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O plus E誌 2020年5・6月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   大半が「公開延期」になっているが,休業要請が緩和されると一気に上映枠を取り合うラッシュになると思われるので,既に観た待機作品は掲載しておこう。2~4作目は5月14日現在,まだ公開予定日が案内されている映画で,5作目以降が「延期」扱いである。
 『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』:Netflixオリジナル映画でコメディに分類されているが,おバカ映画ではなく,知的で切ない青春ラブストーリーである。主人公は,5歳で中国から米国に移住した女子高生のエリー・チュー(リーア・ルイス)。成績優秀で,級友たちのレポート代書をバイトにしている。ある日,男子高生のポールからラブレターの代筆を頼まれ,憧れのアスターに美文を送り続ける…。男子1人に女性2人の三角関係となるが,女性同士の恋の駆け引きではない。LGBT映画だと言えば,察しがつくだろうか。文学者,哲学者の言葉が頻出するハイレベルな内容で,英語が苦手な工学博士の父親が観ている映画も名作揃いだ。視聴者の知的レベルも試されている。登場人物は,この父娘だけがアジア系という完全な白人社会だ。主人公には屈折感もあり,少し自虐的なのは,アリス・ウー監督自身の実体験が投影されているからだろうか?
 『15年後のラブソング』:英国人作家ニック・ホーンビィの同名小説の映画化作品で,「大人になり切れない」男女3人のラブコメディであり,ロック・ファンのための音楽映画でもある。舞台は英国の地方都市サンドクリフで,30代の後半女性アニー(ローズ・バーン)と腐れ縁の恋人ダンカン(クリス・オダウド)は,何となく15年間も同棲している。ダンカンは90年代に活躍したロックスター,タッカー・クロウ(イーサン・ホーク)に心酔する根っからのオタクだが,伝説の名盤の「デモ音源」が見つかり,その評価を巡って2人は対立する。そしてある日,アニーに届いたメールの送り主がタッカー本人で,2人が急接近することから,奇妙な三角関係が始まる…。憎めないダメ男タッカーは,まさにE・ホークのハマり役だ。1964年の音楽シーンを再現する地元民の集いも,全編で流れる90年代オルタナ・ロックの数々のナンバーも,音楽ファンの胸を打つ。
 『ワイルド・ローズ』:次も音楽映画で,カントリー・シンガーとしての成功を夢見る女性を描いている。単なるプロ歌手での成功物語ではない。少し珍しいのは,英国グラスゴーの地で,米国流カントリーを志向していること。もっと驚くのは,23歳で2人の子供をもつシングル・マザーで,麻薬取引で収監され,保護観察中だという点だ。米国に渡り,カントリーの聖地ナッシュビルで成功することが,彼女の人生の目標である。子供を選ぶか,歌手になる夢を選ぶかが,本作のテーマだ。主演は,英国の若手女優のジェシー・バックリー。『ジュディ 虹の彼方に』(19)ではJ・ガーランドのマネージャー役だったが,本作では主役に抜擢され,自ら歌っている。前半は,荒んだ性格の反抗的な女性で眉をひそめたくなるが,次第に彼女の真摯な態度に魅せられ,思わず応援したくなる。母親が彼女を諭すシーンが絶品だった。少し意外な結末にも拍手を送りたくなる。
 『バルーン 奇蹟の脱出飛行』:緊迫感という意味では,今年観た中では一番面白かった。東西冷戦下の1979年,熱気球で東独から西独への脱出に成功した2家族の物語である。1982年にディズニー映画として製作されたが,リメイク権を得ての再映画化だ。出演者は全員ドイツ人,会話がドイツ語なので安心する。これが英語じゃ興醒めだ。実話で亡命に成功したことは分かっているのに,最後まで手に汗握る展開で,2時間余が短く感じられた。技術者ならではの熱気球の設計,家族総動員での材料の調達と縫製にドイツ人魂を感じる。家族の絆を描いていても,ハリウッド映画のようなベタベタした感じでないのがいい。実物大の気球を作って撮影したというが,闇の中での気球の飛行はCG/VFXの産物だろう。単純なのに,緊迫感を煽る効果音が秀逸だ。東独の社会制度はすべて悪として描かれているが,当時の国民は今この映画をどういう思いで観るのだろう?
