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O plus E誌 2005年3月号掲載
 
 
『ローレライ』
(東宝配給)
      (C)2004 フジテレビジョン・東宝・関西テレビ放送・キングレコード  
 
  オフィシャルサイト[日本語]   2005年1月20日 東宝試写室(大阪)  
  [3月5日より日劇2ほか全国東宝系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  この意欲作のヒットで,日本映画が飛躍できるか  
 

 意欲作だ。話題性もマスコミへの露出度も,ここ最近の邦画界で群を抜いている。国内では破格の製作費 12億円,「2005年春,日本映画が変わる!!」というキャッチコピーからもその意欲のほどが伺える。
 製作は『踊る大捜査線』シリーズの亀山千広,原作は『亡国のイージス』の福井晴敏の新作『終戦のローレライ』(ともに講談社刊),これを平成ガメラ・シリーズの特技監督・樋口真嗣が初監督作品としてメガホンを取る。もともと『亡国のイージス』のスケールの大きさに感動した樋口真嗣が,これは映画にしにくいでので,映画化を前提に新作を書いてくれと依頼したのが発端だという。もっとも,その『亡国のイージス』は松竹で映画化され今夏公開されるので,福井晴敏の当たり年となりそうだ。
 時代は 1945年8月,太平洋戦争終戦の直前。同盟国ドイツの降伏により,驚異的な戦闘能力をもつ潜水艦を秘密裡に入手した日本海軍は「伊号五○七潜水艦」と名付ける。連合軍の本土への原爆投下を阻止するため,伊507は南太平洋上のテニアン島へと向かう。伊507に付随した特殊潜航艇内には,1人の若きドイツ人女性パウラが潜んでいたが,彼女こそが秘密兵器「ローレライ・システム」の鍵を握っていた……。
 出演陣は,艦長の「絹見(まさみ)真一」少佐に役所広司,その補佐役の先任将校「木崎茂房」大尉に柳葉俊郎,特殊潜航艇の操舵手「折笠征人」一曹に妻夫木聡,パウラには新人女優の香椎由宇というキャスティングだ。なるほど,原作は大作で読みごたえはあるが,このチャラチャラした人名だけは何とかならないものか。他にも「浅倉良橘」「高須成美」「時岡纏」「西宮貞元」という登場人物名を聞くと,これが平均的日本人かと疑う。リアリティを欠いていて残念だ。そもそも,この原作者は構想力はあるが,文章は下手だ。読みにくい。
 これまで『 U・ボート』(81)『レッド・オクトーバーを追え!』(89)『クリムゾン・タイド』(95)『U-571』(00)等,潜水艦映画に外れなしと言われているが,この映画もそれを十分に意識している。エンターテインメント大作として,その水準は保っていると評価できる。
 さて,大作とはいえ,まともに実物大の潜水艦を購入または建造する財力は日本映画界にはないから,当然 CG/VFXの出番となる。その評価のほどは,以下に列挙しよう。
 ■ 既に読者は気付いておられるように,本 VFX映画時評では,これまでCG/VFXを多用した日本映画を贔屓目に見て,かなり甘い評点をつけて応援してきた。低予算でも頑張って欲しい,もっとVFXが多用され,質的向上がなされるようにとのエールを送っていた訳である。『陰陽師』『リターナー』『デビルマン』などはその最たるものだ。それでも,さすがに『スパイゾルゲ』はそう褒められなかったし,『梟の城』『ドラゴン・ヘッド』『忍者ハットリ君』は取り上げることすら避けた。まもなく公開の『鉄人28号』もしかりである。
 ■ その評価基準で行けば,本作品は勿論☆☆☆である。それを☆☆で留めたのは,こちらも敬意を表して,映画そのものの魅力をまともに評価したからである。樋口監督の「ハリウッド一人勝ちを何とかしたかった。対等に勝負できる映画を作りたかった」という言やよし。それならスクラッチで評価しよう。ならば,ハリウッド作品に近づいたとはいえ,超えることはなく,エンターテインメントとして中の中レベルの作品だ。サッカーの W杯に喩えて言えば,ようやくアジア地区予選を突破して本選出場を決めたレベルだろう。
 ■ CG/VFXに関しては,マリンポスト,オムニバス・ジャパン以下,10数社が参加している。始めて目にするスタジオ名もいくつかあった。それぞれ数名〜10余名の参加というのは,欧米と比べて数分の一の規模だが,それが日本の製作コストの限界ということだろう。当然,出来不出来の差は顕著だ。 
 ■ 写真1の合成は,かなり質のいい VFXである。人物,模型の潜水艦,背景の海が見事にマッチしている。国会議事堂前の合成シーンや午前4時の東京の光景なども見どころと言えよう。日本のVFXのレベルも上がったなと嬉しくなる。それに対して,写真2などは上出来の部類だが,洋上で戦艦が登場するシーンの多くは,いかにもミニチュアが水槽に浮いている感じで,やっぱり東宝の特撮映画だという印象が強い。浮上した潜水艦の艦上での人物合成もちょっと甘い。一方,空中戦のシーンは悪くなかった。海中での潜水艦の挙動や魚雷発射シーンも卒なくこなしている(写真3)。戦闘シーンのカメラアングルなどは秀逸なのに,安っぽい合成シーンが全体の印象を少し悪くしている。
 ■ 伊 507艦内の造形はなかなかのものだった。東宝撮影所内で最大のステージを使って実物大の艦内セットを組み上げただけあって,リアリティは高い(写真4)。CGは未熟でも,まだまだ大道具・美術班の中には強者が残っているのだと感じたシーンの連続だった。

   
写真1 この合成などは見事で,アッパレの部類
 
写真2 洋上シーンには出来不出来が目立つ
 
 
(c)2004 フジテレビジョン・東宝・関西テレビ放送・キングレコード
 
   
写真3 海中の潜水艦の描写は卒なく,上の部類
 
写真4 伊507艦内撮影のための巨大なセット
 
 
(c)2004 フジテレビジョン・東宝・関西テレビ放送・キングレコード
 
     
 

 ■ 物語の鍵となる「ローレライ・システム」は詳しく書くわけには行かないが,その表現方法には問題ありだ。超能力は許したとしても, 3D-CG風の表示法はまだこの時代には生まれていない。電子顕微鏡もない。フィクションとはいえ,この時代考証の甘さは気になる。
 ■ この映画の総製作費は約 12億円。ハリウッドでこの企画なら,150億円は下らないだろう。この数字をどう解釈するのかが問題だ。「10億円以上かければ負けないものが作れる」だろうか,「低予算ながらよく検討した」だろうか,それとも「ここまでかけても,所詮敵わない」だろうか。この映画の評判と興行成績が,この後の日本映画界の行方に影響を及ぼしそうだ。例えて言うなら,かつてのオリンピック銅メダルから幾星霜,ようやくまだJリーグを立ち上げたばかりで,せいぜい応援して今後の発展を祈るべき時期である。日本の映画ファンがどう受け止めるか,結果に注目したい。   

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