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O plus E誌 2003年6月号掲載
 
 
『スパイ・ゾルゲ』
(東宝配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語]    2003年4月10日 東宝本社試写室  
  [6月14日より全国東宝系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  日本映画最高数のVFX利用も,質は玉石混淆  
   2003年3月の下旬,東京・八王子の東京工科大学で開催された情報処理学会第45回全国大会の特別公開講演は,映画監督・篠田正浩,漫画家・モンキーパンチ,アニメーター・りんたろうの3氏によるパネル「映画・アニメが進化する−ディジタルで変わる映像表現の世界−」だった。立ち見も出た超満員の会場で,最新作『スパイ・ゾルゲ』のVFXシーンを紹介する篠田監督はご満悦で,「この雪だって,コンピュータで作れるんですよ」とCGのパワーを嬉しそうに語っていた。メイキング映像も良く出来ていた。「デジタル技術の映像表現への影響をどう思うか」との問いに,「技術がハートを作る」と答えられたのが印象的だった。いい言葉だ。
 前作『梟の城』(99)でもCGを多用した篠田正浩の監督引退作品は,さらに本格的なVFXを導入との噂だった。さらに『スター・ウォーズ エピソード2』(02)と同様,ソニー製HD24pカメラで全編をデジタル撮影,早稲田大学や埼玉県にあるTAO(通信・放送機構)の本庄情報通信研究開発支援センターの設備を用いてデジタル編集を行ったという。最終的なCGシーンは980カットというから,日本映画では過去最高だろう。
 篠田正浩といえば,日本映画全盛の頃,大島渚,吉田喜重ともに「松竹ヌーヴェル・ヴァーク」の一翼を担った改革の旗手の1人。『心中天網島』(69)『はなれ瞽女おりん』(77)『瀬戸内少年野球団』(84)などで数々の映画賞を受賞。日本を代表するこの監督の「渾身のラストフィルム」「この映画を撮れたら,死んでもいい!」というキャッチコピーに,映画ファンなら心を動かされないわけがない。加えて,夫人の岩下志麻がその製作過程を撮影し,メイキング・ビデオとして発売するという。
 テーマは「ゾルゲ事件」として歴史に名を残す国際スパイ,リヒャルト・ゾルゲ(イアン・グレン)と彼が信頼を寄せていた朝日新聞記者尾崎秀実(本木雅弘)を中心に昭和史の裏表を描く。主要登場人物の衣装は,時代考証を得て,森英恵がデザイン。国内は13都道県15都市で,中国・上海,ドイツ・ベルリンでもロケを敢行というから,話題作りは満点だ。
 4月上旬,東宝本社試写室は超満員だった。約3時間の上映時間は長かった。上川隆也,椎名桔平といった中堅演技派,葉月里緒菜,小雪,夏川結衣といった女優陣,脇役に大滝秀治,佐藤慶らを揃えたこの長編は,いかにも大河ドラマだった。衣装にもオープンセットにも,日本映画としては破格の費用を投じたことが伺える。
 なるほどCG/VFXは満載だった。複数のCG/VFXプロダクションの名前があったが,総勢は100名未満。山崎監督作品の10数名よりは随分多いが,本場ハリウッドに比べると1/3程度だ。これで980カットはよくやったと言えるが,質のバラツキも目立った。
 写真1は,この映画の白眉たる銀座4丁目交差点のメイキング過程である。このシーンの制作努力は素直に褒めておこう。この場面と上海の外灘地区のように手間をかけたシーンは語るに足る出来だったが,他は総じてマット画やテクスチャのクオリティが低かった。照明の不一致も気になった。国会議事堂,網走刑務所,服部時計店,日劇,朝日新聞社,首相官邸等,形状モデリングの労に対して,テクスチャ班の実力不足と言えようか。
   残念ながら,VFXが映画のスケールを大きくしていない。合成のアングルの制約からか,むしろCGを利用したシーンの方が縮こまっている。典型例は写真2の数寄屋橋上のシーンだ。カメラはほとんど移動せず,構図も小さい。まるで朝のTVドラマレベルのスケール感だ。ピーター・ジャクソンなら,ここからカメラを引き,銀座周辺から皇居付近までも一気に俯瞰したことだろう。
 CG映像の焦点が合い過ぎているのも,安っぽく見える要因だろう。ボケやノイズをもっと加えてリアリティを上げる工夫もなされていない。二・二六事件当日の降雪,飛行機が撒く広告ビラも努力の跡は見えるが,まだ世界の一級映画で通用するレベルではない。
 CGだけでなく,実写部分の貧弱さも目立った。例えば,ゾルゲのバイクでの転倒シーンはお粗末だ。女性ジャーナリスト,スメドレーの出航を見送るシーンには,桟橋にもっと多くの見送り客が欲しいし,ぐっとカメラを引いた位置からの構図が欲しかった。こういう部分に使ってこそ,デジタル技術の威力が発揮できるはずだ。
 
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  監督はこのレベルで我慢しちゃ行けない  
 
この3時間は長く感じましたね。歴史の勉強にはなりましたが,登場人物もエピソードももっと少なくて良かったと思いました。
ま,この大監督のラストフィルムですから……。
評価するのを避けて,逃げちゃってますね(笑)。
マーチン・スコセッシの『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2003年2月号)と同じように,長年暖めたテーマはどうしても過剰気味に描きたくなるのでしょう。
でも,CGで描いたシーンが多過ぎますね。数を減らしてもっと質を上げて欲しかったです。
監督がCGのパワーを喜ぶのはいいけど,このレベルで満足しては行けないんです。でも,製作費を考えると日本映画界では完全主義は貫けない。デジタルが分からない世代は,「これじゃ駄目だ。もっとリアリティを上げてくれ」とは言えないんでしょう。
総製作費20億円は日本映画じゃ多い方でしょうが,ハリウッドの5分の1ですね。
CGの外注費はアメリカ映画の10分の1以下でしょう。でも,CGクリエータたちも,コストばかりを言い訳に甘えてちゃ行けない。結局,観客が観るのは同じ値段の映画なのですから。
時間とコストだけでなく,技術も未熟なんじゃないんですか。空の雲は止まったまま,背景はまるで銭湯の富士山の絵のようにチャチでした(笑)。
自動車も電車も形状はデジタルで再現しても,テクスチャや照明が今一歩でしたね。でも,これは経験を積まない限り上達しませんから,こうした理解のある監督が練習させてくれることに感謝すべきです。
なるほど,引退する監督の若い世代への贈り物なんですね.ところで,最終作の記念でしょうか,ヒッチコックばりに監督が映画の中に登場しますね。
仏頂面で3回も登場しました。
あれは,勘弁して下さいという感じでした(笑)。それなら,奥さんの岩下志麻さんの登場場面をもっと多くした方が良かったです。もったいない(笑)。
 
   
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