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O plus E誌 2007年9月号掲載
 
 
 
アーサーとミニモイの不思議な国』
(ヨーロッパ・コープ/
アスミック・エース配給)
 
      (C) 2006 EuropaCorp - Avalanche Productions - Apipoulai Prod  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [9月22日より丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2007年6月14日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  鬼才リュック・ベッソンが描く国籍不明のお伽噺  
 

 現在のフランス映画界きっての人気監督である鬼才リュック・ベッソンの最新作&引退予定作品である。この一文だけで,いくつか解説が必要だろう。
 まず,一般的には「人気監督」と「鬼才」は相容れない感じがするが,彼の場合は両立する。人気度では『アメリ』(01)のジャン=ピエール・ジュネも負けていないが,ベッソン作品なら間違いなく観客動員が期待できることは否定できない。鬼才というと,カルト的ファンをもつデヴィッド・クローネンバーグやクエンティン・タランティーノのような存在を想像しがちだが,『ニキータ』(90)『レオン』(94)『フィフスエレメント』(97)『ジャンヌ・ダルク』(99)という毛色の違う作品に挑戦するこの監督は,筆者には十分「鬼才」に感じられる。
 本作品は2006年12月に公開され,欧州で大ヒットした。既に自身の製作会社ヨーロッパ・コープでの製作者活動に熱心で,『TAXi』シリーズや『トランスポーター』シリーズなどを生み出している。それだけに,久々の監督作品となる本作への意気込みが分かろうというものだ。また,かねてより10作品で監督業は引退と公言していたが,まさにこの映画がその10作目に当たる。もっとも,本作品は3部作の1作目で,その続編までは撮り続けるとのことだが……(ズルいぞ!)。
 主人公アーサーは冒険心溢れる10歳の少年だが,おばあさんと住んでいる家が借金のかたに立ち退きを迫られる。4年前に失踪した冒険家のおじいさんが残した書物によると,裏庭の地下のどこかに体長2mmのミニモイ族が住む世界があり,そこに宝物を隠されているという。大切な家を護り,おじいさんを探すため,アーサーは自ら縮んでミニモイ国へ宝探しの冒険に旅立つ…。
 原作は既に文庫化され出版されているが,古典的名作ファンタジーではなく,ヴィジュアル・アーティストのセリーヌ・ガルシアから送られてきた原案に触発され,ベッソン監督自身が映画化を前提に著したものだ。もともとファンタジーは国籍不明だが,この映画はベッソン作品らしく,キャスティングも制作方法も話題満載だ。
 フランス映画だというのに,アーサーが住むのはアメリカのとある田舎町で,ミニモイ国に導いてくれるのはなぜかアフリカのボゴ=マタサライ族だ。アーサーを演じるのは,英国の天才子役のフレディ・ハイモア。『ネバーランド』(05年1月号) 『チャーリーとチョコレート工場』(同9月号)のあの名演技の少年と言えば分かるだろう。おばあさん役は『ローズマリーの赤ちゃん』(68)『華麗なるギャツビー』(74)のミア・ファロウだが,まるでお母さんかと思わせるほど,まだ若々しい。フルCGで描かれるミニモイ族の声は,王女セレニアをマドンナ,悪の帝王マルタザールをディヴィッド・ボウイが演じるというから,まさに国籍不明だ。
 この映画の宣伝文句では「実写と3Dアニメの融合」が吹聴されているが,これも要説明だ。本欄の読者なら「実写映像へのCG合成なら当たり前ではないか」と思われるだろうが,そうではない。人間界は実写で,ミニモイ世界はほぼ完全にフルCGアニメで,その間を巧みに繋いでいるというのが正しい。裏庭の草むらを境界に,この実写とCGの繋ぎ目は全く違和感がない。
 ミニモイ族のキャラは,いずれも人形劇の人形を思わせるデザインで,髪の毛や衣裳の質感も人形そのものだ(写真1)。動きも顔の表情も,ほぼ全カット実演をMoCapしたらしい。そうでなければパペット操作かストップモーションかと疑う質感表現だ。CGで描いたキャラながら,王女セレニアはとてもキュートでセクシーだ(写真2)。相当な試行錯誤を経て,この表情ができ上がったことは想像に難くない。別掲の『ベクシル』のような流儀では絶対に実現できないレベルの魅力だ。ただし,彼女にマドンナの声は合っていない。
 ミニモイの王国は,イラスト画から精巧なミニチュアが作られ,それを3DスキャンしてフルCG化されている(写真3)。本当か,一部はミニチュアのままではないか?と疑うほどの質感と精巧さだ。CG/VFXの担当は,ピエール・ブファン率いるBUF CAPMPAGNIE社で,フランスNo.1スタジオらしい腕を見せてくれる。米国・英国のVFXスタジオに負けじという意欲が感じられる。
 なるほど,ベッソン作品らしい挑戦心に富んだ作品だ。ただし,ファンタジーにしてはこの映画は少し騒々しく,落ち着きがない。もっとも『TAXi』の製作者にそれを求める方が無理かも知れないが。

 
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写真1 髪の毛も衣裳もまるで人形劇のような質感
 
     
 
 
 
 
 
写真2 ミニモイ族はすべてCG製。王女セレニアはキュートでセクシーだ。
BUF Campagnie. All rights reserved. (C) 2006 EuropaCorp - Avalanche Productions - Apipoulai Prod
 
     
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)  
     
 
 
 
Photo: Jodi Luschwitz
 
 
 
 
写真3 まず卓抜なアーティストたちによるビジュアル・デザイン(上),次いで忠実で精巧なミニチュアセット制作(中),そして最新のVFXを駆使して地下王国の完成映像ができあがる(下)
BUF Campagnie. All rights reserved. (C) 2006 EuropaCorp - Avalanche Productions - Apipoulai Prod
 
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)  
   
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