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O plus E誌 2006年1月号掲載
 
 

『男たちの大和/
YAMATO』

(東映作品)
 
      (C)2005「男たちの大和 / YAMATO」製作委員会  
 
  オフィシャルサイト[日本語]   2005年11月30日 東映試写室(大阪)  
  [12月17日より全国東映系にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ドラマは淡泊だが,戦闘シーンは濃厚でハリウッド級  
 

 米国映画の象徴である大猿に同日公開で対抗するのは,日本が誇る戦艦大和だ。『ローレライ』『亡国のイージス』『SHINOBI』『ALWAYS三丁目の夕日』と続いた2005年度の邦画大作のトリを飾るに相応しい作品である。原作は新田次郎文学賞を受賞した辺見じゅんの同名小説で,沖縄特攻作戦に向かう途中,1945年4月7日に米軍の猛攻撃を受けて東シナ海に沈没した戦艦大和の戦いと時代を,生存者が回想する作品だ。
 この小説はかつての乗組員への徹底した取材に基づいて1983年に出版されたが,映画版では丁度60年後に沈没地点の海上から,男たちの戦いを偲ぶ設定になっている。この間に戦艦大和の沈没現場が確認され,主人公の1人である内田二等兵曹の散骨が,実際にこの沈没地点海上で行われた事実を加味して脚色されているという。
 この映画の最大のウリは,尾道市向島町に作られた実寸大(全長190m,最大幅40m)の戦艦大和のセットである(写真 1)。この製作費だけで6億円,鉄材使用量は600トンというから,日本映画界にとってはビッグ・プロジェクトだ。他の大作が10数億円のところを,この映画は18億円の予定が20億円を超えた。いや25億円を突破し,まだまだ膨らんでいる等々の業界の噂話が何度も漏れ聞こえてきた。東映にとっては大きな賭けであったとされているが,それでも『タイタニック』 (97) の1/10に過ぎない。

   
 
 
 
 
写真1 尾道市向島町に6億円かけて実寸大の戦艦大和を実現。鉄鋼使用料は600トンに及んだ
(C)「男たちの大和 / YAMATO」製作委員会
 
     
 

 甲板上のシーンはこの実寸大の大和を使う一方で,艦内のシーンは,東映京都撮影所内に組まれたセットで撮影が行われた(写真 2)。日頃はテレビ時代劇の撮影が中心のこの伝統ある撮影所が,大作映画で活気づいていたことは素直に喜ばしい。全国ロケの規模や海上自衛隊への協力要請(写真 3)を考えても,製作者達のこの映画への思い入れの強さが感じられる。筆者は,そのスタジオ内のセットや編集工程を目にする機会を得ていたので,完成が待ち遠しかった。

 
     
 
写真2 こちらは伝統ある東映京都撮影所内のセットで
(C)「男たちの大和 / YAMATO」製作委員会
 
写真3 海上自衛隊も協力して掃海母艦・護衛艦を派遣
 
 
 
 

 

 
 

 この映画を機に,大型書店では戦艦大和や関連図書のコーナーが設けられ,原作本以外にも多数の書籍,イラスト集等が平積みされて並んでいる。筆者は戦後生まれの団塊の世代であるが,書籍コーナーには若者も少なからず見受けられた。きっかけは何であれ,若い世代にも人気を博し,太平洋戦争や終戦までの歴史が学ばれるなら,これもまた喜ばしいことだ。
 監督・脚本は,『人間の証明』 (77) 『敦煌』 (88) などのベテラン佐藤純彌。主演の2枚看板は反町隆史と中村獅童で,女優陣には鈴木京香,寺島しのぶ,ベテラン勢では仲代達矢,渡哲也,奥田瑛二らの名前が並ぶ。生き残り兵で漁船の船長となった神尾克己(仲代達矢)の存在が大きく,彼の回想シーンとして物語は展開する。若き日の年少兵・神尾(松山ケンイチ)の出番が多く,同級生の妙子(蒼井優)とのロマンスも花を添える。
 沈没した戦艦大和の海底での姿から始まり,生存者の回想,大破・沈没のクライマックス,海上で救出を待つ生存者の姿など『タイタニック』と酷似している。戦闘の過酷さや現代からそれを振り返る様は『プライベート・ライアン』 (98) にも似ている。その半面,骨太の原作とは異なり,人間ドラマはやや淡泊で「男たちの」という感覚が希薄だ。主演のはずの反町隆史の存在感も大きくない。では,『タイタニック』流にラブストーリーをもっと前面に出せば良かったかといえば,この程度に抑えた男女関係で十分だ。安易な恋愛劇で薄めてしまうと,『パール・ハーバー』(01年7月号)の二の舞いになってしまっただろう。この映画の主役は戦艦大和なのだから,人間ドラマは少し犠牲にしてでも,ストレートに戦艦大和の最期を描いた方針は正解だと思う。
 随所に戦時中のフィルムが挿入され,ドキュメンタリー番組を見ているかのようだ。戦況や大和の行動を伝えるナレーションの口調が,とてつもなく古風でかつ安っぽい。いや,これは意図的だろう。この大時代的な語りはかつてのニュース映画を彷彿とさせ,タイムスリップしたかのような気分にさせてくれる。
 さて,本欄の主題であるデジタル技術による視覚効果はと言えば,予想を遥かに上回る質と量で嬉しくなった。実寸大の戦艦大和の他には,1/35倍の大和,1/17.5倍の艦橋,1/10倍の戦闘機の精巧なミニチュアが作られ,デジタル合成に用いられている(写真 4)。最初に艦首の菊花紋章から登場する大和と呉港に浮かぶ船は少し作り物の感があるが,その後のシーンの出来映えは見事だった。米軍の戦闘機,空爆,魚雷のシーンなど,いずれもこれまでの日本映画のVFXの水準を大きく上回る出来映え。空爆への迎撃,大和甲板上に多数の兵が整列するシーンも素晴らしい。
 CG/VFXの担当は,東映アニメーション,ポリゴン・ピクチュアズ,マリンポスト等だ。『デビルマン』(04年10月号)『ローレライ』(05年3月号)は映画としては駄作だったが,そこで腕を磨いたVFX担当チームの成果がこの映画で発揮されているようだ。ようやく日本の技術も『タイタニック』『パール・ハーバー』のレベルに追いついたと言えるだろう。勿論『キング・コング』は遙か先を行っているが,和製VFXとしては記念碑的な作品となった。
 戦争シーンが長過ぎるとの評もあるようだが,米軍の空爆を受けての大和艦上での戦いは迫力があった(写真 5)。洋画の迫力に慣れた観客に対してこの部分がチープでは,この映画は存在価値がない。実寸大の効果は十分にあり,ハリウッド級の映像に仕上がっている。気になるのは,大猿相手の興行成績だ。膨れ上がった総製作費を回収できるといいのだが……。

 
 
   
 
写真4 艦橋や青空はデジタル合成の産物
(C)「男たちの大和 / YAMATO」製作委員会
 
写真5 艦上の戦闘シーンの迫力もハリウッド級
 
 
 
 
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