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(注:本映画時評の評点は,上から,,,の順で,その中間にをつけています。) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
カンフー2本の次は,女性主演のホラー/スリラー系の話題作2本を取り上げよう。『ムーラン・ルージュ』(01)でファンが急増したニコール・キッドマンの美しさが恐怖で一段と映える正統派ホラーの『アザーズ』と,オスカー女優のジョディ・フォスター主演のサスペンス・スリラー『パニック・ルーム』である。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
キッドマンの美しさが恐怖に映える意欲作 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
キッドマンの前夫トム・クルーズ製作,スペインの新進気鋭のアレハンドロ・アメナーバル監督・脚本・音楽という『アザーズ』には曰く因縁がある。アメナーバルの『オープン・ユア・アイズ』(97)を見たトム・クルーズがそのストーリーと才能にいたく惚れ込み,争奪戦の末に英語版リメイク権を獲得し,同監督での主演作を計画した。ところが,アメナーバルから時期が近すぎると断られ,代わりの企画として提示されたのがこの脚本である。同系統の役柄を嫌ってか,キッドマンには主演予定の『パニック・ルーム』をキャンセルさせた。 一方,トムが折角権利を得た英語版リメイクは,『ザ・エージェント』で組んだキャメロン・クロウを監督とし,相手役ペネロペ・クルスはそのままで『バニラ・スカイ』(1月号で紹介済)としてクランクインした。夫婦別作品に出演の間に,トムはペネロペと熱愛状態になり,『アザーズ』のクランクアップの日に別居,完成記者会見の日に離婚という副産物も生み出してしまった。何やらそれだけでも,女性の怨念がこもってそうな感じだ。 時代は1945年,英国チャネル諸島のジャージー島が舞台で,戦地から帰らない夫を待つ美しい母グレース(ニコール・キッドマン)は,光アレルギーの子供2人と部屋が50もある広大な屋敷に住んでいた。使用人募集の新聞広告を見てきたという3人は,かつてこの屋敷で奉公していたというメイドの母娘と庭師だった。彼らが住み着いたころから,屋敷内には目に見えない誰か(アザーズ)の足音や話し声が聞こえ,音楽室のピアノが独りで鳴り出すという不思議な現象が頻発するようになる。というのが,このホラーの骨子だ。
なるほど,予想通りこの映画は相当に怖い。ゴシック・ホラーと銘打つだけあって,広大な屋敷の調度も音楽も重厚で,何も出てこなくても十分に怖い。といっても,オカルト系の不気味さではなく,ロバート・ゼメキスの『ホワット・ライズ・ビニース』(01)と同様に,ヒチコックを意識した作りだ。金髪,端正なスーツ姿のキッドマンは,ヒチコック好みの美人で,グレース・ケリーやイングリッド・バーグマンを彷彿とさせる(写真1)。 ネタバレになるので詳しく書けないが,結末に用意された「謎」の種明かしで,怖さは驚きに変わる。M・ナイト・シャマランの『シックス・センス』(99)のような安らぎはないが,比べたくなるファンは多いだろう。もう一度見たくなるストーリーテリングとプロットの上手さで,このアメナーバルとシャマランは現代の双璧だと言える。2人とも自作に少し登場するのは,勿論ヒチコックを意識してのお遊びだ。そういう世界の若い才能を引き出し,活躍の場を与えるのもハリウッドの底力である。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
怖さは期待外れだが,カメラワークは秀逸 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
一方,キッドマンに逃げられた『パニック・ルーム』は,『セブン』(95)『ファイト・クラブ』(99)の鬼才デビッド・フィンチャーが,世界のファンの期待を裏切って『羊たちの沈黙』(91)の続編『ハンニバル』(01)への出演を断ったオスカー女優ジョディ・フォスターを口説き落としたというので,話題性では負けていない。
こちらの舞台は現代のニューヨークで,離婚したばかりの母娘の2人が大富豪が遺したマンハッタンの4階建てのタウンハウスに移り住む。「パニック・ルーム」とは,恐怖でパニックになる部屋ではなく,武装した賊の侵入時に逃げ込む防犯用のシェルターで,別名「セーフ・ルーム」だという。エレベーターからこのパニック・ルームまで備わった邸内に,富豪の隠し財産を狙った3人の族が押し入る。追いつめられた母子は,間一髪でコンクリートで固められ鋼鉄の扉で守られたパニック・ルームへと逃げ込む(写真2)。 守るべき病気持ちの子供が1人というのが違うだけで,主人公の女性の存在感も,3人の訪問者も話の展開が邸内に限定されるのも『アザーズ』そっくりだ。横たわったジョディ・フォスターの顔と侵入者を描いたポスターも『ホワット〜』を思い出させるが,この映画は予想に反してまるで怖くない。ホラーではなく,強いて言えばサスペンス・スリラーだ。侵入者への対抗策として灯りを次々と壊して行く場面はオードリー・ヘップバーン主演の『暗くなるまで待って』(67)を思い出させ,ヒチコックの『裏窓』(54)へのオマージュと思しきシーンも見られる。ところが,そこまでの緊迫感はなく,音響効果もイマイチ,脚本はもたつき気味で残念だ。
パニック・ルームには邸内の様子がわかるモニターTVが備わっているが,電話回線が接続されていないという設定は面白いのだが,あまり極限状態と感じられないのが欠点だ。そもそも強盗が間抜けで,追いつめられているはずのジョディ・フォスターの方が強すぎる。薄着で胸を強調して精一杯女性らしさを見せようとしているが,か弱い女性には見えない。これではクラリス・スターリングFBI捜査官の自宅に押し入ったようなもので,強盗の方に同情してしまう(写真3)。 もっと面白くできたはずという不満は残るが,ビジュアリストのデビッド・フィンチャーらしく,映像面での収穫は大だった。明らかにCG映像と分かるのは,斬新なタッチのオープニング・タイトルと賊の1人が炎に包まれるシーンだが,売りはむしろ限られた邸内を縦横に走るカメラワークだ。部屋の壁を突き抜けてカメラが左右に移動するテクニックは『ホワット〜』と同じだが,この映画では上下方向,即ち1Fから4Fへの床を突き抜けるカメラ移動も見せてくれる。そこにCGで壁や床を書き加え,逆にカメラに写ってしまった都合の悪い大道具を後で消してしまっているのは言うまでもない。 そのカメラワークを引き出すのに,全編の半分以上70分ものPre-visualizationのアニメーションが作られた。『ロード・オブ・ザ・リング』『ブラックホーク・ダウン』でも本格的に採用されたように,CG合成を多用する映画では今やPreVizは不可欠のテクニックだ。ところが,この映画でのPreVizの目的はカメラワークの決定で,まずディジタル環境でカメラ移動と光源の位置を決めてから,邸内セットの製作にかかったという。そのせいか,実写でありながらCGのウォークスルー風に,カメラを鳥瞰視点から空間移動するシーンも多く見られた。その点では,なかなかの意欲作だ。 では『アザーズ』のVFXはというと,これは論じる対象ではない。もともと本欄の対象外作品だったのだが,『パニック・ルーム』が余りに怖くないので,ついつい比較のため追加で観に行ったというのが真相だ。それでもエンドロールにはいくつものイフェクト・スタジオの名前があったから,まったく目立たないシーンで視覚効果を加えるのが,今や当たり前と言える。 怖さとプロットを楽しみたいなら『アザーズ』,カメラワークとジョディ・フォスターの強さを観たいなら『パニック・ルーム』というのが今月の結論だ。 |
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