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O plus E誌 2004年3月号掲載
 
 
『マスター・アンド・コマンダー』
(ミラマックス・フィルムズ&ユニバーサル映画&20世紀フォックス映画/ブエナビスタ配給))
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2003年12月15日 大阪厚生年金芸術ホール(完成披露試写会)  
  [2月28日より全国松竹・東急系他にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  海の男たちを描いたワクワクする大傑作  
   いつもと逆順で,VFXの話題から入ろう。今年のアカデミー賞視覚効果部門のノミネート3作品は,3連覇を目指す大本命『王の帰還』に対して,『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003年9月号)と本作品が選に入った。いずれもILMが主担当で,同じくたっぷり海戦シーンがある冒険映画だ。
 何とこの映画のSFXには,アカデミー賞でのライバルWETA社も参加している。『ロード…』シリーズの完結で手が空き,模型製作の腕を買われての出番のようだ(写真1)。『パイレーツ…』のVFXのウリがミイラ状のゾンビ1体毎の動きだったのに対して,この映画のウリは迫力ある嵐の海の描写だ(写真2)。前者が『ハムナプトラ』シリーズで培った技術の土台にしているのに対して,こちらは『パーフェクトストーム』(2000年8月号)で開発した技術が活かされているという訳だ。
 こうした予備知識のもとにVFX大作を期待したのだが,配給会社は早くから「本年度アカデミー賞最有力候補」をセールス・トークにしてきた。なるほど,監督は『いまを生きる』(89)『トゥルーマン・ショー』(98)のピーター・ウィアー,主演は『グラディエーター』(2000年7月号)『ビューティフル・マインド』(01)のラッセル・クロウ,北米拡大公開は11月14日とくれば,いかにもオスカー狙いの布陣だ。では,説教めいた感動の人間ドラマかといえば,これが見事に外れた。それもいい方にである。わくわくするようなストーリー展開で,「いい映画」であると同時に「楽しい映画」でもある。
 原作は,人気作家パトリック・オブライアンの海洋冒険小説「英国海軍の雄 ジャック・オーブリー」シリーズ(ハヤカワ文庫)だ。ウィアー監督が今回の映画化に選んだのは第10作目の『The Far Side of The World』(邦訳『南太平洋,波乱の迫撃戦』)だが,他の作品の一部もちりばめられているようだ。
 時代は1805年。欧州全土をナポレオン戦争の嵐が吹き荒れていた時代である。英国海軍フリーゲート艦「サプライズ号」の名艦長ジャック・オーブリー(R・クロウ)を中心に,親友で船医のスティーヴン・マチュリン(ポール・ベタニー),弱冠12歳の士官候補生ウィル・ブレイクニー(マックス・パークス)らが織りなす海の男のドラマが展開する。女性の顔は,寄港地の原住民の中に少し見られるだけで,ここまで男性ばかりの映画も珍しい。フランス軍の武装船アケロン号を拿捕するという危険な任務を遂行する総勢130名の乗組員は,7,000人の候補者から「18世紀の顔立ち」をもつ俳優を選んだというから,船体や衣装等から言葉使いまで,徹底的した時代考証が行われていることは言うまでもない。
 視覚効果の主担当はILMで,100数十名が関与していた。他には,最近活躍が目覚ましい準大手のAsylum社や,Efilm, Digital BackRot, Cafe FX等名前も上がっていた。VFXシーンの総数は750というが,そんなにあるようには見えなかった。ほとんどの航海シーンはディジタル合成なのだろうが,そう感じさせない所が見事だ。
 冒頭で述べた嵐のシーンが圧巻だが,実物大の帆船と模型の使い分けも上手い。普通の観客なら,全く区別がつかないだろう。ブレイクニー少年が失った右腕もディジタル処理で消しているに違いない(残念ながら,スチル写真が入手できなかった)。ガラパゴス諸島での本格ロケも素晴らしく大きな見どころだが,この島に住む希少生物たちは,すべて実写なのだろうか,一部はCGで書き加えたのだろうか? 評者には区別がつかなかった。
 映像もいいが,音楽もいい。音響賞,音響効果賞でアカデミー賞にノミネートされているだけのことはある。物語も人物描写も素晴らしい。船の修復シーンは情報量大であるし,船医のマチュリンが鏡を見ながら自らを手術するシーンには息を飲む。最初からワクワク,途中もワクワク,クライマックスは圧巻で,結末はただただ面白い。
     
 
写真1 WETA Workshop製縮小模型とCGの海  
 
     
 
(a) CG製の嵐は『パーフェクト ストーム』で経験済
 
(b) 36m四方のセット内撮影ではスタッフも水浸し
 
 
写真2 VFXの最大の見せ場は嵐のシーン
(c)2003 Twentieth Century Fox Film Corporation and Universal Studios and Miramax Corp. All rights reserved.
 
     
  第76回アカデミー賞の予想  
   本号の発行直後に発表される今年のアカデミー賞の予想をしておこう。ノミネートは,『王の帰還』11部門,『マスター・アンド・コマンダー』10部門,『シービスケット』7部門と,先月と今月で紹介した3作品が圧倒的に強い。技術部門などは,もっと小作品から選んでも良さそうなものだが,どうしても有力候補の人気に引きずられてしまう傾向がある。
 同じILM担当作品の『ターミネーター3』『ハルク』を押しのけて,『マスター…』と『パイレーツ…』が視覚効果賞にノミネートされたのも,そのせいだろう。映画としては駄作であったが,『マトリックス リローデッド』『同 レボリューションズ』が視覚効果賞の予備選にも残れなかったのは理解に苦しむ。フェアじゃない。
 ずばり,作品賞,監督賞,視覚効果賞は『王の帰還』だろう。今年この映画に票を入れないようではアカデミー会員の資格を疑う。他の2作品もいい映画だが,今回は相手が悪かった。本映画時評の読者なら,3本全部を観て欲しいところだ。
 
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