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O plus E誌 2020年11・12月号掲載
 
 
『魔女がいっぱい
(ワーナー・ブラザース映画 )
      (C)2020 Warner Bros. Ent. Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月4日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2020年11月10日 大手広告試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  3匹のネズミの挙動が見もの,アクション演出が秀逸  
  大作の公開延期が続く中で,本作も当然越年すると思われたのに,急遽劇場公開されることになった。米国ではワーナー傘下のHBOでのネット配信に方針変更されたが,海外の大半で劇場公開が維持されることになったためである。このWB本社決裁は素直に喜ばしい。
 ロアルド・ダール作の童話を,ロバート・ゼメキス監督が実写映画化した作品である。ゼメキス監督と言えば,CG/VFX分野で革命的な作品を遺して来た巨匠である。本作と同日に出世作となった『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作(85, 89, 90)がリバイバル公開される。本作は,製作と脚本にオスカー受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター』(18年3・4月号)のギレルモ・デル・トロ監督の名前があることも注目の的だ。
 ところが,試写会前に予備知識を仕入れている内に,「Robert Zemeckis Helped Revolutionize Visual Effects − and Then Visual Effects Ruined Robert Zemeckis」なる記事をネット上で見つけてしまった。過去の輝かしい業績に比べて,本作のVFXは監督の名声を貶めるレベルだというのである。そーか,それなら当欄がじっくりそれを検証してやろうじゃないかと意気込んだ。
 さらにもう1点準備した。既に同じ童話を1990年にニコラス・ローグ監督が実写映画化している。本作は原作童話の邦題を踏襲しているが,90年版の邦題は『ジム・ヘンソンのウィッチズ/大魔女をやっつけろ!』である。全く記憶にないのは,本邦劇場未公開のためだろう。まだDVDが存在しない時代で,VHSビデオだけが販売されていたようだ。止むなく,昨年Blu-ray化された英語版を入手して,本作と見比べることにした。
 魔女たちの集会を覗いて,その企みを知ったルーク少年が,魔法でネズミにさせられてしまう。この少年ネズミが策を巡らし,秘密のスープを魔女たちに飲ませて,彼女らもネズミにしてしまう物語だ。90年版は比較的な素直な童話風の演出だった。『ターミネーター2』(91)が翌年の公開だから,当然CGの本格利用はなく,特殊メイクや模型の利用が中心となっている。
 本作で,魔女たちを統括する大魔女役にアン・ハサウェイ。堂々たる魔女ぶり,数々のファッションとヘアメイクが注目ポイントだ(写真1)。女優としてのイメチェンなのは分かるが,演技面で特筆すべきものはない。ルーク少年の祖母役はオクタヴィア・スペンサー。90年版の祖母と比べてもかなり存在感があり,3匹のネズミとの掛け合いも見事だ。舞台となるホテルの支配人には,『プラダを着た悪魔』(06年11月号)でA・ハサウェイと共演したスタンリー・トゥッチ。彼の演技は悪くないのだが,この役は90年版のローワン・アトキンソンが圧倒的だった。何しろMr. ビーンそのものの役柄でかき回すのだから,その面白さに勝てる訳はない。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 存在感たっぷりの大魔女。衣装や髪形にも注目。
 
 
  では,以下が本命のCG/VFX概説と評価である。
 ■ 結構,90年版の演出を意識している。ルーク少年が最初に接する魔女がヘビを取り出すが,90年版のオモチャに比べて,今度はCGだよというアピールだ(写真2)。舞台となるホテルに向かうシーンも前作を真似ている(写真3)。本作のホテルは一部外形だけ造って,VFXで補ったようだ(写真4)。大魔女は登場後に,顔見世的にその魔法パワーを遺憾なく発揮するが,最近のVFX技術からすれば入門編である。覗き見を発見されたルーク少年をネズミに変身させる前の扱いは予告編にも登場するが,これもそのレベルの演出に過ぎない(写真5)
 
 
 
 
 
写真2 魔女の取り出すCG製の蛇は,まだ序の口
 
 
 
 
 
写真3 舞台となるホテルに向かうシーン。上は本作,下は1990年公開作。
 
 
 
 
 
写真4 写真3(上)のホテルは,たったこれだけ実物を作って,後はCGで加筆
 
 
 
 
 
写真5 魔女たちの集会を覗き見して,こんな目に
 
 
  ■ 魔法でネズミに変身させられる少年はルーク君だけでなく,友人も含めた3人だ。この3匹という数が演出上都合がいいのだろう。子ネズミたちの表情も動きも素晴らしい(写真6)。ネズミのCG描写は『スチュアート・リトル』(00年6月号) 以来,数えられないほど存在する。本作では当然MoCapを使って人間の演技を取り入れているだろうが,擬人化し過ぎず,動物としてのネズミの愛らしさも残している。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 3匹のネズミたちの演技力に圧倒される
(C)2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
 
 
  ■スープを飲ませた後,魔女たちもネズミに変身する大騒動のクライマックス・シーンの演出が絶品だ。さすがメジャー系の大作だけのことはある。祖母の家に戻ってからネズミたちが戯れるジェットコースター(90年版は鉄道模型)のデザインも,CGならではの出来映えだ。本作のVFXはMethod Studiosほぼ1社が担当している。といった評価で,ゼメキス監督の名声は傷つけないものの,VFX史に残る作品ではない。
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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