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■『劔岳 点の記』 :入魂の一作だ。未踏の劔岳山頂を目指す陸軍測量隊の苦闘を描いた同名小説の映画化で,日本を代表する名キャメラマン・木村大作の初監督作品である。高地で撮影した素晴らしい大自然の映像から,この映画にかける情熱が伝わってくる。新田次郎原作らしく,内容は生真面目そのものの直球勝負だ。映画としては登頂目前の緊迫感を盛り上げた方が面白かっただろうが,この映画はこれでいい。強いて難を言えば,陸軍上層部を悪者扱いする演出はステレオタイプ過ぎる。主人公の浅野忠信に対して,可憐な宮崎あおいでは彼の妻に見えなかった。ただし,そんな欠点は圧巻ともいうべき山々の映像が吹き飛ばしてくれる。
■『それでも恋するバルセロナ』 :小粋な題とバルセロナの観光映画を兼ねたロマンティック・コメディ。ウディ・アレン監督・脚本でありながら.NYでなくスペインが舞台というのが異例だが,中身はしっかりアレン流のひねりの利いたコメディだ。監督お気に入りで3度目の主演のスカーレット・ヨハンソンに,本作品でアカデミー賞助演女優賞に輝いたペネロペ・クルスが微妙な関係に陥るとあっては見逃せない。男女4角関係でモテモテ男の画家を演じるのは,『ノーカントリー』(07)の個性的な殺人鬼のハビエル・バルデム。この豪華キャストの個性的な恋愛観は,異国の男女の絵空事と割り切れば,普通の日本人にも十二分に楽しめる。
■『MW -ムウ-』:手塚治虫が描いた晩年の問題作の映画化作品だ。原作が過激なテーマをもて余していたのに,かなり楽しめる娯楽作品に仕上げている。監督は岩本仁志。予想以上の力作で,邦画としては上々の部類に入る。冒頭のバンコック市内でのチェイス・シーンも,終盤の夜の東京上空での軍用機撃墜シーンも迫力がある。白組担当のVFXも悪くない。欠点はと言えば,玉木宏演じる冷酷な殺人鬼はキマっているのに,山田孝之演じる賀来神父がミスキャストだ。相変わらずのむさ苦しいロン毛と無精ヒゲは,およそ神父に見えないし,存在感も希薄だ。ただし,原作にはない沢木刑事役の石橋凌の熱演が,それを補って余りある。
■『クヌート』:地球温暖化に伴う北極の環境変化,餌を求める白クマにも危機が……という警鐘は『北極のナヌー』や『アース』で観た。またかと思いきや,3つ子の北極グマは脇役で,この映画の主役はベルリン動物園で生まれ,人間に育てられる北極グマの子,クヌートだった。それだけでは話題がもたないのか,ベラルーシの森で母を亡くした2頭のヒグマの生きる様子も加わっている。人間と野生の動物の共生問題が提起されているが,そう強いメッセージではない。この映画は可愛いクヌートの育つ様だけで十分だ。音楽は日本で全面的に入れ替えられている。少々うるさいシーンもあったが,全体としては可愛く凛々しく仕上がっている。
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