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O plus E誌 2009年11月号掲載
 
 
 
イングロリアス・バスターズ』
(ユニバーサル映画
/東宝東和配給)
 
      (C) 2009 Universal Studios  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [11月20日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2009年9月8日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  これぞタランティーノの世界! 遊び心満載の快作  
   まず映画の冒頭に高らかに流れる楽曲は「遥かなるアラモ」。ジョン・ウェイン監督・主演の『アラモ』(60)の挿入曲だが,音楽担当のディミトリ・ティオムキンが作曲した詩情溢れる名曲で,アカデミー賞音楽賞に輝いている。ブラザース・フォーの歌でも大ヒットした。続いて流れるのが,ベートーベンの「エリーゼのために」。これは,イタリアのカテリーナ・バレンテや日本のザ・ピーナッツが歌った「情熱の花」だと解釈すべきなのかも知れない。映画のタイトルが表われる前に流れるこの2曲がどういう意味なのか,今考えてもよく分からない。単にクエンティン・タランティーノ監督が好きな曲で,使ってみたかったからだとしか思えない。
 根っからの映画マニアで,日本のヤクザ映画やアニメに造詣が深く,マカロニ・ウェスタンも大好きというタランティーノ監督のテイストを思いっ切り振りかけた傑作である。『パルプ・フィクション』(94)や『キル・ビル』(03&04)のファンならば,この映画も気に入るに違いない。そうした作品と同様,彼の好みだけで選んだと思しき曲が多数挿入されている。奇妙な合いの手の効果音も随所に出て来て,芝居がかっている。サミュエル・L・ジャクソンのナレーションに至っては,これは活弁時代の映画かと思わせるレトロタッチだ。
 物語は,第二次世界大戦でドイツがフランスを占領した年,1941年のフランスの田舎町ナンシーから始まる。ドイツ軍に家族を虐殺され,からくも逃げ出したユダヤ人の少女ショシャナ(メラニー・ロラン)は,3年後パリに住み,うら若き館主ミミューとして映画館を経営していた。自分の映画館がドイツ軍が製作した映画「国民の誇り」のプレミア上映会場と決まった時,彼女はそれに集うヒトラー総統とナチス高官を映画館もろとも焼き尽くし,家族の敵を討つことを決意する。この復讐計画が物語の縦の基軸である。横軸として彩りを添えるのが,アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)率いる「イングロリアス・バスターズ(名誉なき野郎ども)」の活躍だ。ユダヤ系アメリカ人極秘部隊で,ナチス将校を次々と虐殺する。英国軍は彼らを巻き込み,ナチスが集う映画館を爆破する計画を立てるが……。
 歴史的事実を基にしているというが,ストーリーは奇想天外でさすがタランティーノと唸ること必至だ。映画通らしく,いつものように随所にパロディや名作へのオマージュが見られるが,何よりも米・英・独・仏各国の個性派俳優を揃え,それぞれ原語のセリフを(即ち,独語,仏語の部分は英語字幕付きで)話すのがいい。映画通の彼が,ナチス・ドイツきっての映画好きゲッベルスの口を借りて,当時の映画作りを語らせたり,当時の映画上映の仕組みを見せてくれるのも愉しみだ。B級映画をこよなく愛するタランティーノが,この大作で一回り大きな遊び心を発揮しているのが嬉しい(写真1)
 
   
 
写真1 個性派のタランティーノ監督(右)
 
   
   この映画の総合VFXスーパバイザは,伝説のジョン・ダイクストラで,具体的作業はCIS Hollywoodが担当した。まず印象的なのは,ドイツ将校の頭皮を切り取った跡の描写だろう。生々しく,かつ滑稽だ。1940年代のパリの街の描写も印象的だ。数々のインビジブルVFXショットは,目立たなくリアルに見せるというより,「シュルレアリスム」で描いたパリとでも表現できるだろうか。ミミューが運営する映画館の外観や内装はその典型だ(写真2)。そこには3D-CGはなく,少し古風なコンポジット合成やカラー補正を最近のデジタル処理で置き換えている風に見えた。写真3は映画館の舞台裏の光景で,スクリーンに映った大きな顔にどきっとするが,このスクリーン映像自体がデジタル合成の産物という具合だ。この後に続く炎上シーンはSFXとVFXの合わせ技で,まさにタランティーノ流「シュール」の味付けである。
 クレジット上の主演はブラッド・ピットだが,人を喰ったような演技はむしろ名脇役で,タランティーノ監督の分身のように映る。実質の主演はショシャナを演じるメラニー・ロランで,彼女の楚々とした魅力がウリだ。ユダヤ・ハンターのランダ大佐を演じるクリストフ・ヴァルツの存在感も際立っていた。 
 
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写真2 これが舞台となる映画館
 
   
 
 
 
写真3 スクリーン裏の舞台の場面。顔大写しのスクリーンはデジタル合成。
(C) 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
 
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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