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O plus E誌 2005年2月号掲載
 
 
『アレキサンダー』
(インターメディア・フィルムズ
/松竹&日本ヘラルド映画配給)
 
      (C)2004 IMF3  
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年12月10日 松竹試写室(大阪)  
  [2月5日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  この情熱と映像美は評価しよう  
    映画製作というのは残酷なものだ。同じアレキサンダー大王の物語の映画化で,バズ・ラーマン監督,レオナルド・ディカプリオ主演の企画が頓挫した中で,このオリバー・ストーン版が無事完成にこぎ着けた。ところが,アカデミー賞2度受賞の名監督が,いま旬の男優とオスカー女優を起用し,200億円もの巨費をかけた歴史大作が興行的には芳しくない(北米Box Office成績)。批評家たちの評価もかなり分かれている。一時はアカデミー賞の有力候補と噂されたこの史劇が,なぜかくも不人気なのか,娯楽性と写実性に関して考えさせられる。
 アクションやホラーが横行する中で,数年前『グラディエーター』(00年7月号)を観た時は,久々に映画らしい映画を観たと感じ,新鮮さすら覚えた。ところが昨年来,『トロイ』(04年6月号)『キング・アーサー』(04年8月号)と立て続けだと,大型歴史絵巻も食傷気味になる。受験勉強で世界史を取らなかった日本人には,時代も場所もきっちり区別できないことだろう。
 歴史に名高い紀元前4世紀のアレキサンダー東征の物語だ。『トロイ』の続編とも言える時代で,衣装もそっくりなら,アキレスの名前も再三出て来る。となると,ブラッド・ピットとエリック・バナが演じた決闘シーンが印象的なあの映画とどうしても比べてしまう。素晴らしい大型セットや甲冑・衣装なども,この映画だけ観れば嘆息するほどの出来なのに,ハリウッド映画ならこれくらいは当たり前と思ってしまう。
 興行的に不利なのは,2時間53分という長尺なのも一因だ。盛り上がりに欠ける展開だけに,実際以上に長く感じる。途中眠気すら誘う。真面目過ぎて,愛嬌のない先生の世界史の授業のようだ。それでいて,この監督の映画作りにかける情熱はひしひしと伝わってくる。評価が難しく,考えがまとまらないので,以下断片的に感じたことを列挙しておこう。
 ■ 20歳で王になり,32歳で没したというアレキサンダー役は今絶好調のコリン・ファレルが演じる。熱演ではあるが,このキャスティングはピンと来ない。なぜ「大王」の名を残すくらいのカリスマであったのかが,この映画からは感じられない。
 ■ その母親役はアンジェリーナ・ジョリー。たった1歳年上だから,とても母子には見えないのが欠点だが,2人の口論部分は迫真の名場面だ。先々月の『スカイキャプテン』と大違いで,彼女がこんなにいい女優とは思わなかった。浅丘ルリ子に似ている。
 ■ モロッコで長期間の大ロケで,ほぼ物語通りの進行で撮ったという。疲れから来る苛立ちがよく表われている。実際の東征もそうだったろう。究極のリアリズムだ。誰のための戦いか,自軍の戦士たちがリーダーに突きつける責任問題は,イラク戦争の是非に繋げて考える観客も少なくないだろう。監督の企画意図は違っただろうが,『華氏911』(04)以上の反戦映画かも知れない。
 ■ 『プラトーン』のオリバー・ストーンゆえに戦争場面のリアリズムを期待するだろうが,ほぼ期待通りだ。3万人のアレキサンダー軍と25万人のペルシャ軍を描くのにVFXは不可欠だが,もうこの使われ方は当たり前に感じてしまう(写真1)。少し斬新なのは,神のお告げの鷲を追って,鳥瞰視点でガウガメラの戦いを追うCGカメラワークだ。圧巻だが,残念ながらそのスチル画像はない。
   
 
 
 
写真1 千人のエキストラを使っての撮影風景(左)とCGで補強して仕上げた数万人の軍団(右)
(c)2004 IMF3
 
     
   ■ バビロンの街(写真2),海辺の風景等,VFXによる合成と思われるシーンも多々あるが,あまり目立たない。全編素晴らしい美術造形で,スケールが大きいからだろう。 本物の象が登場し,それに挑みかかるアレキサンダーと愛馬(写真3)はCGで合成したのかと思ったら,このシーンは実写で,コリン・ファレルは落馬で骨折したらしい。その落馬後に彼の目に映る真っ赤に染まった光景は勿論ディジタル処理だが,このシーンはとりわけ印象的だった。
 
     
 
 
 
写真2 ペルシャ帝国の都バビロンのセット構築の様子(左)と勝利したアレキサンダー軍の進駐(右)
(c)2004 IMF3
 
 

 

 
 
 
 
写真3 象に立ち向かう愛馬ブーケファラス号
(c)2004 IMF3
 
   ■ その他にも,最近Digital Intermediateと称する処理で画質調整があちこちで行なわれ,光学フィルタにはない味を出しているようだ。その調整をDI timing処理という。エンドクレジットには,DI Timerと称する職種も登場するようになっている。
 ■ 思い起こせば,オリバー・ストーンの『プラトーン』(86)も『JFK』(91)も面白い映画ではなかった。彼のイメージしたものは,確実に映像化されているのだろう。この社会派監督の作る映画に娯楽性を求める方が間違いなのかと思う。戦闘場面だけでなく,この巨篇の用意した巨大セットや豪華な装飾には目を見張るものがある(写真4)。映画の面白さとしては☆だが,この写実性への情熱に対して☆☆に格上げしてしまった。 
 
 

 

 
 
 
 
写真4 巨大セットの豪華な装飾は特筆もの
(c)2004 IMF3
 
 
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