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O plus E誌 1999年10月号掲載
 
 
『ホーンティング』
(ドリームワークス映画/UIP配給)
 
       
      (1999/8/20 イマジカ試写室)  
         
     
   SIGGRAPH99のSketches & Applicationsのアニメーション部門でメイキングが紹介されていた作品である。同じセッションでは,『ハムナプトラ 失われた砂漠の都』(原題:Mummy)も取り上げられ,ミイラと幽霊のホラー・シリーズだったのだが,別のパネルを聞いていたのでこれには参加できなかった。
 配給会社のパンフレットには,ヤン・デ・ボン(畳み掛ける演出)+ILM(最高の視覚効果 )+サラウンドEX(『エピソード1』で開発された音響システム)と謳ってあったが,ILMはVFXのわずかな部分担当に過ぎない。主担当はフィル・ティペット率いるティペット・スタジオで,既に『スターシップ・トルーパーズ』でも高い評価を受けている。ストップモーションの達人フィル・ティペットは,『スターウォーズ/ジェダイの復讐』『ジュラシック・パーク』等のILM作品にも参加しているので縁は浅くないのだが,宣伝用なら何でもILMの名を出そうというのは一般観客を馬鹿にしている。
 この種のホラー作品というのはどうも好きになれず,自分で入場料を払って劇場に行くことはない。それでも,『スピード』『ツイスター』のヤン・デ・ボン監督,主演は『スターウォーズ エピソード1/ファントムメナス』でクァイ=ガン・ジンを演じたリーアム・ニーソンと,『マスク・オブ・ゾロ』『エントラップメント』で売り出し中の美女キャサリン・ゼタ=ジョーンズというので,少しは期待した。実際にはこの2人は脇役で,ヒロインは容色ではぐっと落ちるリリ・テイラーであった。ま,ホラー映画の主役はこんなところだろう。
 ゼタ=ジョーンズはさすがにキレイだったが,『エントラップメント』でショーン・コネリーのお株を奪った魅力は引き出せていない。リーアム・ニーソン演じる博士も存在感は薄い。人物が描けてないと酷評された『エピソード1』のクァイ=ガン・ジン役の方が存在感はずっと大きかった。この博士がやろうとした恐怖体験の実験とやらもよく分からない。本当の主役は呪われた家ヒル・ハウスである。ただひたすら怖ければホラー映画の目的は達するのだろうが,もうちょっと驚かして怖がらせてもいいのにと思うレベルに留まっていた。
 SFXの見所は2ヶ所あった。ヒロインが鏡に向かって髪を梳かす場面で,急に髪が盛り上がって三つ編み状にねじれるカットである。本物の髪とCGの髪のつなぎが見事であった。頭の形をスプライン表現し,髪を重ねる手法を使っている。梳かしたり,束ねたり,ねじったりは,かなり高度なテクニックである。予備知識なしにはまずCGとは分かるまい。かつてCG表現が困難とされた雲,煙,炎,波等が当り前に使われるようになり,髪の毛や衣の扱いが次なるターゲットになってきている。
 もう1つのハイライトは,子供の霊が窓からめくれ上がるカーテンに浮かび上がり,ベッドに移ってサテン地のシーツの中を足元から枕まで移動するシーンである。姿がもっこり盛り上がり,クネクネと動き回る様子は,キーフレーム・アニメーションとパペットの併用であるという。素人目にも,まだ幾分動きの不自然さが感じられただろうが,擬似レイトレーシング法によるシーツの陰影の材質感はよく出ていたと思う。
 この2つのシーンは,ストーリー的には必然ではないが,視覚効果の意欲は買える。こうしたチャレンジを盛り込むことで,技術的にも進歩があるのだろう。残念なのは,この種のCGシーンは全くスチル写真用に配られなかったことである。
 どちらも短いカットだったので,CG利用がもっと有っても良いのにと思っていたら,後半のクライマックスはVFXのオンパレードであった。壁の中から姿・形が飛び出したり,彫像が動いたり,ゴーストが跳び廻ったりする。この種のCG映像,ディジタル処理はオカルト,ホラーにはもってこいである。暗いシーンは合成にも都合よい。分量的には十分であったが,映像としての新しさは感じなかった。やたら騒々しいだけで,ちっとも怖くなかった。亡霊はアクション映画風の畳み掛けよりも,ヒチコック風のじらす恐怖の方がずっと凄味が出ると思う。
 視覚効果よりも,ヒル・ハウスそのものの造形や音響効果の方がずっと優れていた。ヴィクトリア朝の大きな館の外観も内装も十分不気味であるし,映画の前半で建物の中を巡るシーンでは音響効果を伴って何が出てくるのか恐怖心を駆り立ててくれる。THXサウンドを配したイマジカの試写室の音響効果は本格的劇場並みで,音像転位も下から突き上げる振動もかなりの迫力があった。
 この映画はホームビデオで見たのではつまらない。冷房の思いっきり利いた劇場で観ることをお薦めする。
 
  (Dr. SPIDER)  
   
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