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O plus E誌 2004年11月号掲載
 
 
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『コラテラル』
(パラマウント映画
&ドリームワークス映画
/UIP配給)
 
      TM & (c)2004 DREAMWORKS, LLC and Paramount Pictures  
  オフィシャルサイト[日本語][英語   2004年9月14日 ナビオTOHOプレックス[完成披露試写会(大阪)]  
  [10月30日より日劇1・日比谷映画他全国東宝系にて公開予定]      
       
     
     
 
 
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『ターミナル』
(ドリームワークス映画
/UIP配給)
 
      (c)2004 Deamworks Productions, LLC  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2004年12月日劇1ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2004年9月30日 ナビオTOHOプレックス[完成披露試写会(大阪)]  
         
 
   
  卒のない,味のあるこの2本  
   この2本もVFX的にはあまり語ることはない映画だが,取り上げておきたい作品だ。製作・配給会社も同じなら,字幕翻訳も共に戸田奈津子さんだ。主演はそれぞれハリウッド映画界を代表する男優のトム・クルーズとトム・ハンクス。人気俳優を使い,それでいて大作ぶらずに味があり,小うるさい映画通もポップコーン片手の大衆観客も満足させる技は,さすが映画名人スティーヴン・スピルバーグが率いるドリームワークス作品だと感心する。
 まず,トム・クルーズがクールな殺し屋を演じる『コラテラル』は,製作・監督が『ヒート』(95)『インサイダー』(99)のマイケル・マン,製作総指揮が『ショーシャンクの空に』(94)『グリーンマイル』(99)を監督したフランク・ダラボンと聞くと,さぞかし練りに練った脚本だろうと想像できたが,その期待に違わぬ濃密なドラマだった。多額のチップを約束され,殺し屋ヴィンセントに一晩雇われたために殺人事件に関わらざる得なくなったタクシー運転手マックスをコメディアン出身のジェイミー・フォックスが演じる。
 「コラテラル (collateral)」とは,英和辞典を引くと「付帯的な,2次的な」の訳があるが,この映画ではうっかり居合わせたための「巻き添え」のことだ。映画は,5人の重要証人の殺害を請け負った殺し屋と不運な運転手の出会いから,予定外の展開,最後の殺人標的をめぐる攻防まで,わずか一夜の出来事を見事な筆致で描いてくれる(写真1)。トム・クルーズの悪役演技ばかりが注目されているが,この映画では新鋭ジェイミー・フォックスの好演が目立った。オスカーの有力候補だろう。
 CGやマット画を使った視覚効果はほとんど登場しないが,ディジタル技術の威力は夜間撮影で活かされている。夜のロサンジェルスの街が主役のこの映画では,感度の悪いフィルムは使わずに,全体の約8割をディジタル撮影したという。ヴァイパー・ファイル・ストリームという特殊高解像度カメラとディジタル画像処理による色彩調整が,LAの夜を巧みに描き出している。
 ところで,俳優というのは,なぜかくも一作ごとに異質の役柄を演じたがるのだろう。演技の幅を広げたい若手や脇役ならいざ知らず,トム・クルーズ級の押しも押されぬトップ・スターならば,定番のはまり役中心でいいではないか。その方が安心して観ていられるし,安定した興行収入も期待できる。固定した役柄を嫌うというが,それなら歌舞伎や古典落語はどうしてくれる? 繰り返し定番を演じることによる円熟もいいものではないか。続編やリメイクを安易に企画する割に,米国映画では日本や香港のような長寿シリーズはお目にかからない。せっかちで歴史の浅いかの国では,製作者も観客もまだ伝統を作り上げる術を知らないだけかも知れない。
 
     
 
写真1 映画はこの2人の息詰まる熱演で展開する
TM & (c)2004 DREAMWORKS, LLC and Paramount Pictures
 
       
  こだわりは本物そっくりの空港ビルの建造  
   一方の『ターミナル』は,御大S・スピルバーグが自らメガホンを取った最新作である。『マイノリティ・リポート』(02年11月号)でトム・クルーズ,『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(03年3月号)でレオナルド・ディカプリオとトム・ハンクスを起用したが,引き続きトム・ハンクスを主役に据えた。『プライベート・ライアン』(98)以降3度目の顔合わせだ。
 最近のスピルバーグは,肩の凝らない軽快な作品で,映画作りの新しい試みを楽しんでいるように見える。『コラテラル』が一晩の出来事なら,『ターミナル』は数カ月にわたり,1つの空港ターミナルビルだけを舞台に繰り広げられるドラマだ。東欧のクラコウジアという国からニューヨークにやって来たビクター・ナボルスキー(トム・ハンクス)は,JFK空港の入国管理を通る前に母国がクーデターで消滅してしまい,パスポートは無効,入国は許可されず,帰るべき母国もないといった情況で,国際線ターミナルビルでの待機を余儀なくされる。どうしても入国してニューヨークに行きたいビクターはこのビル内で数カ月暮らすことになり,そこで起こる様々な出来事,人間模様が軽快なタッチで描かれる。
  ヒロインは,筆者のお気に入りのキャサリン・ゼタ=ジョーンズで,ビクターが想いを寄せる美形のスッチーを演じる。『シカゴ』(2003年4月号)でオスカー女優の名誉を得,続いて2児の母になったというのに,相変わらず類いまれなる美貌だ(写真2)。脇役陣は無名俳優が多いが,彼らを操ってスピルバーグならではの演出が冴えわたる。それでいて,これはトム・ハンクスの独演会とも言える映画で,トム・クルーズの殺し屋の意図的な役作りに比べて,こちらは自然体の演技と感じる。
 もう1つの主役は,舞台となる空港ビルだ。本物の空港で長期間にわたるロケはできないから,このビルを丸ごと作ったという。映画の巨大セット内でなら,室内シーンの撮影はそう難しくないと思われがちだが,空港ビルの規模となると本物らしく見せるのは簡単ではない。ガラス張りの鉄骨フレーム用に650トンの鋼材,ぴかぴかの床には6万平方フィートの天然御影石,4機のエスカレータと35の商業店舗をもつ空港ビルを本当に建ててしまうのだから恐れ入る(写真3)。
 窓の外に風景は巨大なマット画だが,至近距離にジャンボ機が迫るシーンは勿論ディジタル合成だ。VFXの出番はそう多くないが,昼間の空港や夜間の空港に見せるライティング技術に感心させられた。
 本物志向は,ターミナル内のテナントにも及んでいる。バーガー・キング,31アイスクリーム,スターバックス・コーヒー,ゴディバ,ヒューゴ・ボス,ボーダーズ,ハミルトン等,本当に空港内で営業しているブランド企業と契約して出店させ,中には本物の店員も出演したという。オフィシャル・サプライヤ扱いして広告宣伝費まで集める賢いやり方だ。これもスピルバーグらしい。
 この2本の映画は,ともに物語にジャズがからむだけに,音楽も絶品だ。『コラテラル』はジェームス・ニュートン・ハワード,『ターミナル』はジョン・ウィリアムズの大物揃いで,サントラ盤ビジネスもしっかりと計算されている。そうと分かっていながら,やっぱりその手に乗せられて買ってしまうことだろう。
   
     
 
写真2 スピルバーグ監督もこの美女の出演にご満悦
 
写真3 大道具も小道具も店員も丸ごと本物そのもの
 
 
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