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O plus E誌 2007年1月号掲載
 
 
モンスター・ハウス』
(コロンビア映画
/SPE配給)
      (C) 2006 Columbia Pictures Industries, Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [1月13日より日比谷みゆき座他全国東宝洋画系にて公開予定]   2006年12月12日 SPE試写室(大阪)  
         
   
 
鉄コン筋クリート』
(アスミック・エース)
      (C)2006 松本大洋/小学館,アニプレックス, アスミック・エース, Beyond C, 電通, TOKYO MX  
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [12月23日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にて公開中]   2006年11月9日 朝日生命ホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  映像表現力の差を比べるのに適した日米の2作品  
    先月のファミリー向け動物ものCGアニメ2作品に比べて,もう少し上の年齢層を狙ったアニメ2本で,映像表現力の違いを中心に論じてみよう。
  まず,フルCGアニメの『モンスター・ハウス』。米国では立体メガネをかける3D方式で上映されていた。夏のSIGGRAPH開催時にボストンで観るつもりだったが,『スキャナー・ダークリー』(06年11月号)を優先したため機会を逸してしまった。かなり3D化の効果が高い作品との評判なのに,日本での3D上映はわずか3館というのが残念だ。同じソニー製の長編フルCGアニメでありながら,日本公開では後発の『オープン・シーズン』に追い越された事情は,先月号で報じた通りである。何やら日本では継子扱いをされる不憫な作品だ。
 監督は新人のギル・ケナンだが,S. スピルバーグ,R. ゼメキスの両御大が製作総指揮を務めた新趣向のホラー・アニメである。実質的には,ホラー専門の製作会社ももっているR. ゼメキス主導の作品と考えて良い。向かいにある奇妙な家が,実は人を食べるモンスターだったという設定で,少年2人と美少女1人の3人組がこのモンスター退治に乗り出す。このトリオは,「ハリポタ」3人組を彷彿とさせる。ゼメキス監督作品の中では,フルCGの『ポーラー・エクスプレス』(04年12月号)があるが,タッチは実写ベースの『ザスーラ』(05年12月号)に近い。即ち,小学校高学年から中学生の少年の心をもった観客が主対象だ。筆者にとって待望の作品だったので,最後までワクワクして観てしまった。
 一方の『鉄コン筋クリート』の原作は,週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載されたコミックで,『ピンポン』の松本大洋の出世作である。義理と人情の「地獄」の町を飛び回る2人の少年の物語は,この奇妙な題からも分かるように,高校生から大学生以上のいわゆるスピリッツ世代が主対象だ。3D-CGやVFXを多用したというが,基本はセル調のジャパニメーションである。
 監督は『アニマトリックス』(02)のマイケル・アリアス。日本在住で日本語ペラペラの変な外人である。舞台となる「宝町」は,高度成長期の日本のどこかの町のはずだが,国籍不明のアジア風の雑然とした町として描いたという。なるほど,原作にはないこのカラフルな猥雑さは,アジア市場も視野に入れてのことだろう。  
 
     
  もういい加減,映像表現力の差に無条件降伏を  
   さて,表現力の比較である。『モンスター・ハウス』の登場人物は,意図的にクレイアニメ風のデザイン(写真1)にしたというが,これは成功の部類だ。『オープン・シーズン』での髪の毛の描画力を観れば,いくらでもリアリズムは追求できるのに,わざと貼り付けたような髪形にして人形感を演出している。
 それでいて,顔面にMoCap用マーカーをつけての表情表現はきめ細かだ。声優とは別に,登場キャラの体形に合わせたMoCap収録用タレントを起用している配慮も活きている。この点では,『ポーラー・エクスプレス』の経験にさらに上乗せしている。PIXARやPDIが古典的アニメーション手法にこだわっているのとは対照的だ。家が主役なだけに,その縦横無尽な変形(写真2)にも3D-CGの表現力が存分に発揮されている。
 一方の『鉄コン筋クリート』では,舞台となる「宝町」の描き込みが凄い(写真3)。日本アニメ界の総力を結集したというだけのことはある。分業とはいえ,よくぞここまでのビジュアルを作り上げたものだ。この集団的名人芸は感動もので,芸術域を通り越している。かつての名車「スバル360」を登場させるなど(写真4),古き良き日本の懐かしい光景がしっかり描かれているのも嬉しい(筆者の学生時代の愛車だった!)。
 それでいて,3D-CGの大半はマット画として利用止まりで,書き割りを感じることも少なくない。カメラを振ったり,ウォークスルーするシーンは限られている。人物の動きはセルアニメそのもので,折角3D-CGでモデリングしてある空間なのに,パースをつけて歩く様が制限されている。動きも緩慢で,これじゃ何のための3D-CGか,全くジャパニメーションの枠を出ていない。
 日本のアニメ界は,もうこの作法を封印する時期だ。既にCG技術に通暁したクリエータたちは日本にも沢山いる。彼らに美的センス,映像表現力は3D-CGらしいCGで発揮させてやろう。『モンスター・ハウス』中の,ハッとするような美しい紅葉の町を観て,そのことに気づくべきだ。そろそろ無条件降伏の時期だろう。 
 
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写真1 登場人物は意図的にクレイアニメ風の仕上げ

 
 
 
 
     
 
 
 
写真2 昼は普通の家(上)が,夜は一転モンスターに(下)
(C) 2006 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
 
   
 
 
     
 
写真3 宝町の景観:鳥瞰視点(上),地上での視点(下)
 
     
 
 
 
写真4 往年の名車スバル360の登場は嬉しい!
(C)2006 松本大洋/小学館,アニプレックス, アスミック・エース, Beyond C, 電通, TOKYO MX
 
   
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