 『デンジャー・クロース 極限着弾』:ベトナム戦争で,108名の豪州軍中隊が約2千名のベトコン兵と戦った戦争映画である。1966年8月18日の数時間にわたる激闘で,「ロングタンの戦い」と呼ばれているそうだ。軍事同盟によりオーストラリアやニュージーランドが参戦していたことは知らなかった(韓国の参加は知っていたが)。徴集兵中心で士気が上がらず,これじゃベトコンに撹乱されるのも納得が行く。ベトナム戦争ものは,米国映画で多数存在するが,名作の『ディア・ハンター』(78)『地獄の黙示録』(79)や社会派の『プラトーン』(86)『フルメタル・ジャケット』(87)等とはだいぶ印象が違う。戦争礼賛ではないが,無線連絡での砲撃,補給の弾薬投下等,戦場,戦闘の模様がリアルに描かれている。砲弾,銃撃,ヘリ等,CG/VFXでの描写も随所に登場する。兵士の制式銃はアーマライトM-16。「ゴルゴ13」で見慣れた銃ゆえ,何か懐かしい思いがした。
 『ライブリポート』:乱暴者の警官が主人公というのは定番の1つだが,誘拐事件の捜索の模様をライブ中継しているというのがミソである。原題は『Line of Duty』なのに,上手い邦題をつけたものだ。冒頭から,熱汗握るノンストップ・アクションが炸裂する。誘拐された少女の死まで64分間という時間期限が登場し,その後の物語が同時刻進行する。この手法は何度かあったが,それが全てネット生配信されているというのが現代風アレンジだ。主演の警官ペニー役はアーロン・エッカート,熱血女性リポーターのエイヴァは豪州生まれのコートニー・イートンが演じている。アイディアは悪くないが,ツッコミどころが沢山ある。かなりの危険が迫っているのにライブ中継を続けたり,1人の少女を救うために何人もの警官が殉職するのは,いくら映画でも不自然で,納得できない。昼間,どうやって人目を避けて水槽を墓地に埋めたのかも不思議だった。
 『イップ・マン 完結』:人気シリーズの4作目にして,完結編である。主人公は,詠春拳の達人・葉問(イップ・マン)で,ブルース・リーの師匠として知られている。当欄で紹介した『グランド・マスター』(13年6月号)ではトニー・レオンが演じていたが,本シリーズの方が圧倒的に出来が良い。小柄で細身のドニー・イェンは,まさにハマり役で,上品な葉問に似合っている。食わず嫌いの読者には,ネット配信で前3作を一気視聴することを勧めたい。本作の舞台は,1964年のサンフランシスコだ。ブルース・リーの招きで渡米し,息子の進学先を探す。そこで遭遇する地元の中国人社会との軋轢,アジア人を差別する米軍の空手武官との諍い等が描れている。勿論,カンフー試合はしっかり含まれていて,完結編に相応しい。シリーズ中で同じパターンばかりとも言えるが,やはり嬉しくなってくる。ブルース・リー役は,チャン・クォックワン。チャウ・シンチー監督に抜擢された『少林サッカー』(01)のゴールキーパー役の男優だ。3作目ではイップ・マンへの弟子入り時に少し顔を見せただけだが,本作ではサービス精神でたっぷり登場させ,そっくりさん演技で笑わせてくれる。
 『オフィシャル・シークレット』:キーラ・ナイトレイ主演の社会派映画で,いきなり法廷シーンで始まるが,法廷劇ではない。話は1年前に遡る。2003年の米軍のイラク侵攻に関する情報操作,盗聴に関して大統領府の行動を告発する物語となっている。世界中の大半が,大量破壊兵器の存在や強引な理由付けを疑わしく思っていたが,その裏でこんなことがあったとはと驚き,呆れる。キーラの役どころは,英国の諜報機関GCHQの職員キャサリン・ガンで,米国国家安全保障局NSAからの違法な工作活動の要請に憤り,マスコミの情報をリークする……。いつもより美しさは減り,少し暗めの設定だが,きりりとした強い女性であることは同じだ。こういう役もよく似合う。物語展開に面白みは少ないが,そこそこ緊迫感をもたせた演出だ。監督は,南アフリカ出身のギャヴィン・フッド。弁護士役の名優レイフ・ファインズの渋さが,この映画を引き立てていた。
 『燃えよ剣』:言うまでもなく,司馬遼太郎が新撰組副長・土方歳三の生涯を描いた名作の映画化だ。原田眞人監督・脚本,岡田准一主演は,『関ヶ原』(17)からの再タッグだが,知将・石田三成よりも喧嘩師・土方歳三の方がずっと似合っている。骨太の原田時代劇に彼を起用しただけで,本作の成功は決まっていたと言える。原作をかなり忠実になぞっているのに,司馬史劇だと感じさせない。抜群のビジュアル,徹底した本物指向とスペクタクルで,原田ワールドが炸裂する。近藤勇=鈴木亮平,沖田総司=山田涼介のキャスティングも,柴咲コウとのラブシーンも良かった。前半は『関ヶ原』と同様,テンポが速すぎて,各シーンをじっくり味わえなかった。黒澤明張りの外人を意識した絵作りで,ハリウッド映画かと感じてしまう。芹沢鴨暗殺,池田屋事件,油小路事件等の見せ場を迫力ある殺陣で見せてくれる。池田屋はオープンセットらしいが,その他のロケ場所の選定に感心する。オープニング・シーンの絵柄が何だか分からなかったが,最後に分かる。洒落た見せ方だ。
 『朝が来る』:河瀨直美監督作品を観るのは5本目だが,当欄では『2つ目の窓』(14年8月号)『』(17年6月号)に続く3本目だ。いつもは監督自身のオリジナル脚本なのに,珍しく原作がある。直木賞作家・辻村深月の同名小説で,先にTVドラマ化されている。今年4月から条件緩和された「特別養子縁組制度」がテーマで,養父母と実の母親の両方の視点から描かれている。原作はミステリーであり,社会派作品であるのに,芸術性を持たせたがるのが,この監督の悪い癖だ。分かりにくくはないが,相変わらず冗長で,2時間20分も要らない。ビジュアルに拘り,やたらと光を使いたがるのも定番だが,上記の2作と同様,ラストの描き方は悪くなかった。養母の永作博美が主役で,彼女の演技力が光っていた。養母と言えば,『八日目の蝉』(11)の野々宮希和子役を思い出すが,あの不幸な結末でなく,今度は良かったねと言葉をかけたくなった。
 
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