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O plus E誌 2000年9月号掲載
 
 
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『U-571』
(ユニバーサル映画
/ギャガ・ヒューマックス配給)
 
       
      (7/14 ギャガ試写室)  
         
     
  視覚効果も音響効果も良質  
 
 題名からは,ドイツ映画の名作『U・ボート』(81)の続編かと思わせるが,SFXを多用し製作費120億円を投じたハリウッド映画の新作である。潜水艦ものとしては,冷戦終結前後の『レッド・オクトーバーを追え!』『クリムゾン・タイド』のヒットが記憶に新しい。第2次大戦を舞台にしたこの『U-571』は,これらを超える潜水艦映画の傑作として残るに違いない。
 主演は『評決のとき』『コンタクト』のマシュー・マコノヒー。この作品が代表作となるだろう。共演は『ツイスター』『シンプル・プラン』のビル・パクストン。個性派のハーベイ・カイテルやデビッド・キースの他に,人気ロックグループ「ボン・ジョヴィ」のリードボーカル,ジョン・ボン・ジョヴィも潜水艦士官として出演している。
 監督・共同脚本は,『ブレーキ・ダウン』(97)でデビューしたジョナサン・モストウ。とても2作目とは思えない実に巧みな演出である。シンプルなストーリーなのに,ぐいぐい引っ張って行く魅力がある。ドキュメンタリー出身だけに,こういう戦争ものは肌が合うのだろうか。
 1942年4月,第2次世界大戦下の北大西洋戦線で,ドイツ軍の誇る高性能潜水艦Uボートが連合国海軍に大きな被害を与えていた。戦闘で故障し停泊中にU-571に対して,米海軍は旧式巡洋潜水艦S-33で味方を装い,U-571艦内にあるエニグマ暗号器を奪い取る作戦を展開する。偽装奇襲作戦で暗号器奪取には成功したものの,独軍潜水艦の攻撃でS-33は撃沈される。艦長を失った乗組員たちは,止むなく不調のU-571を操舵して,独軍潜水艦や駆逐艦と戦う。
 あらすじでは面白そうに聞こえないが,実は緊迫感溢れる展開で全く飽きさせない。戦争映画というより,良質のサスペンス・アドベンチャーだ。潜水艦という密室が生む緊張感が,名作を次々と生む要因となっているのだろう。
 映画の出来が良すぎたからか,イギリスからクレームがついた。Uボート拿捕やエニグマ暗号器回収は英国軍の英雄的行為であり,米国は自分の手柄にすり替えたという抗議である。英国議会で問題になり,ブレア首相までが抗議声明を出したとか。もっとも,モデルとなった英海軍兵士はこの映画の撮影に積極的に協力したというから,映画産業で歯が立たない老大国のひがみとしか受け取れない。
 SFXには,Cinesite,Illusion Arts,Pacific Ocean Post等,複数社が参加している。とくに斬新な技法ではないが,ミニチュア製作,水中撮影,CG利用,ディジタル合成等,多彩な効果を丁寧に使っている。実物大の潜水艦2つが入る大きな水槽での撮影(写真)と外洋での撮影もうまく使い分けられている。その切り替えにあまり違和感を感じないのは,ライティングや後処理が優れているからだろう。撮影監督のオリバー・ウッドや美術監督のウィリアム・ラッド・スキナーの仕事もハイレベルだ。
 視覚効果もさることながら,音響効果も優れていた。投下爆雷の爆発で起こる艦の軋み音,魚雷発射音,水中爆発音など,効果音もミキシング技術も一流技術の存在感をアピールしていた。
 表現力が向上すると,脚本も変わらざるを得ず,観客の好みも変わって行く。脚本,撮影,美術,音楽,視覚効果,音響効果…,いずれも層が厚いから,世界中の観客の最大公約数を満足させられる題材と料理法を自在に選ぶことができる。この『U-571』も,そんなハリウッドの実力を感じさせる映画である。
 
