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O plus E誌 2002年4月号掲載
 
 
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『聖石傳説』
(霹靂多媒体社製作/バンダイ・ビジュアル配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語   (2002年2月27日 テアトル銀座(ジャパンプレミアム))  
  [3月16日より東京・新宿シネマスクエアとうきゅうにて公開中。4月以降全国主要都市で順次公開予定]      
         
     
  台湾伝統芸と最新SFXの融合  
   これは面白い映画を見せてもらった。ストーリーや演出以前に,そのユニークな映像作りは特筆に値する。『トイ・ストーリー』流のフルCGでも『チキンラン』で堪能したコマ撮りアニメでもなく,人形使いが操作する伝統的な人形劇にワイヤー・アクションやモーション・コントロールのSFX,CGを書き加えたVFXを総動員して作り上げた他にない新感覚の映像だ。本映画時評としては,これを取り上げないわけには行かない。
 人形劇の映像化と言えば,日本人はイギリス製テレビ番組『サンダーバード』,NHKの『新・八犬伝』を思い出す。台湾では,伝統芸能であった人形芝居=布袋戯(プータイシ)をテレビ番組化した『雲州大儒侠』が1969年に放映され,あまりの爆発的ヒットが社会問題となり,放送中止になったという。1980年に再開されて人気が盛り返し,90年代に入ってSFXを駆使した「霹靂布袋戯」シリーズが多数製作される。この作品は,その系譜を引くオリジナル脚本の映画で,予算的にも技術的にも大きくスケールアップされている。
 監督・脚本は,布袋戯芝居の伝統芸を受け継ぐ一家に生まれた黄強華。製作とすべて声の出演は彼の実弟の黄文擇。音楽と主題歌は人気ライブ・ミュージシャンの伍佰(ウーバイ)が担当している。あらゆる声は声色を1人で使い分ける布袋戯の伝統がこの映画でも守られているが,日本語吹替え版ではそれぞれの役で別の声優を割り当てている。
 今から400年以上前の中国武術界・武林が舞台で,すべての願いが叶うと言われる「天問石」をめぐって,異星人の非善類と剣に生きる武人たちとの争いの物語である。TVシリーズ『聖石傳説〜英雄伝〜』の主人公で武勇の誉れ高い素環真,その義弟・青陽子,昔馴染みの剣の達人・傲笑紅塵,彼と恋に落ちる若い娘・如冰(ルービン),彼女の父で「天問石」を手に入れんと策をめぐらす剣上卿らが登場するが,いずれもTVシリーズで重要な役を占めてきたオールスターの勢揃いとのことだ。
 前半は,普通の観客ならこの映画のリズムにはついて行けないだろう。TVシリーズ のファンを想定しているためか,時代背景や登場人物の紹介が不親切だ。まだこの人形たちの動きに馴染めないうちに,目まぐるしい展開と激しいアクションへと入ってしまう.それでも,中盤ではようやく物語のペースも落ち着き,登場人物も識別できるようになる。後半は分かりやすいので,十分感情移入できる。
 人形は,テレビ・シリーズでは高さ約1mだったのが,映画用には約60cmの小振りなものが使われた。1キャラクターに1体ではなく,一般撮影用の「文身」,アクション用の「武身」,スタント用の「替身」が用意されている。衣装や刀剣などもすべて伝統芸にもとづく手造りなのは言うまでもない(写真1)。
 
     
 
写真1 布袋戯 人形.衣装も刀剣も手造りの伝統芸で製作された.
 
     
  セリフ中心のアップのシーンは伝統的な人形劇の雰囲気が良く出ている。そこに香港映画風のワイヤー・アクションや特殊効果が取り入れられ,人形劇とは思えない躍動感を生み出している。
 映像は総じて明るくキレイだ。特に竹林のシーンなどは絶品だ。素環真の庵「流璃仙境」や剣上卿の住む「鳴剣山荘」のオープンセットも精巧で,実写の映像美をまざまざと見せてくれる。映画手法をかなり意識したカメラワークだが,カット割りは極めて細かい。反面,それが少し煩わしく,落ち着きがないという感じも否めない。
 CGは主に光の表現に使われ(写真2),岩肌や密室の壁面などにはディジタル合成が施されている。クライマックスの爆破シーンもかなりの迫力がある。いかにも視覚効果と分かる使い方が多く,技術的には特筆するほどではないが,表現の幅を拡げていることは間違いない。
 
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写真2 CGは主としてキラキラ輝く光の効果に利用 
 
写真3 人形操作の舞台裏
 
     
  表情の乏しさを視覚効果でカバー  
 
2000年1月の公開作品で,その年の秋の東京ファンタスティック映画祭にも出品されていたのに,ようやく日本で一般公開されたのですね。
当時台湾では,『タイタニック』並みの大ヒットとなり,国産映画の救世主となったそうです。
台湾版『千と千尋の神隠し』ですね(笑)。
天門石を巡る大ドラマというのは,台湾版「指輪物語」でもあります(笑)。
3年の年月をかけたというだけあって,随分お金がかかっているという感じがしました。
台湾映画史上最大級の12億円だそうです。伝統に捕らわれず,新しい感覚でマニアの心を引きつけているのが良く分かりますね。
2つの戦いのシーンはかなり迫力がありました。面白い映像作りだと思いますが,人形の口が動けばもっとリアルだったのにと残念です。
その伝統までは変えられませんよ。人形の表情が乏しい分,音楽や動きや視覚効果でそれを補ってきたとも言えます。
映画では人形をどう動かしているのかは分かりませんでしたが,基本的には1人で1体を下から操作しているのですね(写真3)。
もとは布でくるんだ指人形ですから,操り人形とは動きが違うし,3人がかりの日本の文楽人形のような微妙な動きは無理です。飛ぶ,打つ,跳ねるといったカンフー流の派手なアクションも出来るように改造されてきた歴史がありますが,テレビ映像として大きく様変わりし,今度は映画レベルのSFXで強化したという訳です。
人形操者が入れるよう床下に穴を開けたり,セット作りも大がかりで精巧ですね。  
この映画の撮影専用に土地を購入して,アチコチに溝を掘ったのです。陸地部分だけでなく,池の底まで溝を作ったのは,人形が水面で芝居する場面のためです。
やれやれ…。
まさに「百聞は一見にしかず」ですから,映像製作関係者なら一度は見ておく価値は十二分にあります。
 
   
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