誌 2011年1月号掲載
 
 
 
 
『トロン:レガシー』
(ウォルト・ディズニー映画)
 
 
      (C) Disney Enterprises, Inc.

  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [12月17日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー公開中]   2010年12月13日 TOHOシネマズ なんば[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  なるほどこれはレガシーだが,汚名返上には至らず  
   本稿執筆時点で,TVには本作のスポットCMがガンガン流れている。既に各種メディアで取り上げられ,若いゲーマーたちの間でも話題になっているようだ。筆者の世代には,1982年公開の旧作のフィーバーが懐かしい。
 CGを本格的に使った映画として,ものすごい前評判だった。夢を与えるディズニー・ブランドであったことも,拍車をかけていた。硬派で知られた月刊誌「科学朝日」までが,かなりの紙数を割いて特集を組んでいた。電脳建築家を名乗る坂村健氏(現,東大教授)は大きな期待を寄せ,彼の「TRONプロジェクト」の命名にも影響を与えた。筆者は当時筑波研究学園都市在住であったが,研究所をサボり,公開週に東京まで観に行った。
 結果は,無残な出来映えであり,失望感だけが残った。予定したCG計算が間に合わず,一部はCGらしい人工的なタッチを手書きで描き込んだという逸話も残っているが,それが問題だったのではない。あまりに物語が酷かったのである。同年,『ブレードランナー』『E. T.』というSF映画史に残る作品が公開されたが,ベタベタのヒューマンドラマである『E. T.』が大ヒットしたために,ストーリー性が乏しかった『トロン』が批判の集中砲火を浴びた。映画界に残した傷跡は大きく,CGを軽視,蔑視する風潮も広まった。名誉回復は9年後の『ターミネーター2』(91)まで待たなければならなかった。
 リメイク作品が3Dで登場するという噂は,一昨年辺りから聞こえてきた。実際には続編であることが判明し,題名は『Tron 2』から『TRON: Legacy』に変わった。世界同時公開のため,例によって完成披露試写はぎりぎりであったが,旧作のDVDを買ってきて,しっかり予習した。ワイヤーフレームとフラットシェーディングだらけのCGは,あまりにチープであり,お笑いとしか思えない。その半面,CG映像発展史を講じている立場から観ると,1980年代前半にこのレベルなら,かなり頑張っていたとも評価できる。CG側からはそう擁護しても,同年代の一般映画と比べて,劇場で入場料をとって見せる作品のレベルに達していなかった。
 さてさて,前作の汚名返上になるかどうかの本作である。物語は1989年から始まり,既に大企業エンコム社のCEOとなっていた主人公のケヴィン・フリンが謎の失踪を遂げる。当時7歳であった一人息子のサムは,20年後の現代で父親が遺したコンピュータ世界に入り,閉じこめられていた父との再会を果たす。ケヴィンが作ったプログラム「クルー」が率いる世界で,敵対勢力とバトルを繰り広げる,という物語設定だ。
 監督は,本作が映画デビューとなるジョセフ・コジンスキー。スタンフォード大学卒で,CMやゲームで名をはせた映像クリエーターであり,現在もコロンビア大学助教授の籍があり,3D-CGが専門とのことだ。昨年度『クレイジー・ハート』の老カントリーシンガー役でオスカーを得たジェフ・ブリッジスが,旧作同様,ケヴィンを演じる(実を言うと,彼が旧作の主役であったことに今まで気付かなかった)。サム役には,若手の有望株ギャレット・ヘドランド。これが初の大役だ。
 以下,CG/VFXを語る当欄として,好くも悪くも,万感の想いを込めての感想である。
 ■ 全くの冒頭を除き,どう見ても2Dの映像が延々と続く。3D上映のはずが,字幕だけが飛び出している。変だなと思ったら,コンピュータ内の世界(写真1)に入った途端に3D化した。広大で,奥行き感があり,立体表示の効果が感じられるシーンを使って,うまい演出だ。以後,この世界の中はずっと3Dが続く。この世界で身に付けるボディスーツは,旧作でも電子回路を想起するデザインだったが,本作ではそのイメージがもっと強調されている。身体の線にそった発光体が印象的であり,3D表示で視差を感じさせるのにも適している(写真2)
 
   
 
写真1 ここから3D表示に切り替わり,立体感も効果的
 
   
 
写真2 これだけラインが抽出しやすいと,両眼視差も形成も容易
 
   
   ■ CG/VFXの最大の話題は,1989年のケヴィンとコンピュータ内のクルーを,35歳のJ・ブリッジスを想定したルックスで描いたことである(写真3).特殊メイクで老けさせることは出来ても,若く見せることは難しく,彼の顔はCGでデジタル合成されている。予備知識のない観客は,顔が似た若い俳優が演じていると思うだろう。わずかなシーンならともかく,ほぼ全編,この顔で登場させ,違和感を感じさせないことは評価できる。VFX の主担当は,デジタルドメインである。
 
   
 
 
 
写真3 (上)空間に閉じこめられ年老いたケヴィン
          (下)終始35歳のルックスで登場する敵役のクルー
 
   
   ■ グリッドなるレーシングゲームに登場するライト・サイクル(写真4)は,旧作でもマニアックなファンがいた。このバイクのオモチャ(写真5)が発売され,人気を博していた。このため,映画公開のかなり前から,新型バイクの形状が発表され,話題となっていた(写真6)。太いタイヤは『バットマン』新シリーズのバットモービルを思い出す。光の尾を引いて暗闇を失踪するシーンは,実にクールだ(写真7)!背中に装備したディスクを使っての戦いも旧作のイメージを踏襲しているが,動きが格段に素早くなっている。なるほど,これはレガシーだ。CG的には,倒された人や物が粉々に砕ける描写が印象的だった。
 
   
 
写真4 旧作のライト・サイクル。当時のCGはまだこの程度。
 
   
 
写真5 マニア向けの玩具。結構,カッコいい。
 
   
 
写真6 太いタイヤで,第一印象はバットモービルに似ている
 
   
 
 
 
 
 
写真7 グリッドでの戦いは,旧作のイメージを残しつつ,パワーアップされている
(C) Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
 
   
   ■ この映像世界は全くのゲーム感覚であり,シンプルで力強い音楽も,若者の心を掴むことだろう。ただし,普通の映画を見慣れた一般観客には,苦痛としか言いようがなく,ラジー賞の筆頭候補になりかねない。その意味では,旧作の汚名を返上できていない。ただし,この映画はそうした観客層を全く当てにしていないとも受け取れる。ゲーム世代に訴えるなら,もっとカラフルな高精細映像で彩って欲しかった。3Dに関しても.『アバター』(10年2月号)を超える斬新な使い方を見せて欲しかった。これでは未来の映像とは言えない。筆者の評点が辛めになったのは,そのためだ。   
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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