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O plus E誌 2003年10月号掲載
 
 
『ジェームス・キャメロンのタイタニックの秘密』
(ギャガ・コミュニケーションズ配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2003年9月3日 メルシャン品川IMAXシアター  
  [7月19日より全国IMAXシアターで順次公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  果報者キャメロンの映像道楽  
   「巨匠ジェームズ・キャメロン監督が再び挑むタイタニックの世界!! 」というのがこの映画のキャッチコピーだ。1997年に『タイタニック』で映画界の頂点に立って以来,全くメガホンを取ることのなかったJ・キャメロンの最新作である。といっても,タイトルから分かる通り普通の劇映画ではなく,深海に眠るタイタニック号を再訪して撮影したドキュメンタリー映画だ。それも,IMAXの大スクリーンに立体視用眼鏡をかけて観る大型3D映像で,そのために必要な深海撮影可能なラージ・フォーマット3Dカメラは自ら投資して作らせたという。相変わらずの凝り性だ。
 TVシリーズ『ダーク・エンジェル』や7月号で紹介した『ソラリス』の製作には関わったものの,一向に監督稼業を再開しない。キャメロンは一体何をしているのかと思ったら,3,650mの海底を再訪,再々訪して,タイタニック号の内部をくまなく探検し戯れていたわけだ。その点,ひたすら映画を撮り続けるS・スピルバーグとは随分違う。「巨匠」というより,この人はひたすら自分の興味の赴くままに,映画人,いや映像製作者としての生活を堪能しているかのようだ。何事も自分で切り拓き,気の済むまで徹底してやりまくる。それで通せるのだから,果報者で羨ましい限りの人生だ。
 この映画の意義を語るのには,本人の弁を借りるのが一番だ。「私は,映画『タイタニック』では描ききれなかったあまり知られていないタイタニック号の物語や人間のドラマを再び語るためには,沈没したタイタニック号の部屋の中に入り込んで撮影するこの方法が一番すばらしいものだと思っていた」「95年にタイタニック号を撮影した際,もっと時間をかけてされに技術が進化すれば,この現実味を最大限に引き出した映像が撮れるのではないかと考えていた。それが今回実現できたんだ」という撮影を可能にしたのは,ソニーも開発に参加したHD方式の「3Dリアリティー・カメラ・システム」とそのための照明装置「メデューサ・ライティング・システム」である。それにしても,7週間で12回もタイタニック号まで潜って,900時間にも及ぶ3D映像を撮影したというのは尋常の情熱ではない。
「全員があの夜どんなふうにして運命と出会い,或いはどのようにして家族の中でもライフボートに乗れる者,乗れない者がでたのか,そういう物語を語ろうと思っていたわけだからね。これは永久に心を引き付けられる人間ドラマなのだ」と言うように,朽ち果てたタイタニック号の操舵室と舵,大食堂に残された装飾,3等船室の乗客を閉じこめた鉄格子等々の映像に,そこで起こったと思われる人間ドラマの映像が亡霊のように重ね合わされる。この映画の原題は『Ghosts of the Abyss (深淵の亡霊たち)』。タイタニック号で起こった運命を幻影として映像化するとともに,キャメロン監督思い出の映画『アビス』(89)にもかけてあるわけだ。『ターミネーター2』(91)より前に,水中撮影とCGの画期的な使い方で話題になった映画である。
 想定観客は,キャメロン監督の最新作を待ちわびたファンと映画『タイタニック』の余韻に浸りたい人たちだろうか。筆者もその1人だ。実際,音楽の大半は『タイタニック』を思い出させるムードのものばかりだ。深海探検に帯同しレポータ役を務めるのは,俳優のビル・パクストンだ。30年来の友人だというが,『タイタニック』で深海に眠る財宝の引上げ屋を演じていたから,ここも観客の目を意識した意図的な起用といえる。
 ロシア製のミール潜水艇が2艇深海に向かうのは『タイタニック』と同じだが,この映画の注目は「ボット」と呼ばれる新開発のROV(Remote Operated Vehicle)だ。タイタニック内部の撮影とナビゲーションを行う遠隔操縦の小型潜水ロボットである(写真1)。「ジェイク」と「エドワード」と名付けられたROVの内1台が,ワイヤがからまったためか走行不能に陥る。その救出作戦は『アポロ13』ばりの演出で,この映画のクライマックスとなっている。ドキュメンタリーのはずなのにこのドラマは出来過ぎで,一瞬「ホントかよー」と思わせる。撮影中のトラブルまで最大限に活かしてしまうのだから,さすがプロの映画人たちだ。
 視覚効果は,VF-X社などそう大手でない5社が担当している。見どころは,深海のタイタニック号にゴーストのように重ねられる人物の実写の演技である。透過度を与えただけで,何でもない合成のように思えるかも知れないが,3D映像同士の合成なのだから,そのパースの合わせ方は易しくはない。全く違和感を感じないから,これは良い仕上がりだ。往時を再現するタイタニック号の一部や装飾などは,CG映像で描いて合成されているが,高度な最新CG技術はこの映画には必要ない。タイタニック号の探検に精巧な模型を使って計画を練る光景(写真2)があるが,あるシーンではこの模型も一役買っているに違いない。
 全編が3D化されているので,過去の写真や映像と思しきものも立体映像として登場する。2D画像を人為的に3D化するにはさまざまな技法が存在するが,この映画はその活躍の場を与えている。案外,新たに撮影した3D映像を脱色し,あたかも残存している往時の映像のような雰囲気を醸し出しているだけかも知れない。
 全編45分はIMAX映画の標準的な長さだが,随分短く感じる。氷山の衝突シーンも,脱出シーンも,沈没シーンも,救出シーンも,もっともっと見ていたい。IMAX映像のドキュメンタリーとしては佳作であるが,映画『タイタニック』の長尺と比べてしまうだけに,少し物足りなく感じる。IMAX版の『タイタニック』を見たくなること必定だ。
 キャメロン監督が目指した人間ドラマの再現とミステリーの解明の達成されたのだろうか? いや,もっともらしい理屈を並べているが,この人は自分がもう一度沈没現場に行き,それをキャメラに収めたかっただけだ。ビル・パクストンを付き合わせたように,観客の我々にも良かったらご一緒にと誘っているに過ぎない。IMAX映画としては秀逸だが,それ以上ではない。
     
 
写真1 右が潜水艇,中央がROV(ボット)
 
写真2 精巧なミニチュアも活用された
 
     
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