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O plus E誌 2009年2月号掲載
 
 
 
オーストラリア』
(20世紀フォックス映画 )
 
  (C) 2008 TWENTIETH CENTURY FOX
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [2月28日より日比谷スカラ座他全国東宝洋画系にて公開予定]   2008年12月25日 リサイタルホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  母国の大自然を前に,監督の思い入れの強さが目立つ  
 

 オーストラリアを舞台に,オーストラリア出身監督が,オーストラリア出身の人気女優と人気男優を使って撮った話題作である。監督・脚本は,ディカプリオ版『ロミオ&ジュリエット』(96) 『ムーラン・ルージュ』(01年11月号)のバズ・ラーマン。主演は『めぐりあう時間たち』(02) 『コールド マウンテン』(04年5月号)のニコール・キッドマン。ラーマン作品には,『ムーラン・ルージュ』以来の主演となる。相手役は『X-MEN』シリーズのヒュー・ジャックマン。なるほど,ハリウッドで確固たる地位を築いた豪州出身者たちが,最もシンプルな題で母国の大自然と歴史を描き,ハリウッド資本で故郷に錦を飾った映画である。さしずめ,大相撲のモンゴル巡業といったところだろうか。
 ただし,N・キッドマンの役どころは豪州人ではなく,音信不通となった夫を探しにオーストラリアにやって来た英国貴族レディ・サラ・アシュレイである。その凛とした容貌,艶やかな衣装も映えている。筆者は気づかなかったが,靴や手袋はすべてフェラガモ製で,女性観客の注目の的らしい。
 対するH・ジャックマンは,粗野で無骨な牛追い男のドローヴァー役だ。彼のカウボーイ姿は,若き日のクリント・イーストウッドを彷彿とさせ,嬉しくなる。牛の大群を追う様子は,1960年代の人気TVシリーズ『ローハイド』を知るオールドファンへのサービスだろう。ハリウッド・デビューがN・キッドマンより10年以上後だったので,かなり年下かと思ったが,実年齢は1つしか若くない。それでも格下感は否めなかったが,どうしてどうして,後半はしっかり同等以上の存在感のある演技を見せてくれる。『ムーラン・ルージュ』のユアン・マクレガーといい,『コールド マウンテン』のジュード・ロウといい,N・キッドマンは相手役男優の「男」を引き出すのに長けているようだ。
 時代は第二次世界大戦前夜で,オーストラリア北部のダーウィン周辺が舞台だ。後半には,シンガポールを陥落させ,豪州にまで攻め込んでくる日本帝国軍が悪役として登場する。1人の女性の自己発見へのオデッセイ,壮大な自然の中での運命的な愛の物語,と聞くまでもなく,スチル写真を少し見ただけで『風と共に去りぬ』(39)を相当に意識していることが分かる(写真1)
 オーソドックスな一大叙事詩だというのに,想像以上にCG/VFXシーンが多かった。主担当は,勿論オーストラリアを本拠とするAnimal Logic社で,副担当にRising Sun PicturesやFramestoreの名前が見える。冒頭のダーウィンの港と船だけで既にこれはCGだなと感じる(写真2)。広大な牧場や山々の大自然の中で,驚くようなカメラ・アングルが登場して,デジタル処理が相当に加わっていると分かる。竜巻はいうまでもない。

 
   
 
写真1 何やら,どこかで見たような構図   写真2 港も船もほとんどCG製だろう
 
 

 
   牛の大群もアップは本物で,ロングはCGアニメーションだろう。前半のクライマックスは,混血少年ナラが牛の暴走を崖の手前で間一髪制止するシーンだ(写真3)。牛も崖もCGならではの表現で,映像的にはなかなかの出来映えだが,物語としてここまで演出する必要があったのかには疑問符がつく。後半は,空爆や戦火の中での街の様子が生々しい(写真4)。戦闘機はほぼすべて,軍用車も大半はCG製だろう。戦闘機の動きも素早く,相当な迫力だ。混血児たちが隔離される島の外観もCGによる描写で,VFXショット数はかなりの数に上る。  
   
 
 

写真3 果たしてここまでの描写が必要だったかは疑問

   
 
 
 

写真4 空爆や戦火の表現は一級品
(C) 2008 TWENTIETH CENTURY FOX. Courtesy of Framestore

 
   
   物語は壮大,主演の男女も熱演,サラとナラの再会の場面は間違いなく感動ものだ。CG/VFXの質も悪くない。それでいて,この映画は大作としての風格に欠ける。当欄としては残念だが,CG/VFX使いを少し抑えるべきだったと思う。この監督特有のケレンが強過ぎて,騒々しく感じてしまう。『007/慰めの報酬』(先月号)の騒々しさにも似ているが,少し違う落ち着きのなさだ。「ロールス・ロイスで岩場を走るかのような贅沢な揺れのドライブ」という評があったが,言い得て妙だ。あれもこれも盛り込みたい,絵作りにも凝ってみたいという監督の思い入れが,少し空回りしているように感じた。その情熱には感心した上で,少し辛めの評価にした。        
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  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
   
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