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O plus E誌 2004年3月号掲載
 
 
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『ペイチェック 消された記憶』
(ドリームワークス映画&パラマウント映画/UIP配給)
 
 
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  

2004年2月4日 UIP試写室(大阪)

 
  [3月13日より全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
     
  設定は面白い。テンポも良い。でも,結末が…  
   歴史ものであれ未来を描くSFであれ,その映画が作られた時代が何となく分かるものだ。主役級俳優の年齢は言うまでもなく,衣装,メイク,小道具,カメラワーク,フィルムの質等でも,製作年代が大体分かってしまう。小道具の中でも時代性が顕著なのは,コンピュータやそのユーザ・インタフェースだろう。徹底した未来予測に基づき,イマジネーションを駆使して描いた大作であっても,時代の流行や使える機材の限界に縛られてしまうからだ。ましてや,低予算映画ならありものの市販品しか使えないから,ますます時代が分かってしまう。
 古くは『2001年宇宙の旅』(68),最近では『マイノリティ・リポート』(2002年11月号)は,徹底分析組の代表作である。ところが,いま『2001 年…』を観るとそのあまりの古くささに驚いてしまう。まだマルチウィンドウという概念がない時代だから,操作卓の前にはCRTモニタが沢山並んでいるし,HALなどはとてつもない大型コンピュータに描かれている。一方の『マイノリティ…』はというと,アーチ型透明スクリーンにフィンガー・アクションによるインタフェースというのはいかにも新しい。透明感のある記録メディアや周辺機器もいかにも最近の流行だ。この映画を10〜20年後に観た時どう感じるのかが楽しみだ。
 さて,本題のこの映画『ペイチェック』だが,明らかに『マイノリティ…』の影響を受けている。冒頭に登場する3次元ペン入力型のUIや,スクリーンなしで直接3次元空間に浮かぶオブジェクトを操作するシーンなどは,対抗心丸出しだ。眼鏡なし立体ディスプレイの発表シーンなども,「どうだ。こっちはこんなことも思いついたんだぞ」と言わんがばかりだ。それもそのはず,本作品の原作者は『マイノリティ…』と同じフィリップ・K・ディックで,短編の「報酬」をベースに脚色している。その他,彼の作品が『ブレードランナー』(82)『トータル・リコール』(90)『クローン』(2001年11月号)が映画化されていることは,過去に何度も述べた。『マイノリティ…』と直接比較されることを嫌ってか,メインポスターに使われているヘッドギアの写真(写真)は,むしろ『トータル・リコール』を思い出させる。
 製作テレンス・チャン,監督ジョン・ウーの組み合わせは『フェイス/オフ』(97)『M:I-2』(2000年7月号)と同じだから,それだけでかなりのアクション・シーンが期待できる。主演の先端電子技術者マイケル・ジェニングスに『パール・ハーバー』(2001年7月号)『デアデビル』(2003年4月号)のベン・アフレック,恋人役の生命科学者レイチェル・ポーターに『キル・ビルVol. 1』(03)のユマ・サーマン,敵役のマイケルの上司ジミー・レスリックには『エリン・ブロコビッチ』(00)『ザ・コア』(2003年6月号)のアーロン・エッカートというキャスティングだ。
 表題の「ペイチェック」とは「報酬小切手」のこと。マイケルはハイテク企業と契約し,画期的な新製品開発の極秘プロジェクトに従事するが,完成と同時に多額の報酬と引き換えに開発期間中の記憶をすべて消されてしまう。最近,企業と従業員の知的財産権を巡る係争が話題だが,ちょっと驚くSFならではの設定だ。
 3年間の開発を終えて,9,200万ドル(約100億円)の報酬を受け取ることになっていたマイケルは,記憶を消される前に,自分がその小切手の受領を辞退し,自分から自分に宛てた封筒を受け取るという誓約書を書いていた。封筒の中身は,19個のがらくたアイテムばかり。なぜこんなことになったのか?彼が開発したのは未来を予知するマシンだったことから,恋人のレイチェルと共に真相を突き止めようとする彼らに,元上司の魔の手が迫る……。というのがあらすじだ。何やら,ハリソン・フォードの当たり役っぽい役柄だ。『トータル・フィアーズ』(2002年8月号)でも,H・フォードの後を継いでCIA職員ジャック・ライアン役を演じたから,ベン・アフレックには今後もそういう役が回って来るのだろうか。
 VFXは,CISハリウッド社の他5, 6社の担当で,上述の3Dディスプレイやコンピュータ操作に他に,マイケルの記憶や未来予知シーンにいかにもディジタル処理の産物らしき映像が何度も出てくる。バイクでのチェイス・シーンもかなりの部分は合成だろう。悪くはないが,本映画時評としては,特筆すべきレベルではない。
 アクション・シーンはといえば,さすがジョン・ウーと思わせるシーンがいくつもあった。ただし,一介の技術者カップルが何で秘密諜報員なみのアクションをこなせるのか,ちょっと設定の甘さが気になる。19のアイテムを使った謎解きも楽しく,テンポも悪くなかったが,結末があまりにも予定調和し過ぎて白けてしまった。
 設定の不自然さなど気にせず,単なる娯楽作品と見る向きには,かなり面白い映画だろう。もっとも,それならベン・アフレックを差し置いて,ユマ・サーマン1人で大立ち回りを見せてくれた方が,もっと面白かったのにと思う。何しろ,あの「キル・ビル』のザ・ブライドなのだ。彼女を見ると,どうしても西洋版緋牡丹お竜のような活躍を期待してしまう。
 

写真 ヘッドギアは『トータル・リコール』を思い出させてくれる

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