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O plus E誌 2009年2月号掲載
 
 
 
チェンジリング』
(ユニバーサル映画
/東宝東和配給 )
 
  (C) 2008 Universal Studios
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [2月20日より日劇3ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2008年12月15日 リサイタルホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  流れるようなイーストウッド監督の語り口に感服  
 

 映画は監督のものだ。最近,プロデューサーの権限が大きくなったとはいえ,作品の良し悪しを決定づけるのは監督の腕だ。その当たり前のことを知ったのは大人になってからで,映画全盛期の子供の頃は,主演スター中心に映画が作られていると思い込んでいた。いや,当時の量産映画は,実際,主演俳優の地位がもっと高かったようだ。手早く作るには,監督は期限までに仕上げてくれる人物なら,無名の誰かでもよかったのだろう。
 その一方で,映画は大勢のスタッフが力を合わせて作るものだ。キャメラや照明やメイクのことをそれほど知らなくても,各々専門のスタッフが有能なら,監督は演出に専念できる。それゆえに,歌手や画家や漫才師までが監督として名乗りをあげる始末になる。
 俳優から映画監督に転じるのもよくある話だが,ネームバリューで1,2本は撮らせてもらえても,監督として成功を収め,継続して作品を発表しているのは稀だ。日本なら故・伊丹十三,香港ならチャウ・シンチーが思い浮かぶ。ハリウッドでなら,トップスターであって,監督としてもオスカーを得たロバート・レッドフォードとクリント・イーストウッドが金字塔だろう。それにしても,イーストウッド監督の最近の活躍はすごい。『ミスティック・リバー』(03) 『ミリオンダラー・ベイビー』(04)『硫黄島からの手紙』(06年12月号)と続く作品群の質の高さには舌をまく。彼の最新作で,カンヌ映画祭で絶賛を浴び,特別賞を受賞したのが本作品だ。
 舞台は1928年のロサンジェルス。ある日,平凡な母子家庭から,9歳の息子が行方不明となる。5ヶ月後に見つかったと知らされ,警察から押し付けられたのは全く見知らぬ少年だった。我が子を見つけたい一心で,腐敗したLA警察と闘う健気な母親クリスティン・コリンズの物語が展開する。市役所の地下室から見つかった古い記録に基づく実話とのことだ。表題の「チェンジリング」とは「取り替えっ子」で,「さらった子供の代わりに妖精が置いていく醜い子供」の意味だそうだ。
 この母親を好演するのは,アンジェリーナ・ジョリー。『17歳のカルテ』(99)でアカデミー賞助演女優賞を得た演技派の一面があったとはいえ,とても『トゥームレイダー』(01年9月号)で肉感的なゲームキャラを演じ,『ウォンテッド』(08年9月号)で派手なアクションを見せたのと同じ女優とは思えない。改めてA・ジョリーの俳優としての資質の高さを感じた一作だ。
 実話であっても,それほど衝撃的でもない逸話が見応えのある映画に仕上ったのは,脚本がいいからだ。それ以上に,イーストウッド監督のストーリー・テラーとしての腕によるところが大きい。監督と主演女優の相性も抜群と思えた(写真1)。流れるような物語展開に思わず引き込まれる。カンヌほどにはアメリカでの批評家の点数は高くないようだが,彼らの目が節穴なのか,それとも他国で褒められたのを,再度褒めるのが癪なだけだろうか。米国でより,日本や欧州で好まれる作風とも言える。

 
   
 
写真1 撮影中も,仲が良くて楽しそう
 
 

 
   さて,VFXの話題である。当然,筆者は1920年代のLAの街の描写に注目していた。LAダウンタウンや海辺の刑務所の光景が登場するが(写真2),当然インビジブルVFXの活躍場面だ。全部CGのようには見えなかったから,オープンセットにデジタルマット画やCGの建物やクルマを描き加えたのだろう。さほど量は多くなかったので,あえて語るほどでもないと思っていた。  
   
 
 

写真2 こういう時代もの景観はVFXの出番

   
   ところが,最後に目を惹いたのはエンドロールだ。写真3の光景が延々と続く。『スパイ・ゾルゲ』(03年6月) の昭和初期の銀座4丁目交差点,『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年11月)の昭和30年代の東京の大通り,『キング・コング』(06年1月号) の1930年代のNYの街,等々で見慣れた光景だが,これだけ尺が長いのは珍しい。熟視にも耐える品質との自信があるのだろう。CIS Vancouberが担当したようだ。良く観ると,道行く人々の衣装も年代物だ。エキストラの通行人も登場しているのだろうが,これだけ続々と出て来る人やクルマの大半は,Massiveによる描写だと観てとれた。少し不自然な動きもあるが,全体としてはいい出来だ。        
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写真3 エンドロールに流れるのは,1928年のロサンジェルスの街の再現。長い時間の観賞に耐える逸品。
(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

 
   
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
   
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