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O plus E誌 2002年1月号掲載
 
 
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『フロム・ヘル』
(20世紀フォックス映画)
 
(c)2001 TWENTIETH CENTURY FOX
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語   (2001年11月22日 20世紀フォックス試写室)  
         
     
  時代考証は死体まで正確  
   ジョニー・デップ主演でこの題を聞いた時には,またオカルト系B級ホラー映画かと思ったが,ホラーではあるが,むしろ実在の事件をネタにした時代物スリラーだった。犯罪史上でも悪名高き殺人犯「切り裂きジャック(Jach the Ripper)」を扱っている。名前は聞いたことがあっても,時代も事件もよく知らなかった平均的日本人も,この映画で歴史に残る連続殺人事件の概要を知ることになるだろう。これも映画の効用だ。
 時は1888年(明治21年),ビクトリア朝末期のロンドンの下町,犯罪者や娼婦がたむろするホワイトチャペル通りで,10週間に5人の娼婦が惨殺された。自ら「切り裂きジャック」と名乗る人物からの犯行内容や犯行予告の投書があったが,遂に迷宮入りとなった事件である。これまでに数多くの研究書,関連本が刊行されているが,この映画は,アラン・ムーアが1999年に発表した同名のグラフィック・ノベルに基づいている。
 監督は,双子の兄弟のアレン&アルバート・ヒューズ。実在の捜査主任フレッド・アバーライン警部を演じるのは,『スリーピー・ホロウ』(99)『ショコラ』(00)『ブロウ』(01)のジョニー・デップ。ここ数年,年3本のペースで主演映画が公開されるので,すっかり日本のファンにもお馴染みになった。相手役の美人娼婦メアリー・ケリー役は,『ブギー・ナイツ』(97)『ロスト・イン・スペース』(98)などに出演していたヘザー・グラハム。大きな目が印象的で,こちらは「水沢アキ」によく似ている。助演陣では,アバーライン警部を助けるゴッドレイ巡査部長に,『007/ワールド・イズ・ナット・イナフ』(99)のロビー・コルトレーン。『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)では,大男の森の番人ハグリット役を好演していたのが記憶に新しい。その他,警視総監,王室主治医,娼婦仲間にも英国の芸達者たちが名を連ねている。最近アメリカ映画でありながら,イギリスを舞台に英国俳優を使って撮る映画が少なくない。
 映画は,前半は19世紀末のロンドンの様子を克明に描き,伝説の事件をなぞる。実際には未解決の事件だが,後半は王室や秘密結社の関与を暴き,「切り裂きジャック」を追う警部の犯人当てのミステリーに仕立てている。結果はそう意外でもないし,奇をてらってもいない。オーソドックスな作りで,映画としての完成度は低くない。
 19世紀のロンドンの面影を出すのに,プラハの6つの城でロケされた。「ホワイトチャペル通り」を再現するのに,プラハ郊外に大規模なセットが組まれた。街並みの再現,4,000着以上のビクトリア朝の衣装には,当時のロンドンの下層階級の生活が滲み出ていて,これも勉強になる(写真)。
写真 19世紀末のロンドンを忠実に復元
(c)2001 TWENTIETH CENTURY FOX
そして,何にもまして忠実なのが,「切り裂きジャック」に殺された死体のリアルな描写だ。
 VFXの担当は,イリュージョン・アーツ社とデジスコープ社。主として,19世紀のロンドンの風景合成と警部の幻覚シーンで使われている。遠景のディジタル・マットと馬車や人通りとの合成は,すぐにそれと分かる定番通りの用法であるが,嫌みではない。こうしたシーンも数年前と比べると確実に進歩しているので,やはり映像表現の幅を拡げていることは間違いない。
 観て損はないが,この死体のリアルさに耐える努力は必要だ。これには参った。
 
   
   
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