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  わくわくする戦闘シーン  
 
予想していたより,ずっと面白かったです。余計な逸話が挿入されてないのがいいですね。
普通は,陸にいる両親や子供を登場させて家族愛を謳ったり,艦内での微妙な人間関係を描いたりで味付けしますね。
そういうベタベタしたところや押し付けがましい主張がなく,スッキリしています。
この機会に『U・ボート』を見てみたら,むしろ人間性を中心に描いていました。Uボートの艦内の紹介も丁寧で,潜水艦生活入門のような感じです(笑)。
私も見たんですが,丁寧すぎて随分テンポが遅く感じました。
ハリウッド・アクションのペースに慣らされたんですよ(笑)。『U・ボート』は,じりじりするような密室での時間の経過を描いてあるのだという説もあります。
潜水艦は,当時最新のUボートでもこんな程度だったのかと思いました。当時の装備を忠実に再現できるのも,生き証人がいるうちですね。
最新の原子力潜水艦と比べちゃ駄目ですよ。このU-571は,水中排水量871トン,全長67.1m×全幅6.2mなのに,現在の原潜のタイフーン級は,26,500トン,171.5m×24.6m,オハイオ級は,18,750トン,170.7m×12.8mですから,相当大きくなっています。アクティブ・ソナーは性能を増し,魚雷には超音波自動追尾機能が備わり,そして水中からの弾道ミサイル攻撃が可能になったことから,地上・海上兵力に対する潜水艦の持つ戦略的意味が変わってしまったんです。
随分,潜水艦事情に詳しいんですね。
劇画の『沈黙の艦隊』*で勉強したんです(笑)。
私も少し読んだことがありますが,面白いですね。全部持っているんですか?
全32巻揃ってますよ(笑)。『沈黙の艦隊』ファンは,この『U-571』も好きでしょう。能力は違うとはいえ,水中戦闘シーンはワクワクしますからね。
『U・ボート』も特撮を使っていたのでしょうが,波も船もミニチュア・スケールで,時代を感じてしまいました。
『U-571』は,海上シーンも水中シーンもスケール感,緊迫感が違いますね。技術の進歩が,映画のリアリティを向上させています。
撮影に使った実物大の潜水艦とやらは,自走できないでしょうから,航行シーンは皆何らかのトリックですね。水中シーンは,動ける模型かCGということですか?
水中は模型をワイヤーで引っ張って,それを消すという手があります。この種の映画では,本当に水中撮影するのでなく,スモークを炊いて水中らしく見せることが多いのです。その場合,潜水艦を動かすのでなく,カメラ側を移動すれば済むことです。今はディジタル処理により,泡や渦なども描き加えるのが楽になりました。
なるほどー。約20年間の技術進歩は十分感じられました。でも,S-33の炎上シーンは見事だったのに,駆逐艦の撃沈シーンだけはチャチでしたね。
そう,あの部分は下手くそで,減点対象だなぁ。S-33は実物大なのに対して,駆逐艦は模型で背景は合成しているのでしょう。ミニチュアのサイズをケチって,小さくし過ぎたからだと思います.『グラディエーター』(7月号)もマット画で減点したので,じゃ,この映画の評価もからにと。
えー,下げなくたっていいですよ。全体として,それほどの欠点じゃありません.マシュー・マコノヒーもカッコ良かったし(笑)。
では,物言いがつきまして,検査役の協議の結果,行司差違えでということにいたします(笑)。
 
     
  * 沈黙の艦隊  
  1988〜1996年コミック誌「週刊モーニング」(講談社)に連載された劇画。作者は,かわぐちかいじ。日米で秘密裏に共同開発した最新原子力潜水艦が,独立国家「やまと」を宣言し,核抑止力と国防論議を巻き起こす物語。原潜に関する緻密な取材と大胆な戦闘場面の描写で人気を博した。  
   
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